メモ【「侵略」について】 2015.8.7(金)
Contents
1 戦後70年安倍総理談話
2 21世紀構想懇談会
3 安倍談話でどう表現するか
4 村山談話、小泉談話
(1)村山談話
(2)小泉談話
5 侵略についての議論の経過
① 辻元清美議員の国会質問主意書
② これに対する安倍総理大臣の答弁書
③ 和田政宗議員の国会質問主意書
④ これに対する安倍総理大臣の答弁書
6「侵略」とは何か。また、その定義とは。歴史はどうか。
7 安倍首相発言への反論等
(1)国際人権NGO ヒューマンライツ・ナウ
(2)半澤健市氏
(3)長谷川三千子氏
(4)日本共産党
(5)韓国中央日報
8 侵略の定義に関する国連総会決議3314
A 条文
B わが国がとった態度に関する外務省の解説
9 ローマ規程再検討会議における改正条項を採用する決議
A 改正条文
B 国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程検討会議で採択された規程改正内容と評価(日本外務省)
10 「21世紀構想懇談会」報告書
A 報告書の内容
B 報告書に対する内外の反応
(1)国内メディア社説
(2)外国
11 どうする安倍首相
1 戦後70年安倍総理談話 安倍晋三首相は2015年8月7日の自民党役員会で、8月14日に発表する戦後70年談話について「閣議決定したい」と明言した。 2 21世紀構想懇談会 これに先立ち、戦後70年談話(安倍談話)に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」(座長・西室泰三日本郵政社長)は8月6日、安倍首相に報告書を提出した。この報告書の中で、満州事変以後の日本を「大陸への侵略を拡大し、世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」と明記し、先の大戦における侵略と植民地支配の事実を認め、指導者の責任にも言及した。
※ 報告書の内容は「10 「21世紀構想懇談会」報告書」を参照 3 安倍談話でどう表現するか 安倍談話について、安倍首相は、先行する村山談話(戦後50年)・小泉談話(戦後60年)両談話を「全体として受け継ぐ」とだけ語り、表現や文言には縛られない姿勢でおり、特に「侵略」「お詫び(謝罪)」「反省」などの文言を盛り込むのか盛り込まないのかが、外国からも含めて、注目されている。
そこで、このうち、「侵略」について、以下押さえておきたい。 4 村山談話、小泉談話 (1)村山談話(「戦後50周年の終戦記念日にあたって」)(1995.8.7)※ 閣議決定 先の大戦が終わりを告げてから、50年の歳月が流れました。今、あらためて、あの戦争によって犠牲となられた内外の多くの人々に思いを馳せるとき、万感胸に迫るものがあります。 敗戦後、日本は、あの焼け野原から、幾多の困難を乗りこえて、今日の平和と繁栄を築いてまいりました。このことは私たちの誇りであり、そのために注がれた国民の皆様1人1人の英知とたゆみない努力に、私は心から敬意の念を表わすものであります。ここに至るまで、米国をはじめ、世界の国々から寄せられた支援と協力に対し、あらためて深甚な謝意を表明いたします。また、アジア太平洋近隣諸国、米国、さらには欧州諸国との間に今日のような友好関係を築き上げるに至ったことを、心から喜びたいと思います。 平和で豊かな日本となった今日、私たちはややもすればこの平和の尊さ、有難さを忘れがちになります。私たちは過去のあやまちを2度と繰り返すことのないよう、戦争の悲惨さを若い世代に語り伝えていかなければなりません。とくに近隣諸国の人々と手を携えて、アジア太平洋地域ひいては世界の平和を確かなものとしていくためには、なによりも、これらの諸国との間に深い理解と信頼にもとづいた関係を培っていくことが不可欠と考えます。政府は、この考えにもとづき、特に近現代における日本と近隣アジア諸国との関係にかかわる歴史研究を支援し、各国との交流の飛躍的な拡大をはかるために、この2つを柱とした平和友好交流事業を展開しております。また、現在取り組んでいる戦後処理問題についても、わが国とこれらの国々との信頼関係を一層強化するため、私は、ひき続き誠実に対応してまいります。 いま、戦後50周年の節目に当たり、われわれが銘記すべきことは、来し方を訪ねて歴史の教訓に学び、未来を望んで、人類社会の平和と繁栄への道を誤らないことであります。 わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。 敗戦の日から50周年を迎えた今日、わが国は、深い反省に立ち、独善的なナショナリズムを排し、責任ある国際社会の一員として国際協調を促進し、それを通じて、平和の理念と民主主義とを押し広めていかなければなりません。同時に、わが国は、唯一の被爆国としての体験を踏まえて、核兵器の究極の廃絶を目指し、核不拡散体制の強化など、国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。これこそ、過去に対するつぐないとなり、犠牲となられた方々の御霊を鎮めるゆえんとなると、私は信じております。 「杖るは信に如くは莫し」と申します。この記念すべき時に当たり、信義を施政の根幹とすることを内外に表明し、私の誓いの言葉といたします。 (2)小泉談話(「内閣総理大臣談話」)(2005.8.15)※ 閣議決定
私は、終戦六十年を迎えるに当たり、改めて今私たちが享受している平和と繁栄は、戦争によって心ならずも命を落とされた多くの方々の尊い犠牲の上にあることに思いを致し、二度と我が国が戦争への道を歩んではならないとの決意を新たにするものであります。 先の大戦では、三百万余の同胞が、祖国を思い、家族を案じつつ戦場に散り、戦禍に倒れ、あるいは、戦後遠い異郷の地に亡くなられています。 また、我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します。悲惨な戦争の教訓を風化させず、二度と戦火を交えることなく世界の平和と繁栄に貢献していく決意です。 戦後我が国は、国民の不断の努力と多くの国々の支援により廃墟から立ち上がり、サンフランシスコ平和条約を受け入れて国際社会への復帰の第一歩を踏み出しました。いかなる問題も武力によらず平和的に解決するとの立場を貫き、ODAや国連平和維持活動などを通じて世界の平和と繁栄のため物的・人的両面から積極的に貢献してまいりました。 我が国の戦後の歴史は、まさに戦争への反省を行動で示した平和の六十年であります。 我が国にあっては、戦後生まれの世代が人口の七割を超えています。日本国民はひとしく、自らの体験や平和を志向する教育を通じて、国際平和を心から希求しています。今世界各地で青年海外協力隊などの多くの日本人が平和と人道支援のために活躍し、現地の人々から信頼と高い評価を受けています。また、アジア諸国との間でもかつてないほど経済、文化等幅広い分野での交流が深まっています。とりわけ一衣帯水の間にある中国や韓国をはじめとするアジア諸国とは、ともに手を携えてこの地域の平和を維持し、発展を目指すことが必要だと考えます。過去を直視して、歴史を正しく認識し、アジア諸国との相互理解と信頼に基づいた未来志向の協力関係を構築していきたいと考えています。 国際社会は今、途上国の開発や貧困の克服、地球環境の保全、大量破壊兵器不拡散、テロの防止・根絶などかつては想像もできなかったような複雑かつ困難な課題に直面しています。我が国は、世界平和に貢献するために、不戦の誓いを堅持し、唯一の被爆国としての体験や戦後六十年の歩みを踏まえ、国際社会の責任ある一員としての役割を積極的に果たしていく考えです。 戦後六十年という節目のこの年に、平和を愛する我が国は、志を同じくするすべての国々とともに人類全体の平和と繁栄を実現するため全力を尽くすことを改めて表明いたします。 平成17年8月15日 内閣総理大臣 小泉 純一郎 5 侵略についての議論の経過 (1)安倍晋三首相は2013年4月22日、参議院予算委員会で、侵略戦争を謝罪した村山富市首相談話について「安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」と表明し、また翌23日の同委員会では、日本の植民地支配や侵略をめぐり、「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国との関係でどちらから見るかで違う」と述べた。その後安倍首相は内外の反発を受けて、5月15日には「侵略しなかったと言ったことは一度もない」として村山談話を踏襲する旨の軌道修正を行った。 (2)しかし安倍首相は、2013年5月24日付の辻元清美議員の国会質問主意書への答弁で「国際法上の侵略の定義については様々な議論が行われており、お尋ねについては確立された定義を含めお答えすることは困難」「国際法上の侵略の定義については様々な議論が行われており、確立された定義があるとは承知していない」「国際連合総会決議第3314号及び国際刑事裁判所に関するローマ規程に関する御指摘の改正決議が「国際的な合意」に相当するかどうかについて、一概にお答えすることは困難である。」などと回答した。外務省もこの見解に従っている。
① 辻元清美議員(民主党)の国会質問主意書(2013.5.16)
「侵略の定義」など安倍首相の歴史認識に関する質問主意書 2006年9月29日、辻元清美が「安倍首相の歴史認識に関する質問主意書」を提出し、第一次安倍内閣の歴史認識が明らかになった。第二次安倍内閣が成立したことを受けて、安倍首相の歴史認識が第一次安倍内閣当時と変わらないのか、またはどう変わったのかを明らかにすることは、多くの国民の要求するところである。 また、2013年3月12日の衆議院予算委員会では「先の大戦においての総括というのは、日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、言わば連合国側が勝者の判断によって、その断罪がなされたということなんだろうと思う」と発言し、4月23日の参議院予算委員会で安倍首相は「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない。国と国との関係でどちらから見るかで違う」と発言した。 侵略の定義を定めるにあたっては、日本を含む35カ国からなる「侵略の定義特別委員会」が設置され、1974年12月の国連総会で「侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使」であると定義した総会決議3314が全会一致で採択された。1975年版外交青書によれば、「3、わが国の態度/わが国としては、全体としては、妥当な定義が作成されたと考え、国連総会においては、その採択を支持した」とある。 さらに、この総会決議をもとにした国際刑事裁判所ローマ規程検討会議において、日本からは会議の全期間を通して小松一郎政府代表(前国際法局長)が参加し、2010年6月に侵略犯罪の定義を含む、侵略犯罪に関する国際刑事裁判所のローマ規程への改正決議が採択された。これに対し、外務省は「第二次大戦以来長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成されたことは歴史的意義を有する」「画期的な合意内容と言える」と極めて肯定的な評価をしているところである。 こうした安倍首相の認識を懸念する声が国内外で高まっているなかで、安倍首相は2013年5月15日の参議院予算委員会で「村山談話についてはですね、政権としてはですね、全体として、これは受け継いでいくということでございます」と答弁した。安倍首相の答弁の真意をただしたい。 従って、以下、質問する。 一 1995年8月15日における村山富市元首相の「村山内閣総理大臣談話・戦後50周年の終戦記念日にあたって」(以下「村山談話」)について 1 「村山談話」では「私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。同じ姿勢であるならば、「この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げ」るために何をすべきであると考えるか。 2 「村山談話」では「現在取り組んでいる戦後処理問題についても、わが国とこれらの国々との信頼関係を一層強化するため、私は、ひき続き誠実に対応してまいります。」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。同じ姿勢であるのならば、どのように誠実に対応していくのか。 3 「村山談話」では「唯一の被爆国としての体験を踏まえて、核兵器の究極の廃絶を目指し、核不拡散体制の強化など、国際的な軍縮を積極的に推進していくことが肝要であります。これこそ、過去に対するつぐないとなり、犠牲となられた方々の御霊を鎮めるゆえんとなる」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 4 「村山談話」では「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 5 「村山談話」を踏襲する安倍首相自身は、一九四二年当時、日本がなんらかの侵略行為を行っていたという認識か。そうであれば、どのような侵略行為だったのかを具体的に明らかにされたい。 6 「村山談話」を踏襲する安倍首相自身は、村山談話における「侵略」の定義をどのように考えるか。それは、国連総会決議三三一四に準じるものか。 7 「国と国との関係でどちらから見るかで違う」ということであるが、安倍首相自身は、「日中戦争」は侵略行為だったという認識か。 8 「国と国との関係でどちらから見るかで違う」ということであるが、安倍首相自身は、「満州国建国」は侵略行為だったという認識か。 9 「国と国との関係でどちらから見るかで違う」ということであるが、安倍首相自身は、「太平洋戦争」は侵略行為だったという認識か。 10 「国と国との関係でどちらから見るかで違う」ということであるが、安倍首相自身は、「真珠湾攻撃」は侵略行為だったという認識か。 二 1993年8月4日における河野洋平元官房長官の「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話」(以下「河野官房長官談話」)について 1 「河野官房長官談話」では「今次調査の結果、長期に、かつ広範な地域にわたって慰安所が設置され、数多くの慰安婦が存在したことが認められた。慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 2 「河野官房長官談話」では「戦地に移送された慰安婦の出身地については、日本を別とすれば、朝鮮半島が大きな比重を占めていたが、当時の朝鮮半島は我が国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた。」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 3 「河野官房長官談話」では「本件は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。」とあるが、安倍首相は同じ認識か。 4 「河野官房長官談話」では「いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。 5 「河野官房長官談話」では「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明」とあるが、安倍首相は同じ姿勢か。同じ姿勢であるならば、「歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」るために、何をすべきであると考えるか。 三 2005年8月15日における小泉純一郎元首相の「内閣総理大臣談話」について 「内閣総理大臣談話」では「我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。」とあるが、安倍首相も同じ見解か。 四 総会決議3314及び侵略犯罪に関する国際刑事裁判所のローマ規程への改正決議について 1 日本政府は、侵略の定義について「国際的にも定まっていない」という認識か。 2 そうであれば、総会決議3314については、国際的な合意に相当するものではないという認識か。 3 そうであれば、侵略犯罪に関する国際刑事裁判所のローマ規程への改正決議については、国際的な合意に相当するものではないという認識か。 五 安倍首相の歴史教科書についての「この近隣諸国条項によって、喜んでもらう、日本がこんな残虐なことをしましたよということをやることによって、諸外国からは余り指摘がなくなるということであります。また、特定の思惑を持って行動する人たちにも歓迎されるということで、そちらの方面において日本が残虐な行為をやったということを強調する分にはどんどん検定を通ってしまうという問題が出てきているのではないか」(第140回国会衆議院決算委員会第二分科会、1997年5月27日)という発言について 安倍首相は、教科書検定基準における「近隣諸国条項」を見直すのか。 六 東京裁判は「言わば連合国側が勝者の判断によって、その断罪がなされた」という安倍首相の認識に変わりはないか。 右質問する。
② これに対する安倍総理大臣の答弁書(2013.5.24)
衆議院議員辻元清美君提出「侵略の定義」など安倍首相の歴史認識に関する質問に対する答弁書 一の1から5まで及び三について お尋ねについては、先の答弁書(平成18年10月10日内閣衆質165第26号。以下「先の答弁書」という。)一から三までについてでお答えした認識及び対応と同じである。 一の6から10までについて 国際法上の侵略の定義については様々な議論が行われており、お尋ねについては確立された定義を含めお答えすることは困難である。 二について お尋ねについては、先の答弁書五及び七の2についてでお答えしたとおりである。 四について 国際法上の侵略の定義については様々な議論が行われており、確立された定義があるとは承知していない。 また、御指摘の「国際的な合意に相当するもの」の意味するところが必ずしも明らかではなく、国際連合総会決議第3314号及び国際刑事裁判所に関するローマ規程(平成19年条約第6号)に関する御指摘の改正決議が「国際的な合意」に相当するかどうかについて、一概にお答えすることは困難である。 五について 教科用図書検定基準におけるいわゆる「近隣諸国条項」の見直しについては、現時点では決まっていない。なお、当該条項は、昭和57年8月26日の内閣官房長官談話の趣旨を受け、教科用図書検定調査審議会の答申に基づき教科用図書検定基準に加えられたものであり、こうした経緯を踏まえる必要がある。 六について 極東国際軍事裁判所の裁判については、御指摘のような趣旨のものも含め、法的な諸問題に関して様々な議論があることは承知しているが、我が国は、日本国との平和条約(昭和27年条約第五号)第11条により、当該裁判を受諾しており、国と国との関係において、当該裁判について異議を述べる立場にはない。
③ 和田政宗議員(次世代の党)の国会質問主意書(2015.4.24)
政府見解等における「植民地支配と侵略」の定義に関する質問主意書 政府は、私が提出した「村山内閣総理大臣談話に関する質問主意書」(第189回国会質問第75号)に対し、「「植民地支配」及び「侵略」の定義については様々な議論があり、お尋ねについてお答えすることは困難である。」との答弁書(内閣参質189第75号)を閣議決定した。また、平成27年4月1日の参議院予算委員会においても政府に対し「植民地支配と侵略」の定義を明確にする必要性について質疑を行ったが、政府から明確な答弁が得られなかった。 そこで、以下、質問する。 一 前述の参議院予算委員会においては、岸田外務大臣から「他方で、この定義について様々な議論があり、お答えしにくい文言であっても、その趣旨は十分に理解され得るものであることから、問題であるという御指摘は当たらないのではないかと考えております。」との答弁を受けたが、「植民地支配と侵略」という文言の「十分に理解され得る」「趣旨」とは一体どのような内容なのか具体的に明示されたい。 二 外務省ホームページの「歴史問題Q&A」においては、「問一 先の大戦に対して、日本政府はどのような歴史認識を持っていますか。」及び「問六 「南京大虐殺」に対して、日本政府はどのように考えていますか。」に対する回答文において、「植民地支配と侵略」という文言を使用しているが、「植民地支配と侵略」という文言は回答文から削除すべきと考えるが、政府の見解如何。 右質問する。
④ これに対する安倍総理大臣の答弁書(2015.5.12)
参議院議員和田政宗君提出政府見解等における「植民地支配と侵略」の定義に関する質問に対する答弁書 一について 先の答弁書(平成27年3月20日内閣参質189第75号)一及び二についてでお答えしたとおり、「植民地支配」及び「侵略」の定義については様々な議論があり、お尋ねについてお答えすることは困難である。 二について 安倍内閣としては、平成7年8月15日及び平成17年8月15日の内閣総理大臣談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、お尋ねの回答文から「植民地支配と侵略」という文言を削除する考えはない。 6「侵略」とは何か。また、その定義とは。歴史はどうか。 (1)侵略(aggression)とは、国際法上、ある国家・武装勢力が別の国家・武装勢力に対して、自衛ではなく、一方的にその主権領土や独立を侵すことを意味する。軍事学概念としての侵攻(invasion)が目的を問わず相手方勢力・領域を攻撃する行動を指すのとは異なり、相手の主権・政治的独立を奪う目的の有無に注目した用語である。また、侵略のために武力を行使して戦争を起こすことを侵略戦争と言う(ウィキペディア)。 (2)今日の意味での「侵略」aggressionが使用されたのは1919年のヴェルサイユ条約231条(戦争責任条項)に明記されたことを端緒とする。 cf. Article 231 The Allied and Associated Governments affirm and Germany accepts the responsibility of Germany and her allies for causing all the loss and damage to which the Allied and Associated Governments and their nationals have been subjected as a consequence of the war imposed upon them by the aggression of Germany and her allies. 第231条 連合国政府はドイツおよびその同盟国の侵略により強いられた戦争の結果、連合国政府および国民が被ったあらゆる損失と損害を生ぜしめたことに対するドイツおよびその同盟国の責任を確認し、ドイツはこれを認める。 (3)明文として侵略を定義した条約としてはソ連及び周辺諸国を中心として締約された侵略の定義に関する条約(1933年)が最初。ただし、これは東欧圏8カ国にとどまった。 (4)その後、1974年12月14日に国連総会決議3314(後述)が成立した。 (5)しかしこの総会決議による定義は各国に対する拘束力はなく、現在もある国家実行を侵略と認定するのは国連安保理事会に委ねられている。国連総会で侵略の定義についての一応の合意があったことは事実ではあるが、依然としてその解釈や有効性については争いがある。現に、イラクによるクウェート侵攻は「侵略」とは認定されておらず、中越戦争も同様。国連決議で「侵略」という用語を使ったのは、朝鮮戦争の際の「北朝鮮弾劾決議」のなかで北朝鮮を「侵略者」と呼んだケースくらいと言われる。 (6)その後、2010年6月11日、ウガンダで開かれた国際刑事裁判所のローマ規定再検討会議において、侵略の定義に関する決議の内容に一致した定義に規程独自の定義を付加し、管轄権行使の諸要件と手続きをも含めた改正条項を採用する決議(RC/Res.6)が参加国111カ国のコンセンサスにより採択された。この時、日本政府は投票には参加しなかったものの、コンセンサスを妨げることはなかった。但し、同改正は現在、発効していないが、ローマ規程の締約国(現在121カ国)に憲法上の手続きに則った批准を求める点で、これまでの国際条約の中で最も拘束力を持つ定義となる可能性があるとされる。 7 安倍首相発言への反論等 安倍首相の「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない」発言には次の反論等がある。 (1)国際人権NGO ヒューマンライツ・ナウ (a)国連総会決議3314に賛成票を投じた日本が、国際的な侵略の定義は存在しないかのような主張をすることは、国連加盟国として憲章上の義務を誠実に履行する義務(憲章2条2項)に合致するものではない。安倍首相の国会答弁は、日本も賛成した国連総会決議について「国際的な合意」と認めることを拒絶しているものであり、見過ごすことはできない。
(b)2010年にウガンダで開催された、国際刑事裁判所「ローマ規程」に関する再検討会議は、国際刑事裁判所が侵略犯罪に対して管轄権を行使する前提として、侵略罪の定義を明確にした。これによれば、ローマ規程8条の2は、侵略犯罪の定義の前提として、「侵略の行為」とは、他国の主権、領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるものをいう。」とし、「以下のいかなる行為も、宣戦布告に関わりなく、1974年12月14日の国際連合総会決議3314(XXIX)に一致して、侵略の行為とみなすものとする」として、決議3314第3条(a)から(g)と同一の定義の行為を列挙した。ローマ規程8条の2は決議3314と異なり、安保理の認定について何らの言及もしておらず、侵略の認定を安保理の認定にかからしめないとした点で、重要である。
(c)第二次世界大戦前にさかのぼれば、1928年に締結された「戦争放棄に関する条約」、(いわゆる「不戦条約」。ケロッグ=ブリアン規約ともよばれる)は、「国際紛争の解決のため戦争に訴えることを非とし、かつその相互の関係において国家の政策の手段としての戦争を放棄すること」を各締約国は厳粛に宣言すると規定している(1条)。本条約の締結にあたっても、国家は自国領域が攻撃を受けた場合に自衛のための戦争に訴える権利があることは前提とされていたものの、自衛以外の、「国家の政策の手段としての戦争」は、本条約によってすべて違法化されるに至った。本条約は1929年に発効し、日本を含む当時のほとんどすべての国によって広く受け入れられた。日本は、1929年にこの不戦条約を批准したにもかかわらず、1931年に「満州事変」を起こし、満州「事変」は宣戦布告によって始まる正式な「戦争」でないと主張するとともに、これは中国における日本の権益を擁護するための自衛戦争であって不戦条約の違反ではないと主張した。しかし、当時、国際連盟で日本の立場を支持する国はなく、連盟は、満州事変は日本の自衛戦争にはあたらないというリットン調査団報告書に基づき、42対1(日本)、棄権1の多数で日本の撤退を求める決議を採択した。 以上から、 (a)安倍首相の発言の主旨が、仮に戦前の国際法についてのものであるとしても、日本が行った「満州事変」以降の武力行使は、当時の国際法の下でも明白に違法な武力行使、すなわち侵略戦争であるとみなされていたことは動かしえない事実である。
(b)侵略の定義はないという安倍首相、及び日本の外務省の見解は、過去約1世紀にわたって国際社会が築き上げ発展させてきた国際法の基本的な原則の存在を著しく軽視・否定するものであり、第二次世界大戦の反省にたって武力行使を原則的に違法とした国連憲章の精神を尊重しないものと言わざるを得ない。こうした立場を公然ととることは、平和を基調とする国際秩序を危うくするものである。
日本は、本会合に参加して積極的役割を果たしており、 「(イ)第二次大戦以降長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成されたことは歴史的意義を有する。 (ロ)今回採択された改正規程は、一定の条件が満たされれば、将来ICCが安保理の侵略行為の認定なしに侵略犯罪の管轄権を行使することを認める内容となっている。これまで安保理常任理事国が安保理の認定権限を最優先する対応をとっていたことからすれば、画期的な合意内容と言える」 と評価している。安倍首相の答弁は、日本も参加して行われた国際刑事裁判所規程検討会議の合意内容を貶めるものである。一連の発言は、国際法、そして日本も参加して形成された重要な国際的コンセンサスに反するものである。 (2) 半澤健市氏(「リベラル21」) 「侵略」は国際的に明快に定義されている。国連が定義しているのである。現実の外交は国益の対立と妥協、対立と武力衝突の連続である。 安保理事会の力学も人々には周知の事実である。だからといって、「侵略という定義は学会的にも国際的にも定まっていない」などという無知な発言を認めるわけにはいかない。 (3)長谷川三千子氏(産経新聞「正論」2015.3.17) 「侵略」という語はヴェルサイユ条約以来「戦争の勝者が敗者に対して自らの要求を正当化するために負わせる罪」のレッテルとして登場した経緯があり、国際社会において法の支配ではなく力の支配を肯定し、国家の敵対関係をいつまでも継続させる概念である。
(4)日本共産党「しんぶん赤旗」2013.5.12
1974年12月の国連総会で採択された総会決議3314で「侵略の定義」は明確にされています。その第1条では、「侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若(も)しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使」であると明確に定義されています。この決議にもとづき「侵略犯罪」を定義した国際刑事裁判所の「ローマ規程」改正決議が2010年6月に全会一致で採択されています。 2度にわたる世界大戦とその後の国際紛争の経験から導き出された国際的な定義です。 ところが、安倍首相はこの決議について「安保理が侵略行為の存在を決定するためのいわば参考としてなされたもの」(8日、参院予算委)とのべ、過去の個別の戦争にはあてはまらないといい逃れようとしています。 しかし、日本の過去の戦争についていうならば、「侵略の定義」を持ち出すまでもなく明確な侵略戦争であることは国際的に確定しています。 なにより、日本が受諾したポツダム宣言は「日本国国民を欺瞞(ぎまん)し之(これ)をして世界征服の挙に出づるの過誤を犯さしめたる者の権力及勢力は永久に除去せられざるべからず」(第6項)とのべています。国際連合憲章も53条で日本、ドイツ、イタリアがとった政策を「侵略政策」と規定し、その「再現に備え…侵略を防止する」としています。 安倍首相が「式典」まで強行して祝ったサンフランシスコ平和条約では、太平洋戦争を「侵略戦争であった」と認定した極東国際軍事裁判(東京裁判)の判決を受諾しています。 もし、安倍首相が「侵略の定義」が定まっていないなどとして、日本の侵略戦争を否定するなら、これら戦後国際政治の秩序をまるごと否定することになるのです。
(5)韓国中央日報(2013.5.9)
日本の安倍晋三首相は8日、「(1974年の)国連総会で“侵略”の定義について決議したが、それは安保理が侵略行為を決めるために参考とするためのもの」としながら「侵略の定義は、いわゆる学問的なフィールド(分野)で多様な議論があり、決まったものはない」と話した。安倍首相のこの日の発言は74年当時、日本政府まで賛成した国連総会決議まで“参考事項”に格下げしつつ侵略否定に出たものだ。 彼はこの日の参議院予算委員会で、民主党の大河原雅子議員の「首相が先月末の国会で『侵略の定義はない。その人ごとに、その立場により違う』と話したことは74年の“侵略”についての定義を決議した国連総会の決定を無視することではないのか」という質問に対してこのように答えた。 大河原議員の「国連総会決議案を“参考”に変えるのは容認できない。首相の『侵略の定義はない』という発言を撤回しなさい」という追及に、安倍首相は「国連総会で決定されたものを指針としながら最終的な判断をするのが安保理だが、安保理はどんな個別案件に対してもまだ(侵略の定義について)決めたことはない」と主張した。 国連は74年12月14日付で侵略の定義を規定する決議案(国連総会決議第3314号)を採択した。付属文書で「侵略は、ある国が他国の主権、領土保全または政治的独立に反して武力を行使すること」で定義している。 これと関連して、韓国の外交部関係者は「安保理が方法論をめぐり論争をすることはできるが、侵略の定義を規定した国連総会決議をひっくり返したり否定したりすることはできないもの」としながら「『安保理で決定されなかったために侵略の定義はない』とする安倍首相の主張は、国際社会の秩序自体を全面否定した妄言」と話した。 安倍首相はまた、この日の強制労働および慰安婦犠牲者の補償問題などに関連し、「65年に締結された日韓基本条約の請求権協定で完全に、そして最終的に解決されたもの」としながら「私は、このような条約を結んだら各国が過去問題は過去問題として新しい歩みを踏み出すことこそ人類の知恵だと考える」と主張した。
8 侵略の定義に関する国連総会決議3314
A 条文 1974年の侵略の定義に関する国連総会決議3314は、以下のとおりである。 なお、この決議においては、長い前文で侵略の定義を定める背景と理由を述べたあとこう書いている。 「Believing that, although the question whether an act of aggression has been committed must be considered in the light of all the circumstances of each particular case, it is nevertheless desirable to formulate basic principles as guidance for such determination(侵略行為が行われた否かという問題は、個々の事件につきそのあらゆる状況に照らして考慮されなければならないが、それにもかかわらずこの問題についての決定のためのガイダンスとして基本的な原則を定めることは望ましいことであると信じて、次の侵略の定義を採択する)」 ★ Definition of Aggression, United Nations General Assembly Resolution 3314 (XXIX). 】 侵略の定義に関する国連総会決議3314(1974.12.14国連総会第29回総会)略称:UNGA Res.3314 Article I Aggression is the use of armed force by a State against the sovereignty, territorial integrity or political independence of another State, or in any other manner inconsistent with the Charter of the United Nations, as set out in this Definition. 第1条(侵略の定義) 侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であって、この定義に述べられているものをいう。 Article 2 The First use of armed force by a State in contravention of the Charter shall constitute prima facie evidence of an act of aggression although the Security Council may, in conformity with the Charter, conclude that a determination that an act of aggression has been committed would not be justified in the light of other relevant circumstances, including the fact that the acts concerned or their consequences are not of sufficient gravity. 第2条(武力の最初の使用) 国家による国際連合憲章に違反する武力の最初の使用は、侵略行為の一応の証拠を構成する。ただし、安全保障理事会は、国際連合憲章に従い、侵略行為が行われたとの決定が他の関連状況(当該行為又はその結果が十分な重大性を有するものではないという事実を含む。)に照らして正当に評価されないとの結論を下すことができる。 Article 3 Any of the following acts, regardless of a declaration of war, shall, subject to and in accordance with the provisions of article 2, qualify as an act of aggression: (a) The invasion or attack by the armed forces of a State of the territory of another State, or any military occupation, however temporary, resulting from such invasion or attack, or any annexation by the use of force of the territory of another State or part thereof, (b) Bombardment by the armed forces of a State against the territory of another State or the use of any weapons by a State against the territory of another State; (c) The blockade of the ports or coasts of a State by the armed forces of another State; (d) An attack by the armed forces of a State on the land, sea or air forces, or marine and air fleets of another State; (e) The use of armed forces of one State which are within the territory of another State with the agreement of the receiving State, in contravention of the conditions provided for in the agreement or any extension of their presence in such territory beyond the termination of the agreement; (f) The action of a State in allowing its temtory, which it has placed at the disposal of another State, to be used by that other State for perpetrating an act of aggression against a third State; (g) The sending by or on behalf of a State of armed bands, groups, irregulars or mercenaries, which carry out acts of armed force against another State of such gravity as to amount to the acts listed above, or its substantial involvement therein. 第3条(侵略行為) 次に掲げる行為は、いずれも宣戦布告の有無に関わりなく、二条の規定に従うことを条件として、侵略行為とされる。 (a) 一国の軍隊による他国の領域に対する侵入若しくは、攻撃、一時的なものであってもかかる侵入若しくは攻撃の結果もたらせられる軍事占領、又は武力の行使による他国の全部若しくは一部の併合 (b) 一国の軍隊による他国の領域に対する砲爆撃、又は国に一国による他国の領域に対する兵器の使用 (c) 一国の軍隊による他国の港又は沿岸の封鎖 (d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍若しくは空軍又は船隊若しくは航空隊に関する攻撃 (e) 受入国との合意にもとづきその国の領域内にある軍隊の当該合意において定められている条件に反する使用、又は、当該合意の終了後のかかる領域内における当該軍隊の駐留の継続 (f) 他国の使用に供した領域を、当該他国が第三国に対する侵略行為を行うために使用することを許容する国家の行為 (g) 上記の諸行為に相当する重大性を有する武力行為を他国に対して実行する武装した集団、団体、不正規兵又は傭兵の国家による若しくは国家のための派遣、又はかかる行為に対する国家の実質的関与 Article 4 The acts enumerated above are not exhaustive and the Security Council may determine that other acts constitute aggression under the provisions of the Charter. 第4条(前条以外の行為)
前条に列挙された行為は網羅的なものではなく、安全保障理事会は、その他の行為が憲章の規定の下で侵略を構成すると決定することができる。 Article 5 1. No consideration of whatever nature, whether political, economic, military or otherwise, may serve as a justification for aggression. 2. A war of aggression is a crime against international peace. Aggression gives rise to international responsibility. 3. No territorial acquisition or special advantage resulting from aggression is or shall be recognized as lawful.
第5条(侵略の国際責任)
1 政治的、経済的、軍事的又はその他のいかなる性質の事由も侵略を正当化するものではない。
2 侵略戦争は、国際の平和に対する犯罪である。侵略は、国際責任を生じさせる。
3 侵略の結果もたらせられるいかなる領域の取得又は特殊権益も合法的なものではなく、また合法的なものととし承認されてはならない。 Article 6 Nothing in this Definition shall be construed as in any way enlarging or diminishing the scope of the Charter, including its provisions concerning cases in which the use of force is lawful.
第6条(憲章との関係)
この定義中のいかなる規定も、特に武力の行使が合法的である場合に関する規定を含めて、憲章の範囲をいかなる意味においても拡大し、又は縮小するものと解してはならない。 Article 7 Nothing in this Definition, and in particular article 3, could in any way prejudice the right to self-determination, freedom and independence, as derived from the Charter, of peoples forcibly deprived of that right and referred to in the Declaration on Principles of International Law concerning Friendly Relations and Cooperation among States in accordance with the Charter of the United Nations, particularly peoples under colonial and racist regimes or other forms of alien domination: nor the right of these peoples to struggle to that end and to seek and receive support, in accordance with the principles of the Charter and in conformity with the above-mentioned Declaration.
第7条(自決権)
この定義中のいかなる規定も、特に、第三条は、「国際連合憲章に従った諸国家間の友好関係と協力に関する国際法の諸原則についての宣言」に言及されている。その権利を強制的に奪われている人民の、特に植民地体制、人種差別体制その他の形態の外国支配化の下にある人民の、憲章から導かれる自決、自由及び独立の権利を、また国際連合諸原則及び上記の宣言に従いその目的のために闘争し、支援を求め、かつ、これを受け入れるこれらの人民の権利をいかなる意味においても害するものとするものではない。 Article 8 In their interpretation and application the above provisions are interrelated and each provision should be construed in the context of the other provisions.
第8条(想定の解釈)
上記の諸規定は、その解釈及び適用上、相互に関連するものであり、各規定は、他の規定との関連において解されなければならない。 B わが国がとった態度に関する外務省の解説(「わが外交の近況」(外交青書)1975年版上巻)
第29回国連総会は,法律問題としては,国連国際法委員会報告書,国連商取引法委員会報告書,国際司法裁判所の役割再検討等の議題を審議したほか,侵略の定義特別委員会報告書の審議を行い,12月14日,「侵略の定義」をコンセンサス(但し中国不参加)で採択した。この定義が採択されるにいたつた経緯,定義の性格,内容及び定義作成過程においてわが国のとつた態度は次のとおりである。 1. 経緯 侵略を定義する問題は,国際連盟時代より取上げられた古い歴史をもつ問題である。国際連合成立後においては,1950年の第5回総会におけるソ連の主張が契機となり,58年まで国連国際法委員会,侵略の定義特別委員会及び第6委員会等で審議されたが,結論を得ることができず,本件問題は58年以後10年間棚上げとなつていた。 67年の第22回総会においてあらためてわが国を含む35カ国よりなる侵略の定義特別委員会が設置され,68年より同特別委は毎年一回審議を行つてきた。結局,7年間にわたる審議の結果,74年,特別委員会案が特別委参加国のコンセンサスで作成され,この案がそのまま第29回国連総会で採択された。 目次へ 2.「侵略の定義」の性格及び内容 (1) 今回採択された「侵略の定義」は国連憲章の存在を前提としたものであるが,憲章上,侵略行為の存在を決定する権限は安全保障理事会にあり,今回の侵略の定義は,主として安保理がその決定を行うに際して用いるガイドラインとして作成されたものである。 従つて,ある国のある行為が侵略であるか否かがこの定義により直ちに決定されるというものではない。 (2) 定義は,まず第1に,一般的定義として他国の主権,領土保全,政治的独立に対する又は国際連合の目的と両立しない方法による武力の行使が侵略とされ得るものであることを明らかにした上で,武力の先制行使に関し,国際連合憲章に違反した武力の先制行使は侵略行為の一応十分な証拠であるとし,かつ,侵略行為とされ得る典型的行為を列挙している。列挙された行為の中には,他国の領土に対する侵入,攻撃のほか,沿岸封鎖,陸海空軍や船隊・航空機隊に対する攻撃,駐留軍の駐留に関する合意に反する使用や合意終了後の駐留の継続,侵略国に侵略行為のために領土の使用を許可する行為,不正規兵等による武力行使等が含まれている。 第2に,定義は侵略を正当にする事由はないこと,侵略戦争は国際の平和に対する罪であることを確認した上で,侵略の結果としての領土の取得又は特殊権益は合法的なものではなく,かつ合法的なものとして承認されてはならない旨,定めている。 侵略の定義に際しては,自衛権に基づく武力行使等合法的な武力行使が侵略とはされないためのセーフガードが必要であるが,この点については,この定義のいかなる規定も,武力の行使が合法的である場合に関する規定を含む憲章の範囲を拡大又は縮小するものと解してはならないとされている。 目次へ 3. わが国の態度 わが国は「侵略の定義」を作成する作業は国際の平和の維持のための国連集団安全保障体制との関連で,有意義かつ重要であるとの認識に立つて,67年に設立された本件特別委の構成国となつてこの作業に積極的に参加して来たが,右作成作業においては,第1に国連憲章上,侵略行為の存在を決定するのは安全保障理事会であることを念頭におくべきこと,第2に安保理による右決定は国連の集団安保体制を発動させる前提となる重要なものであるので,右決定に際してのガイドラインたる定義は,多くの国にとり受諾可能な妥当な内容のものとすべきであること等を基本的態度として,諸問題に対処した。 わが国としては,全体としては,妥当な定義が作成されたと考え,国連総会においては,その採択を支持した。
9 ローマ規程再検討会議における改正条項を採用する決議(RC/Res.6)
2010年6月11日、ウガンダのカンパラで開かれた国際刑事裁判所のローマ規定再検討会議において、侵略の定義に関する決議の内容に一致した定義に規程独自の定義を付加し、管轄権行使の諸要件と手続きをも含めた改正条項を採用する決議(RC/Res.6)が参加国111カ国のコンセンサスにより採択された。この時、日本政府は投票には参加しなかったものの、コンセンサスを妨げることはなかった。但し、同改正は現在、発効していない。
A 改正条文(外務省の解説はBに)
Resolution RC/Res.6
Adopted at the 13th plenary meeting, on 11 June 2010, by consensus
RC/Res.6 The crime of aggression
(改正部分)
Annex I
Amendments to the Rome Statute of the InternationalCriminal Court on the crime of aggression
1 Article 5, paragraph 2, of the Statute is deleted. 2 The following text is inserted after article 8 of the Statute:
Article 8 bis Crime of aggression
1. For the purpose of this Statute, “crime of aggression” means the planning,preparation, initiation or execution, by a person in a position effectively to exercise controlover or to direct the political or military action of a State, of an act of aggression which, byits character, gravity and scale, constitutes a manifest violation of the Charter of the UnitedNations.
2. For the purpose of paragraph 1, “act of aggression” means the use of armed force bya State against the sovereignty, territorial integrity or political independence of anotherState, or in any other manner inconsistent with the Charter of the United Nations. Any ofthe following acts, regardless of a declaration of war, shall, in accordance with UnitedNations General Assembly resolution 3314 (XXIX) of 14 December 1974, qualify as an actof aggression:
(a) The invasion or attack by the armed forces of a State of the territory ofanother State, or any military occupation, however temporary, resulting from such invasionor attack, or any annexation by the use of force of the territory of another State or partthereof;
(b) Bombardment by the armed forces of a State against the territory of anotherState or the use of any weapons by a State against the territory of another State;
(c) The blockade of the ports or coasts of a State by the armed forces of anotherState;
(d) An attack by the armed forces of a State on the land, sea or air forces, ormarine and air fleets of another State;
(e) The use of armed forces of one State which are within the territory of anotherState with the agreement of the receiving State, in contravention of the conditions providedfor in the agreement or any extension of their presence in such territory beyond thetermination of the agreement;
(f) The action of a State in allowing its territory, which it has placed at thedisposal of another State, to be used by that other State for perpetrating an act of aggressionagainst a third State;
(g) The sending by or on behalf of a State of armed bands, groups, irregulars ormercenaries, which carry out acts of armed force against another State of such gravity as toamount to the acts listed above, or its substantial involvement therein.
3.The following text is inserted after article 15 of the Statute:
Article 15 bis Exercise of jurisdiction over the crime of aggression(State referral, proprio motu)
1. The Court may exercise jurisdiction over the crime of aggression in accordance witharticle 13, paragraphs (a) and (c), subject to the provisions of this article.
2. The Court may exercise jurisdiction only with respect to crimes of aggressioncommitted one year after the ratification or acceptance of the amendments by thirty StatesParties.
3. The Court shall exercise jurisdiction over the crim
e of aggression in accordance withthis article, subject to a decision to be taken after 1 January 2017 by the same majority ofStates Parties as is required for the adoption of an amendment to the Statute.
4. The Court may, in accordance with article 12, exercise jurisdiction over a crime ofaggression, arising from an act of aggression committed by a State Party, unless that StateParty has previously declared that it does not accept such jurisdiction by lodging adeclaration with the Registrar. The withdrawal of such a declaration may be effected at anytime and shall be considered by the State Party within three years.
5. In respect of a State that is not a party to this Statute, the Court shall not exercise itsjurisdiction over the crime of aggression when committed by that State’s nationals or on itsterritory.
6. Where the Prosecutor concludes that there is a reasonable basis to proceed with aninvestigation in respect of a crime of aggression, he or she shall first ascertain whether theSecurity Council has made a determination of an act of aggression committed by the Stateconcerned. The Prosecutor shall notify the Secretary-General of the United Nations of thesituation before the Court, including any relevant information and documents.
7. Where the Security Council has made such a determination, the Prosecutor mayproceed with the investigation in respect of a crime of aggression.
8. Where no such determination is made within six months after the date ofnotification, the Prosecutor may proceed with the investigation in respect of a crime ofaggression, provided that the Pre-Trial Division has authorized the commencement of theinvestigation in respect of a crime of aggression in accordance with the procedure containedin article 15, and the Security Council has not decided otherwise in accordance with article16.
9. A determination of an act of aggression by an organ outside the Court shall bewithout prejudice to the Court’s own findings under this Statute.
10. This article is without prejudice to the provisions relating to the exercise ofjurisdiction with respect to other crimes referred to in article 5.
4.The following text is inserted after article 15 bis of the Statute:
Article 15 ter Exercise of jurisdiction over the crime of aggression(Security Council referral)
1. The Court may exercise jurisdiction over the crime of aggression in accordance witharticle 13, paragraph (b), subject to the provisions of this article.
2. The Court may exercise jurisdiction only with respect to crimes of aggressioncommitted one year after the ratification or acceptance of the amendments by thirty StatesParties.
3. The Court shall exercise jurisdiction over the crime of aggression in accordance withthis article, subject to a decision to be taken after 1 January 2017 by the same majority ofStates Parties as is required for the adoption of an amendment to the Statute.
4. A determination of an act of aggression by an organ outside the Court shall bewithout prejudice to the Court’s own findings under this Statute.
5. This article is without prejudice to the provisions relating to the exercise ofjurisdiction with respect to other crimes referred to in article 5.
The following text is inserted after article 25, paragraph 3, of the Statute:
3 bis. In respect of the crime of aggression, the provisions of this article shall apply only topersons in a position effectively to exercise control over or to direct the political or militaryaction of a State.
The first sentence of article 9, paragraph 1, of the Statute is replaced by the followingsentence:
1. Elements of Crimes shall assist the Court in the interpretation and application ofarticles 6, 7, 8 and 8 bis.
The chapeau of article 20, paragraph 3, of the Statute is replaced by the followingparagraph; the rest of the paragraph remains unchanged:
3. No person who has been tried by another court for conduct also proscribed underarticle 6, 7, 8 or 8 bis shall be tried by the Court with respect to the same conduct unless theproceedings in the other court:
Annex II
Amendments to the Elements of Crimes
Article 8 bis Crime of aggression
Introduction
1.It is understood that any of the acts referred to in article 8 bis, paragraph 2, qualifyas an act of aggression.
2.There is no requirement to prove that the perpetrator has made a legal evaluation asto whether the use of armed force was inconsistent with the Charter of the United Nations.
3.The term “manifest” is an objective qualification.
4.There is no requirement to prove that the perpetrator has made a legal evaluation asto the “manifest” nature of the violation of the Charter of the United Nations.
Elements
1.The perpetrator planned, prepared, initiated or executed an act of aggression.
2.The perpetrator was a person1 in a position effectively to exercise control over or to direct the political or military action of the State which committed the act of aggression
3. The act of aggression – the use of armed force by a State against the sovereignty,territorial integrity or political independence of another State, or in any other mannerinconsistent with the Charter of the United Nations – was committed.
4. The perpetrator was aware of the factual circumstances that established that such ause of armed force was inconsistent with the Charter of the United Nations.
5. The act of aggression, by its character, gravity and scale, constituted a manifestviolation of the Charter of the United Nations.
6. The perpetrator was aware of the factual circumstances that established such amanifest violation of the Charter of the United Nations.
Annex III
Understandings regarding the amendments to the RomeStatute of the International Criminal Court on the crime ofaggression
Referrals by the Security Council
1. It is understood that the Court may exercise jurisdiction on the basis of a SecurityCouncil referral in accordance with article 13, paragraph (b), of the Statute only withrespect to crimes of aggression committed after a decision in accordance with article 15 ter,paragraph 3, is taken, and one year after the ratification or acceptance of the amendmentsby thirty States Parties, whichever is later.
2. It is understood that the Court shall exercise jurisdiction over the crime ofaggression on the basis of a Security Council referral in accordance with article 13,paragraph (b), of the Statute irrespective of whether the State concerned has accepted theCourt’s jurisdiction in this regard.
Jurisdiction ratione temporis
3. It is understood that in case of article 13, paragraph (a) or (c), the Court mayexercise its jurisdiction only with respect to crimes of aggression committed after a decisionin accordance with article 15 bis, paragraph 3, is taken, and one year after the ratification oracceptance of the amendments by thirty States Parties, whichever is later.
Domestic jurisdiction over the crime of aggression
4. It is understood that the amendments that address the definition of the act ofaggression and the crime of aggression do so for the purpose of this Statute only. Theamendments shall, in accordance with article 10 of the Rome Statute, not be interpreted aslimiting or prejudicing in any way existing or developing rules of international law forpurposes other than this Statute.
5. It is understood that the amendments shall not be interpreted as creating the right orobligation to exercise domestic jurisdiction with respect to an act of aggression committedby another State.
Other understandings
6. It is understood that aggression is the most serious and dangerous form of the illegaluse of force; and that a determination whether an act of aggression has been committedrequires consideration of all the circumstances of each particular case, including the gravityof the acts concerned and their consequences, in accordance with the Charter of the UnitedNations.
7. It is understood that in establishing whether an act of aggression constitutes amanifest violation of the Charter of the United Nations, the three components of character,gravity and scale must be sufficient to justify a “manifest” determination. No onecomponent can be significant enough to satisfy the manifest standard by itself.
B 国際刑事裁判所(ICC)ローマ規程検討会議で採択された規程改正内容と評価(日本外務省による解説 2010.6.11)
(1)採択された規程改正(含:関連条項の維持) (A)侵略犯罪に関する規定(ローマ規程第5条ほか)
(イ)1998年ローマ会議では議論が収斂せず、継続協議になっていたものであり、今回の会合で、定義及び管轄権行使の条件を新たに追加するローマ規程改正が採択された。 (ロ)会議最終日深夜まで行われた交渉の結果まとめられた管轄権行使の条件の規定は極めて複雑なものとなっており、今後条文の解釈を確定していく必要があるが、採択された管轄権行使のメカニズムはおおむね次のようなものである。 (a) 1)締約国付託及び検察官の職権による捜査の開始については、国連安全保障理事会による国家の侵略行為の認定がない場合であっても、予審裁判部門の許可がある場合には、安全保障理事会がローマ規程第16条に基づき別段の決定を行う場合を除き、管轄権の行使が開始される。 2)安全保障理事会による付託がある場合には、それにより管轄権の行使が開始される。 (b)ただし、実際の管轄権の開始は、当該改正条項を30か国が批准又は受諾を行ってから1年が経過した時点、又は、2017年1月1日以降に行われる管轄権行使開始についての締約国団による別途の決定の時点、のいずれかより遅い時点となる。
(B)戦争犯罪に関する経過規定(ローマ規程第124条)の維持
(イ)ローマ規程第124条は、戦争犯罪に関する経過規定として、「いずれの国も、(中略)この規程の締約国になる際、この規程が当該国について効力が生じてから7年の期間、ある犯罪が当該国の国民によって又は当該国の領域内において行われたとされる場合には、第8条に規定する犯罪類型に関して裁判所が管轄権を有することを受諾しない旨を宣言することができる。(中略)この条の規定については(中略)検討会議で審議する」と規定している。 (ロ)今回の検討会議で、当該条項は当面維持した上で、5年後に開催される第14回締約国会合(ASP)で再び見直すことが決定された。
(C)非国際的武力紛争における一定の武器の使用の犯罪化(ローマ規程第8条)
非国際的武力紛争における戦争犯罪を定めるローマ規程第8条2(e)に、「毒物又は毒を施した兵器」、「窒息性、毒性ガス又はこれらに類するガス及びこれらと類似のすべての液体、物質又は考案物」及び「人体において容易に展開し、又は扁平となる弾丸」のそれぞれの使用を対象犯罪として追加することが決定された。
(2)評価 (A)侵略犯罪
(イ)第二次大戦以降長らく議論されてきた侵略犯罪の法典化が達成されたことは歴史的意義を有する。 (ロ)今回の会合の最大の論点は、個人の侵略犯罪に関するICCの管轄権行使の条件。とりわけ、国連安保理が国家の侵略行為の存在を認定する権利を有していることとの関係をどのように整理するかについて最も多くの時間が費やされた。今回採択された改正規程は、一定の条件が満たされれば、将来ICCが安保理の侵略行為の認定なしに侵略犯罪の管轄権を行使することを認める内容となっている。これまで安保理常任理事国が安保理の認定権限を最優先する対応をとっていたことからすれば、画期的な合意内容と言える。 (ハ)他方、各国の意見の相違も反映して、今般採択された改正規程は、極めて複雑で他に例をみない特殊な規定となっており、侵略犯罪をめぐりICCが実際に管轄権を行使するようになるまでに、その法的解釈について締約国間で共通の理解を形成していくことが求められている。 (ニ)日本は東京裁判の経験を有する国として、ICCによる侵略犯罪についての管轄権の行使を重視するとの立場を踏まえ、コンセンサス形成に積極的に参加した。特に議論が政治的意見の対立に流されることが多い中で、刑事法に関するローマ規程の厳格な法的解釈の必要性を主張し、法的論点を整理し解決策を示す姿勢は、参加国の中で高く評価された(→小松政府代表による侵略犯罪作業部会における演説)。なお、今回の規程改正は、現行ローマ規程の改正手続との関係で疑義が残ること、締約国間及び締約国と非締約国間の法的関係を複雑なものとすること、非締約国の侵略行為による侵略犯罪を必要以上に裁判所の管轄権行使の条件から外していること等から、規程改正の採択のコンセンサスには参加しないが、それをブロックすることはしないとの対応を行った(→小松政府代表による投票理由説明その1)。
(B)ローマ規程第124条の維持
同条は1998年のローマ外交会議の際に日本の貢献により挿入された経過規定であるが、ICCの普遍化、特にアジア諸国のICC加入を促進する観点からは重要な意味を持ちうる規定であることから(ICC締約国111か国のうち、アジアは15か国のみ)、日本としては、ローマ規程の一体性を維持するためにはかかる例外規定は削除すべきであるとする各国の意向にも配慮しつつ、1)今回は規定を削除しないこと、2)5年後に再度見直すことというパッケージづくりに積極的に動いた。このような日本の貢献については、アジア諸国等のみならず、欧州諸国からも高い評価の声が寄せられた。
10 「21世紀構想懇談会」報告書
A 報告書の内容
別ノート「21世紀構想懇談会」報告書 を参照
https://www.facebook.com/notes/岩下-哲雄/メモ21世紀構想懇談会報告書201586木/911709432241304?notif_t=like
B 報告書に対する内外の反応
(1) 国内メディア社説 ① 読売新聞社説(27.8.7) ◆過去への反省と謝罪が欠かせぬ◆ 戦後日本が過去の誤った戦争への反省に立って再出発したことを、明確なメッセージとして打ち出さねばならない。 来週発表される戦後70年談話を巡って議論を重ねてきた21世紀構想懇談会が、安倍首相に報告書を提出した。 報告書は、戦前の失敗に学んだ戦後日本の国際協調の歩みを評価し、積極的平和主義を一層具現化していく必要性を指摘した。 その中で、日本が1931年の満州事変以後、大陸への「侵略」を拡大したと認定した。的を射た歴史認識と言える。
◆「満州事変」が分岐点だ
一方で報告書は、「侵略」に脚注を付し、一部委員から異議が出たことも示した。国際法上「侵略」の定義が定まっていないこと、歴史的にも満州事変以後を「侵略」と断定するには異論があることなどが理由に挙げられた。 だが、歴史学者の間では、軍隊を送り込んで他国の領土や主権を侵害することが「侵略」だと定義されてきた。 その意味で、満州事変以後の行為は明らかに侵略である。自衛のためという抗弁は通らない。自衛以外の戦争を禁止した28年の不戦条約にも違反していた。 他の欧米諸国も侵略をしたという開き直りは通用しない。日本はアジア解放のために戦争をしたという主張も誤りと言えよう。 報告書はまた、日本が「民族自決の大勢に逆行し、特に30年代後半から、植民地支配が過酷化した」との見解を示した。 戦後日本の歩みは「30年代から40年代前半の行動に対する全面的な反省の上に成り立っている」と記した。中国や韓国との和解に向けた努力が必要なことにも言及した。いずれも重要な指摘だ。 報告書は、謝罪に関しては提言していない。座長代理の北岡伸一国際大学長は記者会見で、「お詫びするかどうかは首相の判断だ」と述べたが、お詫びの仕方を検討してもよかったのではないか。
◆誤解招けば国益を害す
報告書前文には「戦後70年を機に出される談話の参考となることを期待する」と記されている。 安倍首相談話で注目されているのは、戦後50年の村山首相談話と60年の小泉首相談話に盛り込まれたキーワードの扱いだ。これら二つの談話には「植民地支配と侵略」への「痛切な反省」と「心からのお詫び」が明記されていた。 過去の首相談話のキーワードの有無だけで、今回の談話の政治的意味を機械的に判断すべきではないだろう。とはいえ、日本の首相がどのような歴史認識を示すのか、国際社会は注視している。 安倍首相は「侵略の定義は国際的にも定まっていない」と語り、物議を醸したことがある。 中曽根元首相は、本紙への寄稿の中で「現地の人からすれば日本軍が土足で入り込んできたわけで、まぎれもない侵略行為だった」と明言している。
◆心に響くお詫びの意を
談話に「侵略」と書かなければ、首相は侵略の事実を認めたくないと見られても仕方がない。それにより、日本の行動に疑念が持たれたり、対日信頼感が揺らいだりすれば、国益を損なう。 日本の戦前の行為により多大な苦痛と犠牲を強いられた人々に対し、何の意思表示もしないことは、「反省なき日本」という誤解を与える恐れが強い。 子々孫々の代まで謝罪を続けることに、国民の多くが違和感を抱くのは理解できる。 今回限りということで、けじめをつけてはどうか。 安倍談話は、村山談話の引用など歴代内閣の見解を踏まえる間接的な表現であっても、「侵略」と「植民地支配」に対する心からのお詫びの気持ちが伝わる言葉を盛り込むべきである。 あるいは、戦争で被害を受けた人々の心に響く、首相自身のお詫びの言葉を示すことだ。 ナチス時代を率直に反省したドイツの指導者たちは、お詫びを示す直接の言葉でなくても、思いのこもった表現で、フランスなど周辺諸国の信頼を得てきた。 そうした例も参考になろう。 首相は未来志向の談話を目指したい、と述べている。しかし、過去をきちんと総括した上でこそ、国際貢献も、積極的平和主義も評価されることを銘記すべきだ。 政府・与党内では、70年談話を閣議決定すべきか否かで意見が分かれている。内閣として責任を持つべき談話である以上、やはり閣議決定する必要がある。 戦後70年の日本の歩みを堂々と世界に発信すべきだ。 ② 朝日新聞社説(2015.8.7) 戦後70年談話 和解へのメッセージを 安倍首相の戦後70年談話について検討してきた有識者懇談会が、報告書をまとめた。 これを参考に、首相は近く談話を発表するが、植民地支配と侵略、それへの反省とおわびを盛った戦後50年の村山談話について、首相はきのうも「歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」と語った。 聞く者の心に響かなければ談話を出す意味はない。具体的な言葉によって、「引き継ぐ」ことを明確にしてもらいたい。 報告書は「日本は満州事変以後、大陸への侵略を拡大し、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」と明記。また「民族自決の大勢に逆行し、特に1930年代後半から、植民地支配が過酷化した」と記した。 報告書は、首相が有識者らに求めた意見をまとめたものだ。安倍談話の草稿ではないが、戦争の経緯についてはおおむね妥当な内容と言える。 侵略を拡大したあげく、ポツダム宣言を受け入れて降伏。東京裁判を受諾してサンフランシスコ講和条約で主権を回復した後は、戦争への反省を踏まえ、新しい憲法のもと平和国家として歩んできた――。 細部に異論はあっても、これが国内外で定着してきた戦中、戦後の日本の姿だろう。 一方で、首相は「侵略の定義は定まっていない」として、こうした歴史認識を修正するような姿勢を見せてきた。 その首相の私的懇談会が、侵略だとはっきり書いた。 過ちを認めることは、同じ轍(てつ)を踏まないために欠かせない。 過去の国策の誤りを率直に認め、痛切な反省と心からのおわびを表明した村山談話は、国際社会に評価され、以後の日本外交の基礎になってきた。 それがあるのに、新たな安倍談話を出す必要があるかどうかは意見が分かれる。それでもあえて出す以上、日本と周辺国の間に新たな誤解や不信を招くようでは本末転倒だ。 首相自身の個人的な思いを超えて、日本国民を代表し、国際社会をも納得させる歴史総括にする責任が首相にはある。 そのためにも、以下の点に心を砕いてもらいたい。 戦争の惨禍を体験した日本人や近隣諸国民は少なくなっている。まずはこの人たちの思いに寄り添う内容にすることだ。 もうひとつは、中国や韓国とのこじれた関係を打開する和解のメッセージとしての性格を明確にすることだ。 談話に何を込めるか。首相の判断を世界が注視している。 ③ 毎日新聞社説(2015.8.7) 有識者報告書 「和解」に資する談話を 安倍晋三首相の戦後70年談話について討議を重ねてきた有識者会議が報告書をまとめた。首相はこれを踏まえ、終戦記念日の前日に「安倍談話」を公表する予定だという。 報告書の構成は大きく「20世紀の教訓」「戦後日本の歩み」「欧米やアジアとの和解」「21世紀のビジョン」の4分野に分かれている。 このうち20世紀の教訓は、首相談話の歴史認識に直結する部分だ。その内容は、おおむねバランスの取れた妥当なものだと評価できる。 報告書は、産業革命で先んじた西欧が19世紀に世界の植民地化を進めたものの、20世紀初めに「ブレーキがかかった」と指摘している。 さらに第一次大戦後に中国をめぐる9カ国条約(1922年)や不戦条約(28年)が成立していたにもかかわらず、日本は「満州事変(31年)以後、大陸への侵略を拡大」し、「世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」と表記した。 日本の植民地政策については「民族自決の大勢に逆行し、特に30年代後半から植民地支配が過酷化した」と書き込んだ。 つまり戦後50年の村山富市首相談話にあった「国策の誤り」「植民地支配と侵略」「多大の損害と苦痛」「痛切な反省」などのキーワードをほぼ踏襲する認識が示されている。 有識者会議の16人は、安倍首相の私的な選任だ。歴史認識の確定を委ねられたわけではない。「侵略」の表記については、同意しない少数意見があったことも明記された。 とはいえ、首相が自らの談話のために集めた会議で、村山談話と同趣旨の内容が歴史認識の主旋律になった意味は小さくない。 もしも首相がこの部分を談話に反映させなかった場合、内外に極めて不自然な印象を与えるだろう。 報告書には穏当ではない表現もある。各国との和解の歩みを描いたパートの韓国に関する記述だ。 日本側が努力しても、韓国政府が「ゴールポスト」を動かしてきたと報告書は指摘した。韓国側の「心情」的な外交姿勢を批判するのに、日本も感情的な表現を用いるのは決して得策ではなかろう。 ただ、本質はあくまで首相談話の内容である。 70年談話に取り組む安倍首相の動機が、村山談話への不満であったことは過去の言動から疑いの余地がない。「全体として引き継ぐ」と述べながら、自ら「侵略」と明言するのを意識的に避けてきた。 70年談話は安倍氏が個人の歴史観を披歴する場ではない。日本を代表する責任者の言葉だ。その性質を自覚し、近隣国との「和解」に資するものに仕上げるべきである。 ④ 日本経済新聞社説(2015.8.7) 報告書の歴史観を首相談話に反映させよ 安倍晋三首相が設けた有識者懇談会が、満州事変があった1931年以降の日本の大陸での振る舞いを「侵略」と総括する報告書をまとめた。歴史観はひとそれぞれだが、国民意識の最大公約数にかなり近い結論ではないだろうか。首相は近く発表する戦後70年談話にこの見方を反映してほしい。 戦前日本に関する歴代首相の発言を振り返ると、「侵略戦争であった、間違った戦争であったと認識している」(細川護熙首相)などが思い出される。安倍首相は「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」として深入りを避けてきた。 有識者懇談会は政府の公式の機関ではないが、安倍首相が談話づくりに向けて設けたものだ。その見解は一定の重みを持つと解するのが自然だろう。 国家が国民の歴史観を一方向に束ねるのは行き過ぎであるが、ドイツがナチス礼賛を禁じるように戦争責任がある国にはそれなりの自律自制があってしかるべきだ。その役割を担ってきたのが村山富市首相の戦後50年談話である。 報告書は第1次世界大戦での悲惨な戦渦によって国際世論が平和主義に傾き、主要国が不戦条約や軍縮条約を締結したことをまず指摘した。そのうえで「戦争違法化という流れを逸脱した」として満州事変は侵略であり、国際秩序破壊の端緒となったと判断した。 村山談話の「わが国は遠くない過去の一時期、国策を誤り……」との表現と読み比べ、日本が反省すべき対象は何なのかをわかりやすくした点は評価してよい。 「国策として日本がアジア解放のために戦ったと主張することは正確ではない」と聖戦論を排したことも、政治家の不規則発言を抑制する効果があろう。 植民地支配については「1930年代後半から過酷化した」と分析し、初期の統治の是非には触れなかった。日韓併合を強圧的な侵略とみるか、合法的な一体化とみるかは一刀両断できるものではないが、この点で様々な異論が出ることは免れまい。 安倍首相は70年談話について記者会見で「先の大戦への反省、戦後平和国家の歩み、国際社会への貢献を書き込む」と語った。未来志向はよいことだが、過去への発言が踏み込み不足では、未来への発言も色あせる。 「侵略」を自らの言葉で語ることを期待したい。 ⑤ 産経新聞主張(2015.8.7) 戦後70年談話 首相は「過去の断罪」排せ 安倍晋三首相が戦後70年談話の作成に向けて設置した有識者会議「21世紀構想懇談会」が、報告書を提出した。 これを受け、首相は終戦の日の直前に談話を発表する意向とされる。 談話には米国や中国なども関心を抱いている。国際秩序の守り手として日本が世界に寄与する姿勢を示す、未来志向の内容となることを期待したい。 未来へ進む土台となる歴史をめぐる表現には、英知の発揮が必要である。過去を一方的に断罪した村山富市首相談話は、日本の名誉と国益を損なってきた。その轍(てつ)を踏んではなるまい。 首相は6日の広島市での記者会見で、「日本が今後どのような国になるかを世界に発信する」と談話の目的を表明した。さらに「先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩み、アジア太平洋や世界へのさらなる貢献を書き込む」と語った。妥当だろう。 報告書は、日本が取り組むべき課題として、平和や法の支配、自由貿易などからなる「20世紀後半の国際的公共システム」を維持する重要性を訴えた。 そうした価値観に反し、国際秩序を力によって変更しようとする大国の動きが顕在化している。海洋覇権をねらう中国や、ウクライナ南部クリミアを併合したロシアである。国際秩序安定のため、日本が一層の貢献を果たすのは重視すべき視点だ。 一方、報告書は満州事変以降の日本の戦争を「侵略」と記したが、国際法上の定義が十分でないとの指摘や、日本だけを侵略と断定することへの異論が複数の委員から示され、注記された。 有識者会議の議論自体、歴史にはさまざまな見方があることを示したものだ。独立を全うしようとした日本の苦難の歩みなどを軽視する傾向は残念だ。 中国、韓国は村山談話を念頭に、「植民地支配と侵略に対する心からのおわび」の表現を要求している。だが、謝罪の繰り返しは関係改善を生まない。かえって、歴史カードによる日本攻撃を招いたことを忘れてはなるまい。 首相が4月に米上下両院で行った演説は、村山談話の表現を用いずとも高い評価を得た。同談話を含め歴代内閣の立場を全体として引き継ぐというが、特定の歴史観に政府が踏み込むことは回避すべきだ ⑥ 東京新聞社説(2015.8.7)⑧ 中日新聞社説(2015.8.7) 戦後70年談話に望む 侵略への猛省を起点に 有識者会議が報告書に「植民地支配と侵略」を明記した意味は重い。安倍晋三首相は「反省とお詫(わ)び」を表明した村山、小泉両首相談話を受け継ぐべきだ。 安倍首相は戦後70年の節目にどんなメッセージを発するのか。自身の談話を出すに当たり、参考となる意見を求めた私的諮問機関「21世紀構想懇談会」がきのう、報告書を首相に提出した。 「安倍談話」は終戦記念日前日の14日にも発表される。政府の公式見解とするため、閣議決定する方向で検討しているという。
◆負の史実と向き合う
戦後50年の節目に当たる1995年の終戦記念日に村山富市首相が、60年の2005年には小泉純一郎首相がそれぞれ首相談話を閣議決定し、発表している。 その根幹は「植民地支配と侵略」により、とりわけアジア諸国の人々に多くの損害と苦痛を与えた歴史の事実を謙虚に受け止め、「痛切な反省」と「心からのお詫びの気持ち」を表明したことにある。 歴史には、立場や経験によってさまざまな見方があることは否定しないが、「負の歴史」とも向き合う勇気と誠実さが必要だ。 朝鮮半島や台湾などに対する植民地支配や、満州事変以降、大陸への侵略を拡大したことは、否定し得ない史実である。その行為を反省するなら、お詫びするのも、自然に発する心情ではないのか。 安倍首相はこの二つの首相談話を「全体として受け継ぐ」とは言いながらも、「植民地支配」「侵略」「反省」「お詫び」という文言を、自身の談話に盛り込むかどうかは明言していない。 むしろ「今まで重ねてきた文言を使うかどうかではなく、安倍政権としてどう考えているのかという観点で出したい」と、そのまま盛り込むことには否定的だ。
◆歴史認識を受け継げ
首相はかつて国会で「侵略という定義については、学界的にも国際的にも定まっていない」と答弁したことがある。 首相が昨年来、オーストラリアや米国の議会で行った演説を振り返ると、先の大戦を「反省」はしても、それを侵略とは認めず、お詫びもしないという態度を貫いているように見える。 有識者の報告書は「満州事変以後、大陸への侵略を拡大」したことや「1930年代後半から、植民地支配が過酷化」したことを明記した。複数の委員から「侵略」という文言を使うことに異議があったと脚注に記しながらも、侵略だったと断定した意味は大きい。 村山、小泉両首相談話が日本と国際社会との和解に大きな役割を果たしたことは報告書が認める事実だ。首相は自身の談話にも「植民地支配」「侵略」「反省」「お詫び」を盛り込むべきである。 根幹部分の文言を盛り込まなければ、歴代内閣の歴史認識を受け継いだことにならず、国際社会にも誤ったメッセージを与える。 共同通信社が7月17、18両日に実施した全国緊急電話世論調査でも、安倍首相の談話に「植民地支配と侵略」への「反省とお詫び」を盛り込むべきだと答えた人は50.8%と半数を超えている。 首相談話が、国民の思いと懸け離れたものでいいはずがない。 安倍首相談話が村山、小泉両首相談話の根幹部分を盛り込まないなら、発表を中止するか、閣議決定せず、私的な談話にとどめるべきだ。閣議決定によって両首相談話を「上書き」し、歴史認識を改変することが許されるはずはない。 有識者の報告書が、「侵略」を史実として認めたことは評価するが、中国や韓国との和解に関する記述が妥当とは思えない。 例えば両国との和解が進まないのは「中国側が愛国主義教育を強化」し、「朴槿恵(パククネ)政権が日本と理性的に付き合うことに意義を見出(みいだ)していない」ためとの指摘だ。 そうした一面は否定し切れないとしても、靖国神社へのA級戦犯合祀(ごうし)など日本側に起因する事情にほとんど触れず、自己正当化するような記述はとても誠実と言えまい。首相の考えに近い人を多く集めた私的懇談会の限界だろうか。
◆深甚なる反省と謝罪
戦後日本は70年間、平和国家として歩み続け、非軍事面での国際貢献を重ねてきた。先人たちの努力は、今を生きる私たちの誇りであり、その歩みを今後も引き継ぐと、国際社会に誓いたい。 未来志向は否定しないが、その起点は、侵略の拡大と植民地支配の過酷化で、特にアジアの人々に多大の損害と苦痛を与えた歴史に対する猛省にあるべきだ。他国への配慮ではなく、日本国民の誠意の表現として、深甚なる反省と謝罪の気持ちを表したい。 首相談話は、そうした国民の率直な思いを大切にすべきである。さもなければ、いずれ戦後百年を迎える日本の将来に禍根を残す。 ⑨ 北海道新聞社説(2015.8.7) 戦後70年 首相談話報告書 謝罪なしは納得できぬ 安倍晋三首相の戦後70年談話について検討してきた有識者懇談会がきのう、報告書を首相に提出した。 戦後50年の村山談話の核心部分である「植民地支配と侵略」や「痛切な反省」は盛り込んだが、「心からのおわび」の必要性には触れなかった。 首相は70年談話で「痛切な反省」を表明する一方、「植民地支配と侵略」や「おわび」の言葉は使わない意向とされる。 だが自ら設置した懇談会が「植民地支配と侵略」を明記した。「おわび」は戦後60年の小泉談話も継承している。あえて削除すれば「痛切な反省」も疑われよう。 首相はきのうの記者会見で「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」とあらためて述べた。ならば村山談話の核心部分をきちんと踏襲すべきだ。 報告書は先の大戦について「日本は満州事変以後、大陸への侵略を拡大した」と明記した。さらに「特に1930年代から植民地支配が過酷化した」と指摘した。 ただ侵略については注釈で、国際法上の定義が定まっていないなどとして、複数の委員から使用に異議があったことを付記した。 また植民地支配に関連し「日本の戦争の結果、多くのアジアの国々が独立した」と正当化を疑わせるような記述もある。首相がこれらを理由に侵略などに言及しないことは許されない。 日中関係については、2007年に温家宝首相が村山、小泉両談話を評価したことを「和解の一つの区切り」とし、今後は戦略的互恵関係を推進すべきだとした。 日韓関係では従軍慰安婦問題をめぐり日本側が93年の河野談話などで距離を縮める努力をしたのに、今も韓国内に「否定的な対日観」が強く残っていると指摘した。 いずれも首相が談話に「おわび」を盛り込む必要がない理由付けのように読み取れる。 だが日本が中韓両国との間で歴史問題を引きずっているのは、ほかならぬ首相の靖国神社参拝などの言動が要因の一つである。 「おわび」表明で首相の歴史認識に対する中韓両国の疑念を払拭(ふっしょく)し、関係改善につなげるべきだ。 気になるのは報告書が「国際社会は日本の積極的平和主義を評価しており、安全保障分野において従来以上の役割を担うことが期待されている」とした点だ。 談話に盛り込むことで、違憲が疑われる安保関連法案を正当化しようというのなら認められない。 ⑩ 西日本新聞社説(2015.8.7) 戦後70年談話 「自己満足」でない歴史を 安倍晋三首相は戦後70年を迎えるにあたっての首相談話を14日に発表する方向で調整に入った。談話の閣議決定も検討している。 この「戦後70年談話」に関する私的諮問機関「21世紀構想懇談会」が、これまでの議論を報告書にまとめ、首相に提出した。 懇談会が談話の素案を書くのではなく、その議論を下敷きに首相が談話を作成する-という位置付けだ。議論内容をどれだけ取り込むかは首相の自由だが、報告書は談話に一定の影響を与えそうだ。 安倍首相は70年談話で「未来志向」を強調する意向とみられる。しかし国内外では、首相が先の戦争をはじめとする日本の近現代史に関して、どのような認識を示すかに注目が集まっている。 報告書では、20世紀の日本の歩みについて「満州事変以後、大陸への侵略を拡大し」「無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」「1930年代後半から植民地支配が過酷化した」などと総括している。 「侵略」については懇談会内でも異論があったとの注釈付きだが、基本的に「侵略」「植民地支配」の認識を示している。「国策として日本がアジア解放のために戦ったと主張することは正確ではない」との記述もあり、総じて戦前、戦中の日本の行為を正当化する論調とは一線を画している。 懇談会のメンバーには保守派の論客が多いが、この記述に落ち着いたのは、やはりこうした率直な歴史認識が国内の学界でも、国際的な視点からも主流であり、常識に沿う-ということだろう。 史実の都合の良い部分だけを取り上げ、自分に有利な歴史を語る手法を「歴史修正主義」と呼ぶ。安倍首相は中国、韓国だけでなく米国からも「歴史修正主義者ではないか」との疑いを受けている。 首相がこうした疑念を拭い去りたいのであれば、「自己満足」の歴史観に陥るのではなく、あらためて自分の言葉で、常識的で穏当な歴史認識を語る必要がある。「未来志向」とは、過去を真摯(しんし)に見つめてこそ成り立つからだ。 (2)外国
(a)中国
中国の王毅外相は滞在先のクアラルンプールで6日夜、「戦争の性質について侵略なのか、それをあいまいにするのか。植民地支配なのか、その事実に向き合おうとしないのか。それが核心的な内容と思う」と述べた。
(b)韓国
韓国政府当局者は6日、懇談会報告書の「一部の内容は一方的で、無理にこじつけた主張だ」と批判し、また、聯合ニュースは報告書について、「植民地支配への謝罪の必要性に言及しなかった」と批判、「これにより安倍首相が実際の(戦後70年)談話で、植民地支配や侵略を謝罪しないという見方が強まった」と報じた。
(c)米国
アメリカ国務省のトナー副報道官は6日の記者会見で、「安倍総理大臣がワシントンでの演説で歴代内閣の歴史認識を支持するとしたことに留意している」と述べ、歴代内閣の基本的立場を引き継ぐことに期待を示したうえで、「地域の国々が強固で建設的な関係を築くことが、その地域の平和と安定につながり、ひいてはアメリカの国益にもつながる」と述べ、日本と周辺国の関係改善が進むことに期待を示した。
11 どうする安倍首相
8月7日の日テレNEWSは、こう報じている。さて、どうなるだろうか?
「来週発表する戦後70年の首相談話について、安倍首相が過去の村山談話などに盛り込まれた「侵略」との表現を踏襲しない方向で調整していることがわかった。 談話をめぐっては、現段階で「侵略」との表現を踏襲せず、直接的には用いない方向で調整している。一方、6日、安倍首相に提出された有識者会議の報告書では「侵略」を明記したが、2人の委員からは異議が出ていた。 7日、安倍首相はこうした点をあげながら、「侵略」との表現を踏襲しないことをにじませた。 安倍首相「すべての方々が同じ認識に至っていない部分も当然あるわけでございまして。そういうことも含めてですね、私は今回、報告書をしっかりと吟味をしながら、談話にまとめていきたい」 安倍首相は14日に談話を閣議決定した上で会見する方針。」