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メモ【東京第五検察審査会議決に関するメディア社説等】
◉ 朝日新聞 2015年8月1日(土)
記事 東電元会長ら起訴議決、理由要旨
東京第五検察審査会が東電の勝俣恒久元会長ら3人を「起訴すべき
だ」と判断した議決理由の要旨は次の通り。
【当時の知見】政府機関の地震調査研究推進本部は2002年7月、三陸
沖北部から房総沖でマグニチュード8.2前後の津波地震が発生する可能
性があるという長期評価を公表した。原子力安全委員会は06年9月、耐
震設計審査の指針を改定。これを受け、原子力安全・保安院は電力会
社に安全性の点検を求めた。
東京電力は長期評価に基づき津波を試算すると、その時点の想定水
位を大幅に上回り、福島第一原発の安全性を疑問視されて運転停止に
伴う収支悪化を招くとの危惧があった。長期評価の取り扱いを検討後、
07年12月には取り込む方針で進め、08年3月に津波は最大15.7メートル
と試算された。この想定では福島第一原発のタービン建屋を大きく超
え、浸水は明らかだった。
武藤栄・元副社長は同年7月、長期評価は取り入れず、土木学会の評
価技術で点検するよう指示。その方針は保安院などの了解もおおむね得
られた。
【津波や原発事故は予見できたか】原発事故が重大、過酷事故に発展する危険性があることを鑑み、設計時は当初の想定を大きく上回る災害が発生する可能性まで考え、備えておかなければならない。これは、原発に関わる責任ある地位の者の重要な責務だ。
さらに、原発の浸水事故が電源喪失を招く危険性があることは、91年の福島第一原発事故、07年の柏崎刈羽原発原発事故で東電も経験している。電源喪失は原発の炉心損傷、建屋の爆発を経て、放射性物質の大量排出という重大で、過酷な事故を招く危険性がある。
科学的知見から、大規模な津波地震が発生する可能性が示されている以上、考慮しなければならないのは当然。当時の東電で試算結果を認識する者は、福島第一原発を大きく超える巨大津波が発生し、最悪の場合、重大で過酷な事故につながる具体的な予見可能性があった。
勝俣元会長ら3人は安全対策の実質的判断を行う権限を持ち、福島第一原発の重大事故の発生を未然に防ぐ義務があった。最大15.7メートルの津波の試算後、3人が出席する地震対応の打ち合わせは何回もあり、試算結果が報告されていたことは強く推認される。3人は重大、過酷事故が発生する具体的な予見可能性があった。
【結果を回避できたか、その義務はあったか】自然災害はいつ、どこで、どのように発生するか確実に予測できず、原発の安全性については、「万が一にも」「まれではあるが」発生する津波による災害にも備えなければならない。適切な津波対策を検討する間だけでも、福島第一原発の運転停止など、あらゆる結果回避措置を講じるべきだった。仮に停止していれば、11年3月11日の地震による重大事故は回避できた。
運転を停止して安全対策を検討したら、余裕のある対策も講じられた。福島第一原発は特に古く、日本で津波に対する余裕が最も少ない。06年10月の保安院のヒアリングでも問題提起されており、08年6月、武藤元副社長には防潮堤の設置の必要性が説明されていた。浸水を前提にした津波対策も検討する余地があったのに、マニュアルはなかった。
結局、適切な安全対策が講じられていれば、今回のような重大、過酷事故は十分回避できた。3人には結果回避可能性があり、結果回避義務が認められる。
検察官は、電気の安定供給に支障が生じるなどとして、原発に関わる責任ある者の行動として、運転は停止できなかったと考えているようだ。しかし、検察官の考えは何の説得力も感じられない。
運転停止などの対策ができなかったとの主張は、人類の種の保存にも悪影響を及ぼしかねない事柄の重大さを忘れた誤った考えだ。地震を振り返って思うのは、安全対策より経済合理性を優先させ、災害発生の可能性に目をつぶり、何ら効果的な対策を講じようとしなかった3人の姿勢について、適正な法的評価を下すべきではないか、ということだ。
◉ 朝日新聞 2015年8月1日(土)
社説:原発事故起訴―新たな検証の機会に
膨大な犠牲と悲劇を生んだ東京電力の福島第一原発事故。その東電元幹部の刑事責任が裁判で問われることになった。
検察審査会が再び「起訴すべきだ」と議決し、強制起訴される見通しだ。入院中に被災し避難中に死亡した人たちなどへの過失が問題とされている。
国会の事故調査報告書は「事故が『人災』であることは明らか」としている。だが、これまで政府や東電関係者で、政治的、行政的であれ、処分を受けた人はなく、だれも責任はとっていない。
「あれだけの事故なのに正義が尽くされていない」「免罪されれば、同様のことが繰り返されるのではないか」。起訴を求める議決が重なったのは、そんな市民の釈然としない思いの反映と受け止めるべきだろう。
強制起訴制度は09年、裁判員制度と併せて導入された。検察はそれまで、起訴するかどうかの権限を独占していたが、それを改め、一定程度、民意を反映させるしくみにした。
検察が「過失責任は認めがたい」として避けた起訴を、あえて市民の判断で行い、個人を被告席に立たせる行為は軽いものではない。裁判では当然、元幹部の責任を証拠に照らして冷静に検討しなくてはならない。
同時に、東電の津波対策や安全配慮がどのように行われてきたのかは避けられない問いだ。政府や国会などの事故調査報告書とは異なる視点で事故を検証する好機になるだろう。
事故後、関係者が公の場で肉声を伝える機会は少なかったが、法廷では直接話すこともあろうし、裁判所が証拠の提出を命じることもできる。
原発の安全対策をめぐる電力会社の判断の推移や、政府など公的機関のかかわりなど、これまでに埋もれた事実も付随して明らかになれば、今後の国民議論にも大いに役立つ。
司法が原発について判断してきた歴史は浅くないが、原発の建設・運転をめぐる訴訟のほとんどは反対住民の敗訴で終わっていた。
そこに、国策に基づく原発の稼働は止められない流れ、という意識が潜んでいなかったか。司法の姿勢も、原発事故後、厳しく問われている。
前例のない被害をうんだ福島第一原発事故の刑事責任を考えるとき、具体的な予見可能性といった従来の判断基準を用いることで足りるのか。今回の裁判を契機に、司法関係者も議論を深めていくべきだろう。
司法への国民の信頼にたえる審理を進めてほしい。
◉ 読売新聞 2015年8月1日(土)
社説:東電「強制起訴」 高度な注意義務求めた検察審
未曽有の自然災害が原因でも、事故の防止策を十分に講じなかった刑事責任を経営陣は問われるべきだ。それが市民で構成する検察審査会の判断なのだろう。
東京電力福島第一原子力発電所の事故を巡り、検察審査会は、検察が不起訴とした勝俣恒久元会長ら当時の経営陣3人を、業務上過失致死傷罪で起訴すべきだとする2度目の議決をした。
これにより、3人は強制起訴され、裁判が開かれる。
勝俣元会長らは、必要な安全対策を取らないまま、漫然と原発の稼働を継続させた結果、東日本大震災の津波により、炉心損傷などの重大事故を発生させた。検察審は議決で指弾した。
確かに、東電は安全神話にとらわれていた。結果的に放射性物質を拡散させ、社会・経済に深刻な打撃を与えた責任は免れない。
ただし、刑法上、刑事責任の対象は企業ではなく、あくまで個人だ。業務上過失致死傷罪を適用するには、漠然とした危機感にとどまらず、具体的な危険を認識しながら、明白な過失を犯していたことを立証する必要がある。
検察審は「原子力発電に関わる責任ある地位の者は、重大事故を引き起こす津波が『万が一にも』発生する場合まで考慮して備える責務がある」と指摘した。
電力会社の役員には、通常よりも高度な注意義務があるという検察審の見方が表れている。
東電は2008年、政府機関の分析を踏まえ、襲来する津波の高さを15メートル超と試算した。検察審はこの点を、元会長らに予見可能性があったことの根拠に挙げた。
だが、検察は専門家の聴取結果から、政府機関の分析は信頼度が低く、当時、巨大津波が発生する現実的可能性を認識するのは難しかったと結論づけていた。
過失の有無の判断では、原発事故が起きる前の科学的知見などを前提として、元会長らが職務上、明白な危険を放置していたかどうかがポイントになる。検察審は、こうした観点からの議論を十分に尽くしたのだろうか。
裁判所には、証拠に照らした慎重な審理を望みたい。
何より大事なのは、事故の教訓を再発防止につなげることだ。
事故後、原発の規制基準は厳格化された。原子力規制委員会は新たな基準に基づき、各地の原発の再稼働に必要な安全審査を進めている。電力会社がリスク管理を徹底し、原発の安全性を高めることが肝要である。
◉ 毎日新聞 2015年8月1日(土)
社説:東電元幹部起訴へ 裁判で問う意味はある
甚大な原発事故を防ぐ手立てを尽くさなかった東京電力元幹部の責任は、刑事事件の法廷で問われるべきだ。福島第1原発事故をめぐり、検察審査会が出した結論である。
市民から成る審査員11人が「起訴すべきだ」と判断した。2度目の議決により、勝俣恒久元会長と武藤栄、武黒一郎両元副社長の3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴される。
事故の3年前の2008年の時点で、最大15.7メートルの津波が発生するとの試算が出され、3氏はその事実を知ったのに責任者として適切な対応を取らず、重大事故を未然に防止する注意義務を怠った−−。それが起訴議決の理由だ。
そうした結論に至った理由として、原発事故がひとたび起これば、重大、過酷なものになる危険性に議決書は何度も言及している。その考え方は理解できる。
議決書は、原発を動かすに当たり、コストよりも安全対策を第一とすべきだと指摘する。海外での原発事故も例にひき、「万が一にも」「まれではあるが」津波が発生した場合に備えるべきだったと強調した。
とはいえ、個人の刑事責任を問う業務上過失事件の立証に当たっては、「予見できたか」と「回避できたか」が焦点になる。議決書はまず、原発を動かす東電のトップにいた3人の責任を重くとらえた。さらに、3人は立場上、従来の想定を超える津波高の試算について報告を受けていたと認定した。ならば、対策がとれたはずだったと結論づけた。
3人を不起訴処分にした検察は、試算の精度から「3人が具体的に危険を予見できたとはいえない」と判断したが、議決は「何の説得力も感じられない」と厳しく批判した。
刑事責任の有無は今後の裁判に委ねられる。ただし、「罪を問うべきだ」と、市民たちが2度にわたり結論づけた意味は重い。
政府や国会の事故調査委員会が解散し、継続して原因究明を求める声に応えないまま年月が経過する。
東電関係者の証言なども一部が公開されたに過ぎない。「なぜ、事故は防げなかったのか」。多くの被災者が今も疑問を抱いている。
3人の公判は事故の原因究明を目的とする場ではないが、証言を通じ被災者の疑問が少しでも明らかになることが期待できる。経営トップだった3人は、東電の中で自らが果たした役割を真摯(しんし)に語ってもらいたい。
議決は、原発事故に伴う長時間の避難で死亡した入院患者関係者ら福島の被災者の告訴によるものだ。患者は被害者と認定された。多くの被災者が公判を注視する。公判を維持する検察官役の指定弁護士の責任は重い。検察の協力も欠かせない。
◉ 産経新聞 2015年8月1日(土)
【主張】東電原発事故 強制起訴には違和感残る
東京電力福島第1原発の事故をめぐり、勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴される。
市民団体による告訴・告発を受けて東京地検が不起訴とした事案で、東京第5検察審査会が起訴すべきだと2度目の議決をした。
国民から選ばれた検察審査員11人中、8人以上が刑事責任を認めた判断ではあるが、旧経営陣に現実的でない津波対策を求めるなど、「ゼロリスク」を過大に追求しており、議決内容には違和感が残る。
公判には、原発の安全対策についての冷静な審理を求めたい。
元会長らは、原発事故により負傷した東電関係者や、避難中の患者が衰弱死したことなどに責任があり、業務上過失致死傷罪にあたるとされた。
業務上の過失で引き起こされた事件・事故について、警察や検察は予見性、因果関係、責任の所在などについて厳格に判断する。
元会長らを不起訴とした東京地検は、事故の発生前に東日本大震災と同規模の地震や津波が起きることは専門家も想定していなかったなどと慎重に判断した。
これに対し今回の議決は、津波による電源喪失で起きた原発事故について、「万が一にも」「まれではあるが」などの言葉を駆使して、極めて高度な注意義務を経営陣に求めたものだ。
リスクは一切あってはならないという原発事故後の「ゼロリスク論」に沿った判断ともいえる。自然災害による被害について、個人に対する責任追及がふさわしいかについても、疑問はある。
今後開かれる公判は、応報的な側面よりも、今後の原発の安全性を高めることに寄与するものであってほしい。
旧来の検察審査会制度は議決に法的拘束力がなく、参考意見にとどまった。だが司法改革の一環で、より民意を反映するよう、権限が強化された。
しかし、JR西日本の福知山線脱線事故で歴代3社長が強制起訴されたが無罪となるなど、注目事件での無罪が相次いでいる。
10割の有罪を目指す検察官による起訴と、「公判で黒白をつける」とする検審による強制起訴とは明らかに基準が異なる。「二重基準」を社会として受容するのか、制度の見直しを図るのか。今後の大きな課題でもある。
◉ 東京新聞 2015年8月1日(土)
【社説】フクシマは“人災”か 東電元幹部を強制起訴へ
福島第一原発事故は東京電力が津波対策を怠ったため起きた-。それが検察審査会の結論だった。“人災”だったのか、公の裁判の場で決着をつけたい。
自然現象に不確実性はある。しかし、原発事故という大災害を招きかねないケースにおいては、「万が一」の事態も事前に想定しておかねばならない。
11人の市民で構成する東京第五検察審査会は、そのような極めて常識的な立場にたって、福島第一原発事故を検討したといえよう。検察が「不起訴」判断だったのに、東電元幹部らに刑事責任が問えると、ぎりぎりの判断をしたのも、そうした常識観の反映だとみることができる。
◆大津波の試算があった
もちろん、「想定外」の事態を扱う場合、その安全対策をどこまで考えておけばいいのか、どのような具体的な条件設定をすればいいのか、難しいポイントは数々ある。検察審査会の市民が重視したのは政府の地震調査研究推進本部の長期評価である。
2002年の段階で、マグニチュード(M)8.2クラスの津波地震が発生する可能性があると指摘されていた。08年の段階では、長期評価を用い、東電側で明治三陸地震をモデルに試算すると、15.7メートルもの大津波が押し寄せる-。そんな結果も出していた。巨大津波が来れば、原発は水に覆われてしまう。
「10メートルの敷地高を超える津波がひとたび来襲した場合には、電源喪失による重大事故が発生する可能性があることは、そのとき既に明らかになっていた」
検察審査会の議決書では、そう記している。東電元幹部の刑事責任を問うには、まず注意義務違反があったかどうか、重大な事故となる予見可能性があったかどうか、などが焦点になる。市民の感覚は、そのいずれも「あった」と断じるものだった。
◆安全だと「思い込み」が
そもそも15.7メートルもの大津波が来るという重大な指摘があったのに、東電側はまるで時間稼ぎをするかのように土木学会に検討を委ね、対策を先送りしていた。
その点について、検察審査会は「最悪の場合、原発の運転を停止せざるを得ない事態に至り、東電の収支を悪化させることを危惧した」と述べている。
東電は津波によって非常用海水ポンプが機能を失い、炉心損傷に至る危険性があることや、全電源喪失の危険性があることも分かっていたのではなかろうか。
「検察審査会は素人判断だ」などと侮ってはならない。国際原子力機関(IAEA)が作成した福島第一原発事故の最終報告書でも、巨大地震や大津波は「想定外」とする東電と国の主張を真っ向から否定しているからだ。
その報告書では、「『日本の原発は安全』との思い込みにより、関係機関には、安全レベル(向上)に挑もうとしない傾向があった」と明確に記しているのだ。しかも、約240ページにも及ぶ報告書には「思い込み」という言葉を何度も刻み、国や東電の対応のまずさを指摘している。
原発運転では核分裂を伴う以上、機器の故障や運転ミスだけではなく、地震や津波、洪水などに対しても万全の対策が求められる。それでも対策は突破され、重大事故は起きるものだ。IAEAの報告書はそのような観点にたっている。東電はまさに「思い込み」に陥っていたのではないか。
ただし、今回の「強制起訴」議決によって、東電元幹部を有罪視するようなことがあってはならない。白黒をはっきりさせるのは、あくまで裁判の場である。
09年に新しい検察審査会の仕組みが出来上がってから、初の強制起訴となった兵庫県明石市の花火大会で起きた歩道橋事故のケースは、時効成立による「免訴」の判決が出た。尼崎JR脱線事故では、JR西日本の歴代三社長は「無罪」判決で、両事件とも最高裁に係属中だ。政治資金規正法をめぐる陸山会事件では、小沢一郎元民主党代表は「無罪」が確定している。
◆法廷で真相に肉薄を
むしろ、福島第一原発事故のケースでは、当時の東電の幹部たちが、原発事故とどう向き合っていたのか、公の法廷で肉声を聞くことができる。証言や証拠が開示され、われわれ国民の前で明らかにされる意義が極めて大きい。
少なくとも検察は強制捜査に踏み切ることもなく、業務上過失致死傷罪での刑事訴追について、「想定外だから罪は問えない」と一蹴してしまった。
「レベル7」の過酷事故は本当に防げなかったのか。天災なのか、人災なのか-、被災者も注視している。真相に肉薄することが、今後の裁判に期待される。
◉ 北海道新聞 2015年8月1日(土)
社説:東電強制起訴へ 公開の場で真相究明を
東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故をめぐって、東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が強制起訴されることになった。
東京地検が2度にわたり不起訴処分の判断を下していたが、市民で構成する検察審査会は、大津波が来る危険性を予見しながら対策を怠ったとして、再び「起訴相当」の議決をした。
深刻な被害を出した原発事故について、公開の場で責任を問うよう求めた判断だ。市民感覚に沿った結論と言えよう。
3人は今後、裁判所が指定する弁護士によって、業務上過失致死傷の罪で起訴される。
東電の安全対策や事故当時の状況など、いまだに不明な点は多い。公判でこうした点をつまびらかにしてほしい。
事故をめぐっては、被災者らによる「福島原発告訴団」が2012年、安全対策を怠ったなどとして、東電の元経営陣や政府首脳ら42人を告訴・告発した。
東京地検は翌年、不起訴処分とし、不服とした告訴団が検審に申し立てていた。
検審は昨年7月、勝俣元会長ら3人について「起訴相当」と判断。地検が再捜査していたが、再び不起訴処分にしたことから検審が2度目の審査を進めていた。
地検は不起訴の理由として、地震の大きさは「想定外」で、津波により原発が浸水する危険性を認識すべき状況になかったとした。
しかし、震災の9年前、福島県沖を含む海域で大地震の可能性が予測され、社内でも検討された。それが、いつの間にか上層部の判断で先送りされた経緯がある。
なぜ、こうした結論になったのか。適切に対応していればこれほどの被害は生じなかったはずだ。
原発はいったん大事故が起きれば被害は深刻だ。福島第1原発の事故から4年以上が過ぎたのに、現在も12万人が避難を余儀なくされていることからも明らかだ。
関係者が使った「想定外」は言い訳でしかない。
検審も2度目の議決でこう指摘する。
「原子力発電にかかわる責任ある地位にある者であれば、重大な事故を発生させる可能性のある津波が『万が一』にも『まれではあるが』発生する場合があることを考慮し、備えなければならない」
事故で問題の核心がどこにあったのかを、公判を通じて突き詰めてほしい。政府が原発の再稼働に前のめりになっている今だからこそ、その意味は重い。
◉ 秋田魁新報 2015年8月1日(土)
社説:東電強制起訴 真相の究明にも努めよ
東京電力福島第1原発事故で、東電の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が、業務上過失致死傷罪で強制起訴されることになった。
事故の原因や責任は、発生から4年以上たった今も明確になっていない。本当に防げなかったのか。人災の側面はないのか。裁判では刑事責任の追及はもちろん、真相究明にも努めるべきだ。
事故周辺住民らの申し立てを受けて東京第5検察審査会が起訴すべきだとする2度目の議決をした。起訴相当の議決が2度になると、強制起訴しなければならない。今後、東京地裁が検察官役の弁護士を指定する。
議決は、3人について大津波が来る危険性を予見しながら、「必要な措置を怠り、津波による浸水で重大な事故を発生させた」と指摘した。
国際原子力機関(IAEA)が6月にまとめた最終報告書も同じような見方を示している。東電や政府の原子力規制機関は、大津波の危険性を認識していたにもかかわらず、対策を取らず、IAEAの勧告に基づく安全評価も不十分だったと厳しく批判している。
事故周辺住民らの告訴・告発を受けて捜査した東京地検は2013年9月、巨大津波の予測や事故の防止対策を取ることは不可能だったとして、勝俣元会長らを不起訴とした。
これに対し検審は昨年7月、1度目の議決で起訴相当と判断した。原発事故はいったん起こると、取り返しがつかない。放射性物質が広範囲に拡散し、長年、健康に被害を及ぼすため、東電は万が一の場合にも備えるべきだという考え方からだ。
再捜査した東京地検は今年1月、再び不起訴とした。それを覆す今回の議決は1度目の考え方を踏襲している。想定外の大津波だったとする東電の弁明は許されないとの思いがよく表れている。
福島県では自主避難を含め、いまだ11万人以上が県内外に避難している。大震災をきっかけに体調を崩して亡くなる「震災関連死」は福島が1914人で、全体の57%に上る。原発事故の責任の所在を明らかにしてほしいという被災者の心情に沿った議決ともいえる。
ただ、裁判の行方は全く不透明だ。現時点では原発事故を防止できたと立証するのは難しく、有罪となる可能性は低いという見方が有力だ。
仮にそうだとしても公開の法廷で、世界でもまれな事故がなぜ起きたのか、責任は一体どこにあるのかを旧経営陣にただしていく意味は大きい。
九州電力の川内原発1号機(鹿児島県)が早ければ8月10日にも再稼働する見通しだ。全原発が停止中の日本で原発が再び動きだすことになる。本当に大丈夫なのか。福島の教訓にもっと学ぶべきではないのか。今回の強制起訴はそんな問いを含意しているようにも見える。
◉ 河北新報 2015年8月1日(土)
社説:東電元幹部強制起訴へ/事故責任の明確化が民意だ
責任をうやむやにしたままでは、犠牲者や避難者の無念は晴らせない。何よりも、原発事故の失態が繰り返されてしまうのではないか。
福島第1原発事故について国民の多くが抱く素朴な思いと危機意識が、順当に反映された判断と言えるだろう。
福島事故をめぐり業務上過失致死傷罪で告訴・告発され、東京地検が2度不起訴とした東京電力の勝俣恒久元会長ら元幹部3人について、検察審査会が「起訴すべきだ」との議決を下した。
これから強制起訴の手続きが取られ、3人は刑事被告人として法廷の場で刑事責任が追及されることになる。
強制起訴につながる議決は当初から想定された展開であり、司法手続きの一つの通過点と冷静に受け止める向きもあるが、市民感覚を生かす趣旨の検審制度によって、2度にわたり刑事責任追及を求める議決が下された意味を過小評価してはならない。
空前の過酷事故はなぜ起きたのか。当時の経営トップは本当に事故を防ぐ対策を取ることはできなかったのか。
民意が求めているのは、あくまで事前の津波対策を中心にした事故原因の徹底解明と責任の明確化である。そのことをはっきりと示した点で検審議決の意義は大きい。
災害や大事故に関して個人の刑事責任を問うことは一般的に困難とされている。同じように歴代社長3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された尼崎JR脱線事故の裁判では、一審と二審ともに無罪判決が出ている。
東電元幹部の捜査でも、検察当局は刑事責任を問う上で要件になる予見可能性と結果回避可能性について、3人の直接的な関わりを具体的に立証することは困難として、不起訴の結論に至った。
プロの結論を覆すような新証拠がない中で、強制起訴を可能にする検審制度の在り方には「道義的責任と刑事責任を混同している」と疑問の声もあるが、深刻な被害が続く結果の重大性に照らせば、それが広く受け入れられる感覚ではないことも確かだ。
2008年に社内で「最大15.7メートルの津波が来て、4号機の原子炉周辺は2.6メートル浸水する」という予測を立てていながら、対策に生かさなかった東電の企業体質を国民は注視している。
やるべきことをやっていれば事故は十分に回避できたのに、目をつぶって無視していたのに等しい状況だった、という議決の厳しい指摘に共感する国民は多いだろう。
強制起訴後の裁判が3人の刑事責任とともに、事故を防げなかった東電組織の実態に迫り、経営トップの安全軽視の姿勢を検証する場となることを期待する。
九州電力川内原発1号機(鹿児島県)を先頭に再稼働の動きが加速し、福島事故の風化も懸念される中で、今回の議決が下されたことも重く受け止める必要がある。
事故原因と責任の所在を明確にすることなしに、教訓に基づいた事故対策の確立はあり得ない。
福島事故の原点に立ち返ることの大切さをあらためて、この機会にかみしめたい。
◉ 福島民友新聞 2015年8月1日(土)
社説:原発事故強制起訴/原因と責任を徹底究明せよ
原発事故によって壊された生活を立て直そう、前を向こうとしても「なぜ、こんな目に遭わなければならなかったのか」との拭い切れない県民感情を汲(く)んだ判断だ。
未曽有の原子力災害を引き起こした東京電力福島第1原発事故をめぐり、東電の旧経営陣の刑事責任が公開の法廷で争われることになった。
刑事責任を問うためには事故の原因が徹底的に究明されなければならない。事故から復興へ確かな歩みを刻むために求めたいのは、まさにこの点だと指摘したい。
業務上過失致死傷容疑で告発され東京地検が2度、不起訴処分にした勝俣恒久元会長ら3人について、東京第5検察審査会は起訴すべきと議決した。検察審の起訴議決が2度目となり、今後3人は強制起訴され、刑事裁判が始まる。
議決は、勝俣会長らは遅くとも2009年6月までに津波の高さが最大約15.7メートルになるとの試算結果の報告を受けていたにもかかわらず、必要な措置を怠ったと指摘した。
東京地検は2度の捜査で試算の基になったデータの信頼性が低かったとし、津波の規模は予測不可能だったと結論づけてきた。
これに対し検察審は1度目と同様、「原発事業者は万が一に備えて高度な注意義務を負う」との前提を維持し、いったん事故が起きると取り返しのつかない事態を招く原発の安全対策では「想定外」との言い分は許されない、との判断を示した。
検察審は市民の代表が審査員を務める。前回から審査員全員が入れ替わった2度目の議決でも起訴すべきとした判断は、市民感覚が反映された結果といえ、重く受け止めなければならない。
事故原因をめぐっては、国会や政府の事故調査委員会が、未解明な部分が数多くあると報告したまま、究明に向けた動きがない。
事故原因が不十分な中で、事故の予見性を立証するのは、これまでの検察の捜査の経緯をみても困難が予想される。
議決では、原発の爆発で負傷した東電関係者や自衛隊員のほか避難中に死亡した近隣病院の入院患者らを被害者と判断した。いまもなお11万人が避難を強いられている結果の重大性をみれば、旧経営陣の個人の過失を問うだけにとどまることにも違和感が残る。
企業の原発事故を再び起こさないためには、世界に例を見ない事故につながった責任の所在が、東電の企業自体や政府になかったのかも明らかにする必要があることを肝に銘じたい。
◉ AP通信による記事の日本語訳(訳:福島原発告訴団)2015年7月31日(金)
3 ex-TEPCO execs to face criminal charges in nuclear crisis
3人の前東電役員、原発危機で刑事告発に直面
FILE - In this March 30, 2011 file photo, Tokyo Electric Power Co. Chairman Tsunehisa Katsumata, right, speaks during a news conference at the company’s head office in Tokyo. A Japanese judicial committee has decided that three former utility executives should face criminal charges and stand trial for their alleged negligence in the Fukushima nuclear disaster. A document released Friday, July 31, 2015 showed the committee voted in favor of indicting Katsumata, who was chairman of TEPCO. at the time of the crisis, along with two other former executives. (Itsuo Inouye, File/Associated Press)
日本の検察審査会は、3人の前経営陣が福島原発事故における業務上過失の罪で裁判を受けるべきであると決定した。2 015年7月31日金曜日に公表された文書は、審査会が他の2人の前経営陣とともに、東電会長であった勝俣を起訴することに賛成したとの投票結果を示した。(イツオ・イノウエ、AP通信)
TOKYO — A Japanese judicial committee has decided that three former utility executives should face criminal charges and stand trial for their alleged negligence in the Fukushima nuclear disaster.
東京— 日本の検察審査会は、3人の前経営陣が福島原発事故における業務上過失の罪で裁判を受けるべきであると決定した。
A document released Friday showed the committee of independent citizens voted in favor of indicting Tsunehisa Katsumata, 75, who was chairman of Tokyo Electric Power Co. at the time of the crisis, along with then-vice presidents Sakae Muto, 65, and Ichiro Takekuro, 69.
金曜日に公表された文書は、独立した市民から成る委員会〔検察審査会〕が事故当時の東電会長勝俣恒久( 75)、副社長武藤栄( 65)、武黒一郎( 69) を起訴することに賛成したとの投票結果を示した。
The 11-member committee’s second decision supporting the indictment overrides Tokyo prosecutors’ two earlier decisions to drop the case, forcing the three men to be charged with professional negligence. It will be the first criminal case involving the utility’s officials from the nuclear disaster to be tried in court. The prosecutors had cited lack of evidence to prove they could foresee the danger of a tsunami and decided not to file charges in September 2013 and again in January this year.
11人のメンバーによる審査会の2回目の決定は、先に東京地検が行った2回にわたる不起訴の決定を無効にした。3名は業務上過失により強制起訴される。原発事故に関し、権限を持った当局者を含む刑事責任が問われる初の裁判となる。検察官は、彼らが津波の危険を予見できたとするためには証拠が不十分だとして、2013年9月に、そして今年1月には再度、告発しないことを決定していた。
The committee, in its July 17 decision, alleged that the three men neglected to take sufficient measures even though they were fully aware of the risk of a major tsunami at the Fukushima plant at least two years before the accident. It said they should be charged with professional negligence resulting in death and injury during the accident and its aftermath, including the deaths of dozens of senior citizens in a hospital during and after the lengthy evacuation. The decision also blamed the three executives for the injuries suffered by 13 defense officials and TEPCO employees during emergency operations at the plant.
審査会は、7月17日の決定において、事故の少なくとも2年前には福島発電所における巨大津波の危険性に完全に気づいていながら、3人が十分な処置を取ることを怠ったと主張した。事故とその余波―― 病院内や、長距離避難中における高齢者数十人の死亡を含む―― の結果として、業務上過失〔による刑罰〕を科せられるべきだとの内容だ。決定はまた、防衛隊員〔自衛官〕と発電所で緊急対応に当たった東電労働者13人が負傷したことについて、3人の経営陣を非難した。
The Tokyo District Court will now choose a team of lawyers to act as prosecutors to formally press charges in court. The court said no details have been decided, including the selection of a prosecution team and other steps expected to take several months before the first trial session.
東京地方裁判所は、今後、検察官役の弁護士団を指定し、強制起訴を行わせることになる。検事団の選定を含む詳細について、裁判所は決定を行わなかった。初公判までに数ヶ月かかる見通しだ。
Three reactors had meltdowns at the Fukushima Dai-ichi plant damaged in the March 2011 earthquake and tsunami, triggering massive radiation leaks that forced tens of thousands of people to evacuate.
2011年3月の地震と津波で損害を受けた福島第1発電所の3台の原子炉はメルトダウンした。そして、数万人が避難を強いられる大規模な放射能漏れを起こした。
Government and parliamentary investigative reports have said TEPCO’s lack of safety culture and weak risk management, including an underestimate of tsunami threats, led to the disaster. They also said TEPCO ignored tsunami measures amid collusion with then-regulators and lax oversight.
政府と国会の〔事故〕調査報告は、東電の安全文化の欠如、津波の脅威の過小評価を含む危機管理の弱点が事故を引き起こしたと述べている。また、東電の不注意と怠慢があいまって、巨大津波を無視したとも述べている。
TEPCO has said it could have taken safety measures more proactively, but that a tsunami of the magnitude that crippled the plant could not be anticipated.
東電は、より積極的に安全対策を取ることも可能だったが、発電所を麻痺させるような巨大津波を予想することはできなかったと述べた。
While struggling with a cleanup at the wrecked Fukushima plant that will take decades, TEPCO is hoping to restart two reactors at the Kashiwazaki-Kariwa plant in northern Japan as Prime Minister Shinzo Abe’s pro-business government tries to put as many reactors back on line as possible. All 48 workable reactors are currently offline for repairs or safety checks, though two in southern Japan are set to restart within weeks.
福島発電所の収束に向け苦闘する今後数十年間、東電は、北日本にある柏崎刈羽の2台の原子炉の再稼働を希望している。経済優先の安倍晋三政権は可能な限り多くの原子炉を復活させようとしている。全48基の稼働可能な原子炉は修理や安全点検のため停止しているが、南日本の2カ所の原子炉は数週間以内に再稼働の準備が整っている。
The judicial committee’s decision sustains an appeal representing more than 5,700 people from Fukushima and other parts of Japan, urging prosecutors to investigate and send the utility executives to court to determine who was responsible for the disaster. They said the TEPCO executives failed to fulfill their obligation to prevent a serious accident.
審査会の決定は、福島と日本の他の地域から5,700人以上を代表して、検察官の捜査を推進し、この事故の責任が誰にあるのかを決定するため、権限を持った経営陣を法廷に送るよう訴え続けている。東電経営陣が深刻な事故を防止するための義務を果たすことに失敗したと主張している。
The committee said Friday that TEPCO’s Fukushima Dai-ichi had a reputation as one of nuclear plants with “least safety margin for tsunami.”
金曜日、審査会は、東電の福島第1が「津波への余裕のない」原子炉の1つであるとの評価であると述べた。
TEPCO President Naomi Hirose declined to comment because the case was still pending.
東電社長、広瀬直己は、事件がまだ係争中のためコメントは控えたいと表明した。
“We’ve finally come this far,” said Ruiko Muto, who heads the group that filed the complaint, said Fukushima residents hit by the disaster have long sought their criminal liability to be clarified in court. “We believe the truth of the accident will be revealed in criminal trial proceedings to bring justice.”
「私たちはこの日を待ち望んでいました」と、告訴団長の武藤類子は述べた。「事故で打撃を受けた福島住民は、彼らの刑事責任が裁判で明らかにされるべきだとずっと考えてきました。私たちは、正義を実現する刑事手続の中で、この事故の真実が明らかにされるものと信じています」。
朝日のあたる家
Tommy Emmanuel
トミー・エマニュエル
2012.11.20
アメリカのTraditional Folk Songに、娼婦に身を落とした女性が半生を懺悔する歌とされる「The House of the Rising Sun(朝日のあ(当)たる家)」という素晴らしい曲があります。
日本ではアニマルズやディランのものが有名ですが、多くのアーティストがカバーしています。
今日は、少し時間に余裕があったので、この曲をあらためて手持ちアーティスト群による演奏で楽しみました(浅川及びちあきは「朝日楼」)。
ただし、イギリスのJohnny Handleという歌手の音源がないのが残念です。
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トミー・エマニュエル(1955-)は、オーストラリアのギタリスト。フィンガーピッキングの達人。