【刮目すべき意見】 2014.5.24(土)
福井地裁判決に対する元東京電力社員で法務担当だった方の、刮目すべき意見です。
(矢野 二朗さんの近況より)
(間違いがあったので、原文を訂正します。 訂正以前の間違いは、「一審のみを「事実審」とし、二審と最高裁が「法律審」とした」ものですが、民事訴訟では、二審(高裁)も事実審です。 今回判決文の意味合いと価値には差はありません。)。 以前から「友達」の方はご存知ですが、私は元東電社員です。さらに言えば法務系で、原子力訴訟の国側(国が訴えられた行政訴訟だったので)のヘルプとしての仕事をしたことがあり、それを離れてからも20世紀中にあった原子力訴訟については、ほぼすべてに目を通してきました。
おそらく今、原発訴訟弁護士連絡会の弁護士さんらを除いては、素人としては原子力訴訟の歴史と経緯にもっとも詳しい一人でしょう。 今回の福井、大飯原発運転差し止め判決は、内容としては画期的なものです。どう画期的か、はまた個別に譲りますが、過去の判決や国の主張をよく研究し、また福島事故が起きたこととその後の状況を良く知り、福島以前は安全神話と「国が安全と言うのが正しいかどうか」で裁判が行われていたのに対して、今回は関西電力のみを被告としての「差し止め」(民事)。この点は原告、弁護団側にも十分な蓄積があったというべきでしょう。 過去、原子炉訴訟は、「国の設置許可取り消し、無効請求」という行政訴訟がメインで、もんじゅ無効訴訟と志賀原発取り消し訴訟が地裁で勝った以外は、原告側敗訴でした。基本、「行政行為の是非」を行政と争うことは非常に難しい。 今回、関西電力を被告にした民事の差し止め請求であったことで、国は直接は口出しできなくなり、また過去の行政訴訟の判例も使えなくなった。 これらの結果、判決文は、極めて「納得がいく」ものになっています。 これこそ、弁護士を含めての三権分立における「司法」の本来の姿だと思います。 今後どうなるか、ですが、大飯については、国が安全審査でOKを出しても、この判決は高裁で覆されない限り生きてますので、高裁で破棄・差し戻しされない限り、大飯3,4号の再稼働はできません(禁止されたのは関西電力なので。) また、専門に入りますが、日本の裁判の三審制において、一審の判決を上級審が覆すには、一審(事実審という)の事実認定に誤りがある場合か、法律的に間違っている場合しか最高裁(法律審という)が覆すことは難しい。 今回、一審が司法界でも意見が対立する「環境権」を排したのは私は正解だと思います。こうすることにより、上級審が覆すには、よほどの立論が必要で、人格権を否定することに踏み込むか、些末な事実の齟齬を言い立てるかしか無く、結果がどうあれ、大飯原発の再稼働を困難にするでしょう。 他方、「法廷の独立」という前提があり、他の原発をこの判決の理屈で止めろ、とはなりません。それぞれの場所で訴訟を起こさないと。 追記(5月25日)。こちらを必ずご参照ください。 https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=299473656886570&id=100004718130417¬if_t=like
≪重要≫(5月25日) 22日朝に、福井地裁・大飯原発3.4号機運転差し止め判決について簡単な解説の投稿を書きましたが、大変な反響をいただきました。 ですが、短い文章であったため誤解を招く内容になっています。 重要なのはこの判決だけでは、「大飯原発3.4号機」の「再稼働を阻止できない」。という事です。 以下、情報を挙げていきます。 【長文なので、読んでもらいづらいですが、もしよろしければ、お好きなところを部分抜粋の上、シェアいただければ幸甚です。】
(判決確定=三審制の結論、の前に再稼働するという関西電力の方針。) 【以下転載】 福井・大飯原発:関電社長「再稼働目指す」 差し止め、控訴審判決待たず 毎日新聞 2014年05月24日 東京朝刊
関西電力の八木誠社長は23日、福井地裁が運転差し止め判決を出した関電大飯原発3、4号機(福井県)について「国の方針に従い、安全性が確認された原子力発電所については再稼働を目指す」と述べ、原子力規制委員会の安全審査をクリアした場合、控訴審の判決前でも再稼働を目指す考えを示した。 判決後、関電トップが見解を述べたのは初めて。会長を務める電気事業連合会の記者会見で語った。判決は地震対策に「構造的欠陥がある」と断じたが、八木氏は「当社の主張がご理解いただけなかったことは遺憾。控訴審で引き続き安全性について主張したい」と争う姿勢を示した。関電は判決を不服として22日に控訴している。 規制委に対しては「効率的に、すみやかなご判断をいただきたい」と審査のスピードアップを求めた。判決が地元住民に与える影響については「まだよく分からないが、安全対策を説明し、理解を得るよう努力したい」と地元同意に向けた取り組みを進める姿勢を示した。【中井正裕】 【転載終了】
差し止め判決の影響については、産経が記事を。 MSN産経ニュース 21日 http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140521/trl14052123260010-n1.htm 【一部抜粋】 運転差し止めを命じる判決が出たが、関電は速やかに控訴する意向を表明しており、裁判は長期化する見通しだ。判決確定前に強制執行が可能な仮執行宣言は付いていないことから、運転を続けることは可能だ。このため、大飯も規制委の安全審査が終了し地元同意が得られれば、再稼働することができる。 【抜粋終了】
(参考) 仮執行 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E5%9F%B7%E8%A1%8C%E5%AE%A3%E8%A8%80。 つまり、福井地裁の判決は司法上は画期的ではありましたが、ただちに再稼働を強制的にやめさせることはできません。裁判所の判断として、原発の是非について踏み込んでいますが、今の時点では強制力がありません。
ですが、対抗手段はありまして、差し止め判決を根拠に、再度「再稼働停止の仮処分申請」を福井地裁に起こすのは法的な手段です。 同じ地裁でも、裁判と仮処分申請は違う裁判官が担当する可能性もあり、仮処分が認められない可能性もありますが、他方従来よりは認められる可能性は格段に上がったと言えるでしょう。
また、リンクした産経の記事中にもあるように、地元の同意(たとえば別記事で、推進派のおおい町の町長も、判決を厳粛に受け止める、と述べてます。)を得るには時間がかかるでしょう。 司法の判断を無視してでも再稼働する「法的根拠」は関西電力にはありません(経営、政治的な根拠はあるのでしょうが。)。
要は、今回の地裁判決をテコに、今後も粛々と再稼働反対を進めていく事です。
その意味では、「緒戦の勝利に、勝って兜の緒を締めよ。(戦い用語は嫌いなのですが)」という事です。 「まだ終わったわけではない。これからなのだ。」っと。
不透明さ増す再稼働、司法判断で遠のくのか
2014.5.21 産経ニュース
関西電力大飯原発。(左から)4号機、3号機に運転差し
止めを命じる判決が出された=21日午後、福井県おお
い町で共同通信社ヘリから
大飯原発3、4号機は原子力規制委員会の新基準への適合審査中で、今回の福井地裁判決でも争点となった基準地震動(想定される最大の揺れ)が決まらず、今年度中の再稼働は困難との見方が出ている。運転差し止めの司法判断が出ても、判決が確定するまでは運転可能だが、再稼働には地元同意も必要。今回の福井地裁判決が地元判断に影響を及ぼす可能性もあり、再稼働は不透明さを増している。
運転差し止めを命じる判決が出たが、関電は速やかに控訴する意向を表明しており、裁判は長期化する見通しだ。判決確定前に強制執行が可能な仮執行宣言は付いていないことから、運転を続けることは可能だ。このため、大飯も規制委の安全審査が終了し地元同意が得られれば、再稼働することができる。
今回の福井地裁判決では、平成17年以降に全国の4原発で基準地震動を超える地震が5回起きたとして「基準地震動を超える地震が来ないとするのは根拠のない楽観的見通し」とした。しかし、同じ大飯3、4号機では、住民らが再稼働させないよう仮処分を大阪地裁に求めたが、昨年4月に「敷地内の断層は活断層と認められない」などの理由で却下。住民らによる抗告も今月9日、大阪高裁によって再び却下されるなど、科学的知見が必要な争点では、司法判断は割れている。
大飯3、4号機が今後、安全審査を通過すれば、関電は正式に再稼働に向け地元の了承を求める手続きに入るものとみられる。
今回の福井地裁判決は東京電力福島第1原発事故後、原発の差し止めを認めた初の判決。手続き上は再稼働が可能でも、司法判断が地元へ与える影響は軽くはなく、再稼働は依然として見通せない情勢だ。