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【メモ・データベース #27】川内原発稼働等差止仮処分申立事件 鹿児島地裁決定(2015.5.22) 全文 Pt.1 記:2015.8.26(水)

◉ 概  要

 九州電力は8月11日午前10時半、川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉を起動し、再稼働させた。東日本大震災後の新規制基準下で全国初の再稼働となる。

 朝日59%、毎日57%、日経53%、NHK57%、TBS57%、共同通信56.7%、時事通信54.3%、茨城新聞57%などと、世論調査では軒並み過半数が「再稼働反対」となっている中、1年11カ月ぶり、東日本大震災の月命日の日に「原発ゼロ」が終わり、再び原発による電力供給が始まる。

◉ 報  道

川内再稼働差し止め却下  2015.4.22 南日本新聞  九州電力川内原発1、2号機(薩摩川内市)の安全性は確保されていないとして、周辺住民12人が再稼働差し止めを求めた仮処分で、鹿児島地裁の前田郁勝裁判長は22日、「地震対策は不合理とはいえない」として申し立てを却下する決定をした。  住民側は決定を不服として、福岡高裁宮崎支部に即時抗告する方針。  争点は①地震対策②巨大噴火による火砕流の危険性の有無③避難計画の実効性。住民側は「基準地震動(耐震設計の目安となる地震の揺れ)を過小評価している」と主張した。九電側は「耐震安全上の余裕を越す地震動が発生しても、安全確保策は講じられている」と反論してきた。  川内原発は原子力規制委員会が昨年9月、新規制基準に適合した初の原発に認定、10〜11月、地元議会や市長、県知事が相次いで再稼働に同意した。3月末から1号機が使用前検査に入っており、九電は7月上旬の再稼働を目指している。  仮処分は、川内原発の運転差し止め訴訟を起こしている原告団のうちの一部住民が、訴訟より早期に司法判断を仰ぐため昨年5月に申請した。

◉ 原告団・弁護団声明 2015(平成27)年4月22日

 「原発なくそう!九州川内原発訴訟」原告団団長森永明子

 「原発なくそう!九州川内原発訴訟」弁護団共同代表 弁護士 森雅美 弁護士板井優 弁護士 後藤好成

 本日鹿児島地方裁判所は、住民が申し立てた、川内原発1号機2号機の稼働差止仮処分決定申立てを却下した。

 本件却下決定は、人権の砦として国民の人格権を守るという裁判所の責務を放棄するものであり、当原告団・弁護団は、三権の一でありながら、行政による人権侵害を抑止できない裁判官の臆病な態度を強く非難するものである。

 本決定の最大の欠陥は、福島第一原発事故を全く直視していない点である。

 福島第一原発事故により、原発事故がいかに甚大な人権侵害をもたらすか明らかになった以上、原発を再稼働するためには、極めて高い安全性が要求されなければならないことは自明である。

 しかるに、新規制基準は、既往最大どころか、平均像を前提とする基準地震動(耐震設計の基本となる数値)の策定を許容するものであり、川内原発もこれを前提とした耐震設計しかされていない。

 そうであるにもかかわらず、裁判所は、この事実に目を背け、耐震設計は十分であるとしたのである。

 また、本決定は、震源を特定せず策定する地震動について、九州電力が主張するように付加的・補完的なものと位置付けることはできず、新たな知見が得られた場合に、これらの観測記録に基づいて「震源を特定せず策定する地震動」の評価を実施すべきであると述べながら、それが最新の知見であるから合理的であるかのような結論を導いている。最新の知見であっても、現時点で安全上問題があるのであるから、再稼働は許されないはずである。

 次に、南九州地方は、破局噴火を起こしたカルデラが数多く存在する地域であり、原発を設置する立地としては極めて不適切な場所である。九州電力は1カルデラ噴火は定期的な周期で発生するが現在はその周期にないこと、2破局的噴火に先行して発生するプリニー式噴火ステージの兆候がみられないこと、3カルデラ火山の地下浅部には大規模なマグマ溜まりはないことから、破局噴火が起こる可能性は十分に小さいことから立地に問題はないとした。これは、火山学会が総出で批判したほど科学的にも根拠のないものであった。

 しかし、裁判所は、科学的根拠が全くなく、学者からも強い批判を浴びているこの屁理屈を、盲目的に是認したのである。

 長岡の噴火ステージ論とドルイット論文を一般理論の要に依拠していることには強い批判があり、本決定もこの批判が妥当するとしてもマグマだまりの状況等の知見、調査結果と総合考慮されるので、不合理とはいえない、としているが、マグマだまりの状況を的確に調査する手法は確立されておらず、決定は事実誤認である。

 破局的噴火の活動可能性が十分に小さいといえないと考える火山学者が、一定数存在することを認めつつ、火山学会提言の中で、この点が特に言及されていないことから、火山学会の多数を占めるものではないなどと判示し、石原火山学会原子力問題委員会委員長が、適合性審査の判断に疑問が残ると述べたことを無視している。 活動可能性は十分に小さいといえない、ということが、火山学会の多数を占めるも のと考えるべきである。

 さらには、避難計画の不備についても、要支援者の避難計画は立てられておらず、 鹿児島県知事自身も10km以遠の地域に関しては実効性のある避難計画を定めることは不可能であると自認している避難計画であるにも拘わらず、避難計画に問題はないとしたのである。住民の生命身体の安全という、人格権の根幹部分を軽視した極めて不当な判断というほかない。

 川内原発1号機2号機に安全上の問題点があることは明らかであり、原発を再稼働させることは、日本中が放射能に汚染される可能性を、後世・次世代に残すことになってしまう。

 本決定は極めて不当なものである。福島原発事故後、昨年5月の大飯原発に関する福井地裁判決、11月の大飯・高浜原発に関する大津地裁仮処分(結論は却下であったが、実質的には新規制基準の不適切さを指摘するもの)、そして、今月 14 日に福井地裁で出された高浜原発3、4号機に関する福井地裁仮処分と、原発の危険性を指摘する良識的な司法判断の流れにも相反するものである。高浜原発仮処分決定に対しては、報道によれば、支持する人が65.7%と、支持しない人の22. 5%を大きく上回っており、国民世論にも反する。当弁護団は、原発を作ってしま った世代の責任として、また、福島事故の被害に遭った方々に対する責任として、 二度と福島事故のような過酷事故を起こさないために、直ちに即時抗告を行い、今 後も戦い続けることを宣言する。

以上

◉ 鹿児島地裁決定全文

 平成26年(ヨ)第36号川内原発稼働等差止仮処分申立事件

           決   定

      当事者の表示 別紙当事者日録記載のとおり

           主   文

      1本件申立てを却下する。

      2申立費用は債権者らの負担とする。

           理   由

第1 申立ての趣旨

 1 債務者は、債務者が設置している別紙設備目録記載の川内原子力発電所1号機及び2号機を運転してはならない。

 2 申立費用は債務者の負担とする。

第2 事案の概要

 1 事業の骨子

   本件は、債権者らが、債務者に対し、人格権に基づき、債務者が設置している別紙設備目録記載の川内原子力発電所1号機及び2号機(以下、それぞれ「川内1号機」及び「川内2号機」といい、併せて「本件原子炉施設」という。)の運転差止めを命ずる仮処分命令を申し立てた事業である。

 2 前提事実(証拠等を掲げていない事実は、当事者間に争いがないか、当事者が争うことを明らかにしない事実である。なお、後記(13)の事実は当裁判所に顕著な事実である。)

 (1)当事者

  ア 債権者ら

    債権者らは、いずれも本件原子炉施設から250km圏内に居住する者である。

  イ 債務者

    債務者は、福岡県、佐賀県、長崎県、大分県、熊本県、宮崎県及び鹿児島県において、一般の需要に応じて電気を供給する事業を営む株式会社である。

 (2)本件原子炉施設の概要(乙1の3の2、3)

  ア 債務者は、鹿児島県薩摩川内市久見崎町字片平山1765番地3に加圧水型軽水炉(発電用原子炉の一種であり、原子炉で作られた高温高圧の一次冷却材(水)を蒸気発生器に導き、そこで二次冷却材(水)を基に蒸気を発生させ、この蒸気をタービンに送って発電する形式のもの。PWR)を使用する原子力発電所である本件原子炉施設を設置している。

    本件原子炉施設の加圧水型軽水炉(PWR)においては、原子炉建屋に覆われた原子炉格納容器内に、原子炉容器、蒸気発生器、加圧器、一次冷却材管、一次冷却材ポンプなどが収納されており、原子炉容器内部には、炉心及び炉心支持構造物が収納されている。炉心には、燃料集合体、制御棒などが配列されている。

    なお、加圧水型軽水炉(PWR)の特徴としては、原子炉でできた高温高圧水を循環させる系統(一次冷却系)と、タービンヘ蒸気を供給する系統(二次冷却系)が、蒸気発生器の伝熱管を介して完全に分離されているので、タービン側に放射性物質を含んだ蒸気が運ばれることがない点が挙げられる。

  イ 本件原子炉施設の敷地は鹿児島県薩摩川内市久見崎町の西部に属し、薩摩半島の基部に位置しており、敷地の西側は東シナ海に面し、取水口が配置されている。

    なお、本件原子炉施設の周辺陸域の中央部を川内川が西方に向かってほぼ東西に流下しており、その流域は低地が連続し、河口から十数km上流部には小規模な沖積平野が分布しているが、川内川の北側には長島、笠山山地、出水平野及び出水山地が分布し、南側には弁財天山一冠岳山地がおおむね東西方向に連続し、その南側に市来台地及び日置台地が、東側には八重山山地が分布しているところ、本件原子炉施設の敷地は川内川河口左岸の弁財天山一冠岳山地の北西側端部に位置している。

  ウ 債務者は、昭和52年12月17日、川内1号機の設置に関し、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下、改正前後を通じて「原子炉等規制法」という。)に基づく発電用原子炉の設置許可を受け、昭和55年12月22日、川内2号機の増設に関し、原子炉等規制法に基づく発電用原子炉の変更許可を受けた上で、川内1号機(電気出力89万kw)については昭和59年7月4日に、川内2号機(電気出力89万kw)については昭和60年11月28日に、それぞれ営業運転を開始した。

 (3)本件原子炉施設の設置当初における耐震設計

  ア 川内1号機設置時

    債務者は、原子力発電施設に係る技術基準として定められた「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年通商産業省令第62号)」(乙175、以下「通産省令62号」という。)、同省令の規定に基づき発電用原子力設備に関する構造等の技術基準として定められた「発電用原子力設備に関する構造等の技術基準(昭和45年通商産業省告示第501号)」(乙176(書証は特に断らない限り枝番号を含む。以下同じ。)、以下「通産省告示501号」という。)及び社団法人日本電気協会(当時、以下「日本電気協会」という。)が策定した民間規格である「原子力発電所耐震設計技術指針(JEAG4601-1970)」(乙100、181、以下、日本電気協会策定の原子力発電所耐震設計技術指針を「電気協会耐震設計技術指針」という。)に従い、当時の文献資料(川内1号機敷地周辺の地震被害歴に関するもの)及び地盤条件等を参考に、川内1号機に係る設計地震による地震動(設計用地震基盤加速度)を設定(最大加速度:180cm/s2)した上、これを用いて耐震設計を行った(乙135)。

    なお、「設計地震」とは、原子力委員会(当時)が昭和53年9月に策定した「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(乙101、以下「旧耐震指針」という。)が適用される以前に建設された原子力発電所において、特定の敷地(原子力発電所の敷地)で予想される最強の地震であり、地震歴や地盤条件等を参考にその強さが決定され、その地震動が原子力発電所の各施設の耐震設計を行う基準となるものである(乙100)。

  イ 川内2号機増設時

    債務者は、通産省令62号、通産省告示501号、旧耐震指針(乙101)及び同指針を受けて原子炉安全専門審査会(当時)によって策定された「原子力発電所の地質、地盤に関する安全審査の手引き」(乙103)並びに電気協会耐震設計技術指針(JEAG4601-1970)に従い、当時の文献資料(川内2号機敷地周辺の地震被害歴及び活断層に関するもの)、断層調査結果及び地震地帯構造の分析結果等に基づき、川内2号機に係る基準地震動S1(最大加速度:189cm/s2)、基準地震動S2(最大加速度:372cm/s2)を策定した上、これを用いて耐震設計を行った(乙135)。

    なお、旧耐震指針における基準地震勤(原子炉施設の耐震設計に用いる地震動であり、敷地の解放基盤表面において考慮するもの)は、その強さの程度に応じ2種類の地震動(基準地震動S1、及び基準地震動S2)を策定することとされていた。すなわち、設計用最強地震として、①歴史的資料から過去において敷地又はその近傍に影響を与えたと考えられる地震が再び起こり、敷地及びその周辺に同様の影響を与えるおそれのある地震、②近い将来敷地に影響を与えるおそれのある活動度の高い活断層による地震のうちから最も影響の大きいものを想定して基準地震動S1を策定し、設計用限界地震として、地震学的見地に立脚し設計用最強地震を上回る地震について、過去の地震の発生状況、敷地周辺の活断層の性質及び地震地体構造に基づき工学的見地からの検討を加え、最も影響の大きいものを想定して基準地震動S2を策定することとされ、基準地震動S1には直下地震によるものも含むとされていた(乙101)。

  ウ 川内1号機に係る耐震安全性の自主点検

    債務者は、平成7年、同年に発生した兵庫県南部地震(以下「兵庫県南部地震」という。)の被害の甚大さに鑑み、川内1号機の耐震安全性について旧耐震指針等に基づく自主点検を行ったところ、川内1号機についても基準地震動S1(最大加速度:189cm/s2)、基準地震動S2(最大加速度:372cm/s2)に対して十分な余裕があると判断した(乙135)。

 (4)耐震設計審査指針の改訂

  ア 概要

    原子力安全委員会(当時)は、平成18年9月19日、地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積並びに原子炉施設の耐震設計技術の改良及び進歩には著しいものがあったとして、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を改訂した(乙46、 112、以下、この改訂後の耐震設計審査指針を「改訂耐震指針」という。)。

    また、この耐震設計審査指針の改訂に併せて、発電用原子炉施設に関する国の規制の在り方についても審議・検討された結果、発電用原子炉施設に係る技術基準は、発電用原子炉施設に要求される機能及び性能を定めた性能規定とすることとし、当該機能及び性能を実際の設備において実現するための仕様規定は民間規格に委ねることで、最新の知見を迅速かつ柔軟に取り入れつつ、安全審査の合理化を図ることとされ、具体的に501号等は廃止され、同告示のうち性能規定に関する部分については通産省令62号に移行された。そして、技術基準を満たす民間規格として日本電気協会、社団法人日本機械学会(当時、以下「日本機械学会」という。)及び社団法人日本原子力学会(当時、以下「日本原子力学会」という。)が策定した民間規格が活用されることとされた(乙178)。

   なお、このような民間規格の活用に当たっては、当該民間規格が技術基準に定められた規制上の要求を満足するものであるかどうかにつき、規制当局が技術評価を行うこととされ、技術基準の要求を満足する詳細規定であることが確認できた民間規格については、規制上の位置付けを行政手続法上の審査基準に取り込む方法等で明確化し、もって、当該民間規格が技術基準に定められた規制上の要求を満足するものであることを公示(以下、このことを「エンドース」という。)することとされた(乙177、179)。

  イ 具体的内容

    改訂耐震指針の具体的な内容は、別紙「改訂耐震指針の定め」のとおり(乙46、112)である。

    また、前記アの民問規格の活用に伴い、改訂耐震指針に基づく建物・構築物関係及び機器・配管系の耐震安全性に関する評価に当たっては、原子力安全委員会が策定した「『発電周原子炉施設に対する耐震設計審査指針』(平成18年9月19日原子力安全委員会決定)に照らした『発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令』第5条への適合性に関する審査要領(内規)」(乙195)により、電気協会耐震設計技術指針・重要度分類・許容応力編(EAG4601・補-1994)(乙122、182)、電気協会耐震設計技術指針(JEAG4601・1987)(乙47、104、183)、同(JEAG46al-1991追補版)(乙184)及び日本機械学会策定の「発電用原子力設備規格、設計・建設規格(JSME SNCI-2005)」(乙189、以下、日本機械学会策定の発電用原子力設備規格、設計・建設規格を「機械学会設備等規格」という。)に基づいて評価すべきこととされた(乙194)。

  ウ 改訂耐震指針に基づく耐震安全性評価の実施

    原子力安全・保安院(当時)は、平成18年9月20日、債務者を含む電気事業者に対し、稼働中及び建設中の発電用原子炉施設等について、改訂耐震指針に照らした耐震安全性評価の実施等を指示した(乙116)、

    これを受け、債務者は、通産省令62号、改訂耐震指針及び前記イで建物・構築物関係及び機器・配管系の耐震安全性に関する評価に当たって用いるべきとされた民間規格並びにエンドースはされていなかったが最新の知見等が反映された具体的な評価手法が記載されていた電気協会耐震設計技術指針・基準地震動策定・地質調査編(JEAO4601・2007)(乙185)に基づき、新たに最新の手法も取り入れた地質調査等を実施し、その結果等を踏まえて川内1号機に係る基準地震勣Ss(最大加速度:540cm/s2)を策定し、安全上重要な施設の耐震安全性を確認した結果、十分な余裕があると判断した(乙115、135)。

    以上の債務者が行った川内1号機に係る基準地震動の策定及び耐震安全性に関する判断については、原子力安全・保安院及び原子力安全委員会の審査において妥当なものと判断された(乙115、116)。

 (5)東北地方平洋沖地震に伴う福島第一原子力発電所における事故

  ア 概要

    平成23年3月11日東北地方太平洋沖地震(以下「東北地方太平洋沖地震」という。)及び同地震に伴う津波が発生し、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の1ないし4号機は、全電源を失い、複数の原子炉で炉心熔融(メルトダウン)や水素爆発が起きるという過酷事故によって、大量の放射性物質の拡散と汚染水の海洋流出という未曽有の原子力災害を引き起こした(甲1)。

  イ 国会事故調報告書の指摘

    東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原発における事故を受けてまとめられた東京電力福島第一原子力発電所事故調査委員会「国会事故調報告書」(2012)(甲1、以下「国会事故調報告書」という。)では、「わが国においては、観測された最大地震加速度が設計地震加速度を超過する事例が、今般の東北地方太平洋沖地震に伴う福島県一原発と女川原発における2ケースも含めると、平成17(2005)年以降に確認されただけでも5ケースに及んでいる。このような超過頻度は異常であり、例えば、超過頻度を1万年に1回未満として設定している欧州主要国と比べても、著しく非保守的である実態を示唆している。」との指摘がされている。

  ウ 基準地震動を上回る地震動が観測された事例

    前記イで指摘された、日本の原子力発電所において基準地震動を上回る地震動が観測された5ケースは次のものである(甲1、2、4、6、7、乙20、22、29)。

   ①平成17年8月16日宮城県沖地震(以下「宮城県沖地震」という。)東北電力株式会社女川原発(以下「女川原発」という。)

   ②平成19年3月26日能登半島地震(以下「能登半島地震」という。)北陸電力株式会社志賀原子力発電所(以下「志賀原発」という。)

   ③平成19年7月16日新潟県中越沖地震(以下「新潟県中越沖地震」という。)東京電力株式会社柏崎・刈羽原子力発電所(以下「柏崎・刈羽原発」という。)

   ④平成23年3月11日東北地方太平洋沖地震福島第一原発

   ⑤平成23年3月11日東北地方太平洋沖地震女川原発(以下、上記の基準地震動を上回る地震動が観測された四つの地震を「基準地震動超過地震」という。)

 (6)ストレステストの実施

   東北地方太平洋沖地震に伴う福島第一原発における事故を受け、原子力安全・保安院は、平成23年7月22日、債務者を含む電気事業者に対し、既設の発電用原子炉施設の安全性に関する総合評価(いわゆる「ストレステスト」)の実施を指示した。ストレステストは、各発電用原子炉施設において想定した地震動(基準地震勣Ss)を超える地震が発生したときに、安全上重要な施設や機器等がどの程度まで安全性を確保できるか(どの程度まで燃料の損傷が生じずに耐えられるか)という発電用原子炉施設の総合的な余裕を定量的に評価するものである。

   債務者は、本件原子炉施設を対象とするストレステストを実施して、クリフエッジ(炉心損傷又は使用済燃料貯蔵設備の燃料損傷に至る事象に対し、その影響緩和に必要な機能を抽出したイベントツリーを作成の上、当該事象の進展を収束させる全ての収束シナリオを特定してその耐震裕度を求め、これにより明らかとなる収束シナリオのうち最も耐震裕度の小さいもの)を特定し、その耐震裕度について、川内1号機につき当時の基準地震動Ss(最大加速度:540cm/s2)の1.86倍(約1004cm/S2)、川内2号機につき当時の基準地震動Ss(最大加速度:540cm/s2)の1.89倍(約1020cm/s2)と評価した(乙49、50、135)。

   このような債務者によるクリフエッジの特定及び耐震裕度の評価については、平成24年9月3日、原子力安全・保安院の同時点における見解として、妥当なものと判断されている(甲54)、

 (7)新規制基準の策定等

  ア 原子力規制委員会の発足

   平成24年9月、原子力安全委員会が廃止され、同月19日、新たに原子力規制委員会が発足した。

   原子力規制委員会は、原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、又は実施する事務を一元的につかさどるために、環境省の外局として設立された機関であり(原子力規制委員会設置法1条、2条)、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ることを任務とし(同法3条)、同任務を達成するために原子力利用における安全の確保に資することなどが所掌事務とされている(同法4条)。その組織は、委員長及び委員4人から成り(同法6条1項)、独立してその職権を行うこととされているところ(同法5条)、委員長及び委員は、人格が高潔であって、原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命するものとされている(同法7条1項)。その所掌事務について、原子力規制委員会は、法律若しくは政令を実施するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、原子力規制委員会規則を制定することができるものとされている(同法26条)。また、原子力規制委員会の事務を処理させるための事務局として原子力規制庁が置かれている(同法27条)。

  イ 規則の制定等

    東北地方太平洋沖地震に伴う福島第―原発における事故を踏まえて原子力基本法及び原子炉等規制法が改正され(平成24年法律第47号)、原子力基本法の基本方針として、原子力利用は「安全の確保を旨として」行われることがもともと規定されていたところ(同法2条1項)、その安全確保については、「確立された国際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする」との規定が追加され(同乗2項)、原子炉等規制法の目的として、「原子炉の設置及び運転等」に関し、「大規模な自然災害及びテロリズムその他の犯罪行為の発生も想定した必要な規制」を行うこと、「もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」ことが追加され(同法1条)、保安措置に重大事故対策が含まれることが明記される(同法43条の3の22第1項等)などした。

    また、原子炉等規制法においては、発電用原子炉を設置しようとするものは、政令で定めるところにより、原子力規制委員会の許可(原子炉設置許可)を受けなければならない旨規定され(同法43条の3の5第1項)、その許可基準が定められており(同法43条の3の6第1項)、また、原子炉設置許可を受けた者が、使用の目的、発電所原子炉の型式、熱出力及び基数、発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備等の事項(同法43条の3の5第2項2~5号又は8~10号に掲げる事項)を変更しようとするときは、政令で定めるところにより、原子力規制委員会の許可(原子炉設置変更許可)を受けなければならない旨規定され(同法43条の3の8第1項)、この場合にも上記許可基準(同法43条の3の6第1項)が準用される(同法43条の3の8第2項)。

    そして、原子炉等規制法においては、原子炉設置許可及び原子炉設置変更許可の基準の一っとして、「発電用原子炉施設の位置、構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物又は発電周原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」と規定されているところ(同法43条の3の6第1項4号、43条の3の8第2項)、ここでいう原子力規制委員会規則が「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(以下「設置許可基準規則」という。)であり、その解釈を示したものが「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(乙146、198、以下「設置許可基準規則解釈」といい、設置許可基準規則と併せて「新規制基準」という。)である。新規制基準の内容は、別紙「新規制基準の定め」のとおりである(ただし、地震及び火山に関係する部分を抜粋している。)。

    なお、原子力規制委員会は、通産省令62号に代わる実用発電用原子炉施設の技術基準として、「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則」(以下「技術基準規則」という。)を制定し、その解釈を「実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則の解釈」(乙180、以下「技術基準規則解釈」といい、技術基準規則と併せて「新技術基準」という。)により示している。 

    原子力規制委員会は、平成25年6月19日、原子炉設置許可及び原子炉設置変更許可の審査に活用するため、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(甲9、乙40、 117、196、以下「地震ガイド」という。その内容は別紙「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」のとおり。)、「耐震設計に係る工認審査ガイド」(乙197、以下「工認ガイド」という。)及び「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(甲60、乙151、以下「火山ガイド」という。その内容は別紙「原子力発電所の火山影響評価ガイド」のとおり。)等の内規を策定した。

    これらの新規制基準、新技術基準及び内規は、平成25年7月8日、上記改正原子炉等規制法(平成24年法律第47号附則1条4号に定める改正部分)と同時に施行された。

 (8)本件原子炉施設における新規制基準に基づく基準地震動の策定

    債務者は、以下のとおり、新規制基準、地震ガイド及びエンドースはされていないが最新の知見等が反映された具体的な評価手法が記載されている電気協会耐震設計技術指針(JEAG4601-2008)(乙114、187)に従い、基準地震動Ssを策定した。

  ア 地震の調査(乙1の3の3、7の2、42、 120)

  (ア)本件原子炉施設敷地周辺における地震の発生状況

    債務者は、本件原子炉施設敷地周辺で発生する地震について、①内陸地殻内地震としては、九州地方南部でマグニチュード(以下「M」と表記することもある。)6.6程度の地震が発生しており、②プレート間地震としては、太平洋側沖合の日向灘周辺でM7クラスの地震が十数年から数十年に一度の頻度で発生し、③海洋プレート内地震としては、海溝付近又はそのやや沖合の沈み込む海洋プレート内で発生するもの及び海溝よりも陸側の沈み込んだ海洋プレート内で発生するものがあるほか、陸側に深く沈み込んだプレート内で稀に規模の大きな地震が発生することがあり、④その他の地震として桜島の火山活動に伴った地震活動が見られることを確認した。

    また、債務者は、本件原子炉施設が位置する九州地方南部について、地震発生状況やGPSの観測結果(地殻変動)の傾向によると、引張応力場であるため、正断層型及び横ずれ断層型の地震が多く発生し、逆断層型の地震が少ないという地域的な特性(震源特性)があると評価し、本件原子炉施設敷地周辺で発生する内陸地殻内地震についても、正断層型及び横ずれ断層型が主体であることが確認できたとしている。

    加えて、債務者は、敷地周辺の中・小地震の特徴として、本件原子炉施設敷地を中心とした半径100km以内の範囲に震央を有する地震では、後記(イ)の平成9年に発生した二つの鹿児島県北西部地震に伴う地震活動が見られるほか、薩摩半島南端付近で地震活動が見られること、敷地周辺の微小地震の特徴として、深さ0~30kmでは、熊本県南部付近、敷地北側の北緯32度付近から海域につながる領域、島原半島付近から甑島西側海域につながる領域及び日向灘の海岸線に沿った領域で顕著な微小地震活動が見られることなどを確認した。

  (イ)本件原子炉施設敷地周辺の被害地震

    債務者は、文献資料等に基づき、本件原子炉施設敷地周辺における被害地震(気象庁震度階級(平成8年以後のもの)で震度5弱程度以上に当たる建物等に被害が発生すると考えられる地震)としては、内陸地殻内地震として、敷地から半径30km以内において発生した平成9年3月26日鹿児島県北西部地震(M6.6)及び同年5月13日鹿児島県北西部地震(M6.4、以下「平成9年5月鹿児島県北西部地震」という。)があるほか、桜島の噴火活動に伴って発生した大正3年桜島地震(M7.1)があることを確認した。

    なお、債務者は、前記(ア)②のプレート間地震及び同③の海洋プレート内地震が発生する位置と本件原子炉施設敷地までの距離が十分に離れているものと評価し、これらの地震については本件原子炉施・敷地に大きな影響を与えるものではないと判断している。

  イ 地質及び地質構造の調査

  (ア)調査内容(乙1の3の2、6、42、120)

    債務者は、本件原子炉施設の敷地並びに敷地近傍(敷地を中心とする半径5kmの範囲)及び敷地周辺(敷地を中心とする半径30kmの範囲及びその周辺)において、その地質及び地質構造を把握するため、文献調査、空中写真判読等の変動地形学的調査、地表踏査等の地表地質調査及び反射法地震探査や重力異常・微小地震分布の把握といった地球物理学的調査を実施した。また、債務者は、本件原子炉施設敷地においては上記各調査に加えてボーリング調査、試掘杭調査及びトレンチ調査といったより詳細な調査を実施した上で、安全上重要な原子炉施設を設置する地盤については、さらに岩石・岩盤物性試験などを実施している。なお、敷地近傍及び周辺の海城においては文献調査及び海上音波探査等を実施している。

  (イ)解放基盤表面の設定(乙1の3の2・3、42、 44、120)

    債務者は、前記(ア)の調査の結果、川内1号機の原子炉周辺では、弾性波平均速度がP波で約3.2km/s、S波で約1.5km/s、川内2号機の原子炉周辺では、弾性波平均速度がP波で約4.0km/s、S波で約1.8km/sの岩盤が相当の広範囲にわたり基盤を構成していることが確認されたことから、解放基盤表面を当該岩盤中の原子炉格納施設基礎設置位置の標高(以下「EL.」という。)-18.5mに設定した。

  (ウ)敷地地盤の地下構造の評価(乙1の3の3、11の2、42、 120)

    債務者は、前記(ア)の調査の結果、本件原子炉施設敷地近傍の地質は、中生代ジュラ紀~白亜紀の秩父層群を基盤とし、本件原子炉施設敷地付近で地表付近に露出し、当該層群を新第三紀~第四紀の北薩火山岩類等が不整合関係で覆っていることを確認するとともに、敷地周辺の秩父層群から成る基盤がある程度の広がりをもって分布していることが推定されると評価した。

    また、債務者は、本件原子炉施設の敷地地盤で得られた地震観測記録(M2.5~7.1)のうち、M5.0以上の地震により敷地地盤(EL、11.0m)で得られた地震観測記録の応答スペクトルとS.Noda et al.「RESPONSE SPECTRA FOR DESIGNPURPOSE OF STIFF STRUCTURES ON ROCK SITES」(2002)(以下「Noda et al.(2002)」という。)による標準的な応答スペタトルの比を到来方向別に算定し、比較検討した結果、特異な増幅傾向はどの方向にも認められないこと、独立行政法人防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET及びKiK-net)による本件原子炉施設敷地近傍及び周辺の観測点における地震動の増幅特性と比較検討した結果、本件原子炉施設敷地の地盤において地震動の顕著な増幅傾向が認められないことなどを確認した。

    なお、債務者は、前記(ア)の調査結果等に基づき、後記ウ(エ)の断層モデルを用いた手法による地震動評価で用いる解放基盤表面以深の地下構造モデルを設定している。

  (エ)活断層の評価(乙1の3の2・3、42、 120)

    債務者は、前記(ア)の調査の結果、本件原子炉施設敷地及び敷地近傍において将来活動する可能性のある断層はないこと、敷地周辺(半径30kmの範囲)の主な活断層として、別紙図①のとおり、陸域については、五反田川断層、辻の堂断層、笠山周辺断層群一水俣南断層群、長島西断層・長島断層群及び出水断層系があり、海域については、F-A断層、F-B断層、F-C断層、F-D断層、F-E断層及びF-F断層があること、半径30km以遠の主な活断層として、別紙図②のとおり、人吉盆地南縁断層、布田川・日奈久断層帯、緑川断層帯、甑島北方断層、甑島西方断層、長崎海脚断層、男女海盆北方断層及び男女海盆断層があることを確認した。

    債務者は、前記(ア)の調査結果に加え、文部科学省地震調査研究推進本部地震調査委員会(以下「地震調査委員会」という。)「九州地域の活断層の長期評価」(2013)(以下「地震調査委員会(2013)」という。)の知見を踏まえて、上記の活断層のうち五反田川断層(市来断層書市来区間)、F-C断層(市来断層帯甑海峡中央区間)及びF-D断層(市来断層帯吹上浜西方沖区間)については、断層長さをより長く評価し、F-A断層及びF-B断層(甑断層帯甑区間)については、両断層をつなげた全体の長さで評価することとした上で、別表①(別紙図③)の各活断層を地震動評価で考慮すべきものとして位置付けた。

    債務者は、以上のような活断層に関する検討を踏まえ、本件原子炉施設敷地において想定されるこれらの活断層が震源となる地震による揺れは、上記別表①の活断層のうち人吉盆地南縁断層、緑川断層帯、男女海盆北方断層及び男女海盆断層が震源となる地震を除く14地震について、いずれも気象庁震度階級で震度5弱程度以上となると推定した。

  ウ「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定

  (ア)検討用地震の選定(乙1の3の3、42、 120)

    a 債務者は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価に当たって、地震発生様式ごとに、本件原子炉施設敷地に特に大きな影響を及ぼすと想定される地震について、Noda et al.(2092)で提案された方法(以下「Noda et al.(2002)の方法」という。)により算定した応答スペクトルを基に評価し、検討用地震として選定することとした。もっとも、前記ア(イ)のとおり、債務者は、プレート間地震及び海洋プレート内地震については本件原子炉施設敷地に大きな影響を与えるものではないと判断したため、検討用地震として選定していない。

      なお、Noda et al.(2002)の方法とは、岩盤における観測記録(主に関東・東北地方に所在する107地点のもの)に基づいて提案された距離減衰式で、地震の規模を示すマグニチュードや等価震原距離(震源断層面を小区画に分解し、それぞれの区画から放出される地震動のエネルギーの総和が特定の一点から放出されたものと等価になるように計算された距離)等の想定を基に、解放基盤表面における水平方向及び鉛直方向の地震動の応答スペクトルを推定するものである。また、Noda et al.(2002)の方法では、内陸地殻内地震の補正係数や当該敷地における観測記録に基づく補正係数を用いることにより、地震の分類に従った震源特性、伝播経路特性及び敷地地盤の特性を的確に考慮することができるとされている。

    b 債務者は、本件原子炉施設敷地に特に大きな影響を及ぼすと想定される震度5弱程度以上の17地震(前記ア(イ)の三つの被害地震及び前記イ(エ)の活断層が震源となる14地震)について、それぞれNoda et al.(2002)の方法により算定した応答スペクトルを基に評価し、これらを比較した結果、検討用地震として、「市来断層帯市来区間による地震」、「甑断層帯甑区間による地震」及び「市来断層帯甑海峡中央区間による地震」の三つを選定した。

(イ)震源モデルの設定

    a 基本尊厳モデルの設定(乙1の3の3、42、 120、144)

     債務者は、前記各調査結果及び地震観測記録に基づく分析等により十分に把握された本件原子炉施設敷地周辺の地域的な特性を踏まえ、本件原子炉施設敷地周辺において基本とする地震の震源モデル(以下「基本震源モデル」という。)を構築した。すなわち、債務者は、前記各調査結集及び地震観測記録に基づく分析等、特に平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録を用いた震原特性の分析結果に基づき、震源断層面の面積及び性状やその中のアスペリテイ(岩盤の固着部分)の面積及び性状をモデル化し、震源パラメータを設定した。その中で、地震発生層については、各種機関による平成9年5月鹿児島県北西部地震に係る余震分布の分析及び気象庁一元化震源を踏まえ、上端深さ2km、下端深さ15km(なお、気象庁一元化震源のD95%(その値より震源深さが浅い地震数が全体の95%になるときの震源深さ)は約13kmであり、安全側に余裕を持たせるため、この値より2km深く設定している。)、発生層厚さ13km(下端深さー上端深さ)と設定している。

     なお、基本震源モデルにおいては、平均応力降下量(地震の際、断層面で蓄積していた応力(歪み)が解放されるが、地震の前後の応力の差を表す数値)及びアスペリティ実効応力については、本件原子炉施設敷地周辺で発生した地震の観測記録のうち最も大きな揺れを観測した平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録の実測値(平均応力降下量5.8MPa、アスペリテイ実効応力15.9MPa)を用いている(なお、平成9年3月26日鹿児島県北西部地震は、同年5月の上記地震と比較すると、マグニチュードは大きいが、平均応力降下量、アスペリティ実効応力及び短周期レベルA(ほとんどの原子炉施設が該当する短周期帯での地震による揺れを直接的に表すパラメータ)は小さい。)。また、地質調査で把握が困難なアスペリティの位置については敷地に最も近い位置に設定し、破壊開始点についても破壊が敷地に向かうような位置に設定している。

     その上で、債務者は、基本震源モデルに基づいて設定した震源パラメータについて、平成9年5月鹿児島県北西部地震の余震(同月25日発生)を要素地震として、経験的グリーン関数法による地震動評価を実施したところ、平成9年5月鹿児島県北西部地震で得られた本件原子炉施設敷地の観測記録をおおむね再現することができたとし、基本震源モデルに基づいて設定した震源パラメータが本件原子炉施設敷地周辺で発生する内陸地殻内地震の地域的な特性(震源特性)を表しているものと判断した。

     市来断層帯市来区間、甑断層帯甑区間、市来断層帯甑海峡中央区間の三つの断層につき、債務者が設定した震源パラメータの主なものは、別表②のとおりである、ここで、断層面積(S)は、別表①の断層長さに上記断層幅13kmを乗じたもの、平均応力降下量(△σ及びアスペリティ実効効力(Δσa)は、上記のとおり平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録の実測値を用いたもの、地震モーメント(Mo)は、別表②の式(1)(クラック理論式)を用いて算出したもの、アスペリティの面積(Sa)は、別表②の式(2)を用いて算出したものである。

    また、短周期レベルAは、別表②の式(3)を用いて算出したもの(なお、実際の計算は、アスペリティの短周期レベルA、アスペリティ以外の背景領域の短周期レベルAをそれぞれ求めた上で算出している。)である。

    なお、債務者は、基本震源モデルに基づいて設定された震源パラメータが、一般的に用いられている地震調査委員会「全国地震動予測地図・技術報告書」(2009)で提案された「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」(甲17、以下「強震動予測レシピ」という。)を用いた設定よりも安全側の評価になっていることを確認している。

   b 不確かさ考慮モデル(乙1の3の3、42、 120)

    債務者は、前記各調査結果及び地震観測記録に基づく分析等によってもなお、十分には把握されていないか十分な把握ができないもの(①断層長さ及び震源断層の拡がり、②断層傾斜角、③応力降下量、④アスペリティの位置及び⑤破壊開始点)について、「不確かさ」として考慮することとし、基本震源モデルを基に「不確かさ」を考慮したモデル(以下「不確かさ考慮モデル」といい、基本震源モデルと併せて「本件震源モデル」という。)を構築した。

    具体的には、債務者は、①断層長さ及び震源断層の拡がりに関し、検討用地震のうち「甑断層帯甑区間による地震」について、敷地に最も近い位置に震源断層面を想定した断層長さ及び震源断層の拡がりの不確かさも考慮して地震動評価を行い、②断層傾斜角の不確かさについては、これを60度として地震動評価を行うこととしている。

    さらに、債務者は、③応力降下量の不確かさについては、既に基本震源モデルにおいて本件原子炉施設の地域的な特性を反映させていることに加え、新潟県中越沖地震の知見を踏まえて、短周期レベルAに関する既往の経験式の1.5倍相当の値を考慮して地震動評価を行う(実際には、基本震源モデルの短同期レベルAの値を1.25倍にしている。)こととしている。なお、④アスペリティの位置の不確かさについては、基本震源モデルと同様に本件原子炉施設の敷地に最も近い位置に設定することで考慮した。

    加えて、債務者は、⑤破壊開始点の不確かさについて、本件原子炉施設敷地への影響の程度を考慮し、アスペリティの破壊が敷地に向かう方向となる複数ケースを選定して地震動評価を行うこととしている。

    その上で、債務者は、①断層長さ及び震源断層の拡がり、②断層傾斜角及び③応力降下量の「不確かさ」については、地震発生前に、地質貰査、敷地周辺の地震発生状況及び地震に関する過去の観測記録による経験則からおおむね把握できるものであるので、これらの「不確かさ」についてはそれぞれ独立して考慮することとし、④アスペリテイの位置及び⑤破壊開始点の「不確かさ」については、地震発生前に把撮が困難なもの(地震発生後に分析等により把握できるもの)であるから、①ないし③の「不確かさ」を考慮する際に、④及び⑤の「不確かさ」を重畳させることとした。

   c 本件震源モデルを用いた地震動評価(乙1の3の3、42、120)

    債務者は、以上のとおり構築した本件震源モデルを用いて震源パラメータを設定し、後記(ウ)の応答スペクトルに基づく手法及び後記(エ)の断層モデルを用いた手法により、前記(ア)の検討用地震について、その地震動評価を行うこととした。

  (ウ)応答スペクトルに基づく手法による地震動評価(乙1の3の3、42、114の3、120、135)

    応答スペクトルとは、ある地震動が建物等の構造物に及ぼす揺れの大きさを分かりやすく示すために、建造物に生じる最大の振動(応答)を建造物の固有周期ごとに並べてグラフ化(横軸に周期、縦軸に最大応答値をとる。)したものをいう。また、応答スペクトルに基づく手法とは、特定の活断層について、マグニチュードと等価震源距離を想定し、過去の地震の平均像から当該地点における地震基盤(地震波発生深度と同等の「固さ」であるとみなす層の上面)の揺れをコントロールポイント(あらかじめ定めた数か所の固有周期)毎に算出し、そこからの増幅を考慮に入れて想定した解放基盤表面の揺れをグラフ化して応答スペクトルを策定し、これらの応答スペクトルを全て包落させることにより、当該地点における地震動を想定するものである(得られた応答スペクトルから時刻歴波形(模擬地震波)を作成する場合には、そのマグニチュードと等価震源距離から振幅包絡線や継続時間を設定して時刻歴波形を作成することになるから、建物等の被害に大きな影響を及ぼすパルス(振幅の急峻な変化)を表現することは難しい。)。なお、その周期0.02秒の加速度応答スペクトルの値が当該地点における想定地震動の最大加速度とされる。

    債務者は、Noda et al.(2002)の方法を用いて応答スペクトルに基づく手法による地震動評価を行った。その上で、債務者は、本件原子炉施設敷地における観測記録に基づいて解析した解放基盤表面の地震動(はぎとり波)の応答スペクトルとNodaet al.(2002)の方法により導かれる応答スペクトルの比率が、別紙図④のとおり、おおむね全周期帯で1.0を下回る傾向となることを確認した。

    なお、前記(ア)aのとおり、Noda et al.(2002)の方法では、内陸地殻内地震の補正係数や当該敷地における観測記録に基づく補正係数を用いることにより、地震の分類に従った震源特性、伝播経路特性及び敷地地盤の特性を的確に考慮することができるとされているが、債務者は、安全側の判断から上記補正係数を適用していない。

  (エ)断層モデルを用いた手法による地震動評価(乙1の3の3、42、 120)

    断層モデルを用いた手法は、震源断層面をモデル化した断層モデルを用いて、震源の位置や地震の規模を設定して特定の地点の地震動を計算するものであり、震源断層面を小区画に分け、それぞれの区画で破壊の進行とともに発生する地震動がどれだけの大きさになるかを推定し、その上で、その地震動が地中を伝播し、地表面に達するまでの地震動の減衰状況をグリーン関数を用いて算出し、これによって導かれる地震動波形を多数重ね合わせて当該地点における地表面の地震動を想定するという手法である。断層モデルを用いた手法では、応答スペクトルに基づく手法と異なり、直接、時刻歴波形が作成される。

    債務者は、断層モデルを用いた手法による地震動評価について、前記(イ)のとおり構築した本件震源モデルを用いて前記(ア)の検討用地震の震源パラメータを設定した。その上で、要素地震として適切な地震観測記録(昭和59年8月15日九州西側海域地震(M5.5)のもの)が得られていることから、地震動の減衰評価については、上記観測記録を基にした経験的グリーン関数法による評価と長周期帯に理論的方法を適用したハイブリッド合成法による評価を行い、前記(ア)の検討用地震による本件原子炉施設敷地における地震動を想定した(なお、債務者は、断層モデルを用いた手法による地震動評価において、統計的グリーン関数法は採用していない。)。

  (オ)小括(乙1の3の3、42、120)

    債務者は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」のうち、応答スペクトルに基づく手法による地震動評価の結果を包絡するものとして、別紙図⑤のとおり、基準地震動Ss-1の設計用応答スペクトル(最大加速度:540cm/s2)を策定した。ここで、基準地震動Ss-1の設計用応答スペクトルと断層モデルを用いた手法による地震動評価結果を比較すると、基準地震動Ss-1の設計用応答スペクトルは、断層モデルを用いた手法による地震動評価結果を全ての周期帯で上回ることから、債務者は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」として基準地震動Ss-1の設計用応答スペクトル(最大加速度:540cm/S2)をもって代表させることとした。

  エ「震源を特定せず策定する地震動」の策定(乙1の3の3、42、120)

  (ア)債務者は、敷地周辺の状況等を十分考慮した詳細な調査を実施しても、なお敷地近傍において発生する可能性のある内陸地殻内地震の全てを事前に評価し得るとは言い切れないとの観点から、新規制基準に従い、「震源を特定せず策定する地震動」を策定した。このような地震動評価は、震源の規模及び位置が前もって想定できない地震を想定して行うものであるところ、債務者は、地震ガイドに例示された16地震について震源近傍における観測記録を収集し、これらを基に検討を行った。

  (イ)地震ガイドに例示された16地震のうちモーメントマグニチュード(12年鳥取県西部地震)は、震源断層がほぼ地震発生層の厚さ全体に広がっているものの地表地震断層としてその全容を表すまでには至っていない地震であり、孤立した長さの短い活断層による地震であることから、震原と活断層を関連付けることが困難な地震として示されていたものである。

    債務者は、まず、上記の二つの地震に関し、その震源域周辺と本件原子炉施設敷地周辺との地質及び地質構造等について比較、検討を実施したところ、両者は地質学的、地震学的背景が異なっており、上記の二つの地震と同様の地震が本件原子炉施設敷地周辺で発生することはないと判断できたため、これら二つの地震については検討対象として選定しないこととした。

  (ウ)次に、債務者は、地震ガイドに例示された16地震のうち、断層破壊領域が地震発生層内部にとどまり、国内においてどこでも発生すると考えられる震源の位置も規模も分からない地震として、地震学的接討から全国共通に考慮すべきMw6.5未満の14地震について、震源周辺(震源距離30km以内)の観測点112地点における観測記録を収集し、そのうち地盤が著しく軟らかいと考えられる観測点を除外して「はぎとり解析」(地表の観測点あるいは地中の観測記録から表層の軟らかい地盤の影響を取り除き、硬い地盤表面における地震動を推定する手法)の精度を確保するため、地下30mの平均せん断波速度が500m/s以上の観測点46地点における観測記録を抽出した。

   これらの観測記録のうち本件原子炉施設敷地に大きな影響を与える可能性のある地震を抽出するため、加藤研一ほか「震源を事前に特定できない内陸地機内地震による地震動レベルー地質学的調査による地震の分類と強震観測記録に基づく上限レベルの検討」(2004)(甲24、以下「加藤ほか(2004)」という。)による応答スペクトルとの比較・検討を実施した結果、債務者は、本件原子炉施設敷地に大きな影響を与える可能性のある地震として、③平成23年長野県北部地震のKiK-NET津南、⑪同年茨城県北部地震のKiK-NET高萩、⑫平成25年栃木県北部地震のKiK-NET栗山西、⑬平成16年北海道留萌支庁南部地震(以下「留萌支庁南部地震」という。)K-NET港町、@平成23年和歌山県北部地震KiK-NET広川の観測記録を抽出した。なお、加藤ほか(2004)は、日本及びカリフォルニアにおける震源近傍で得られた観測記録を収集し、詳細な地質学的調査によっても震源位置と地震規模を事前に特定できない地震による地震動の上限レベルの応答スペクトルを設定するものである。そこで、債務者は、加藤ほか(2004)による応答スペクトルが本件原子炉施設における基準地震動Ss-1(最大加速度;540cm/s2)に対して全ての周期帯において下回るものであるため、当該観測記録が加藤ほか(2004)の応答スペクトルを上回った場合には、敷地に大きな影響を与える可能性があるとする一方で、下回る場合にはその可能性はないと判断したものである。

   抽出したこれら五つの観測記録は、本件原子炉施設の解放基盤表面より柔らかい地表の観測点あるいは地中の観測記録であることや地盤非線形を含んでいることから、本件原子炉施設の解放基盤表面相当での地震動を推定するに当たっては、はぎとり解析を行うためにボーリング調査等による精度の高い地盤情報が必要となるところ、これら五つの観測記録が得られた観測点において、精度の高い地盤情報が得られている観測点は留萌支庁南部地震のK-NET港町観測点(以下「本件観測点」という。)のみであった。

  (エ)債務者は、本件観測点における留萌支庁南部地震の観測記録に基づき、佐藤浩章ほか「物理探査・室内試験に基づく2004年留萌支庁南部の地震によるK-NET港町観測点(HKD020)の基盤地震動とサイト特性評価」(2013)の知見(乙55、 以下「佐藤ほか(2013)」という。この知見によると、本件観測点における留萌支庁南部地震の深さー41mでの解放基盤波は585cm/s2と推計されている。)を基に地盤の減衰定数のばらつき等を考慮したはぎとり解析を行い、解放基盤波(606cm/s2)を導き、これに更なる余裕(10cm/s2程度)を考慮し、「震源を特定せず策定する地震動」として基準地震動Ssー2(最大加速度:620cm/s2)を策定した。

  オ 基準地震動Ssの策定(乙1の3の3、42、120)

    債務者は、基準地震動Ss-1の設計用応答スペクトル(最大加速度:540cm/s2)と基準地震動Ssー2の応答スペクトル(最大加速度:620cm/s2)を比較し、基準地震動Ssー2の応答スペクトルが基準地震動Ss-1の応答スペクトルを一部周期帯で上回ることから、これらを併せて別紙図⑤のとおり基準地震動Ssを策定した(最大加速度:620cm/s2)。

    なお、地震ガイドによりエンドース済みの日本原子力学会策定の「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準(AESJ-SC-PO06:2007)」(乙193、以下「年超過確率評価基準」という。)に従って算定すると、上記の基準地震動Ssの年超過確率(一年間にある値を超過する確率)は10-4/年~10-5/年程度と算定される。

    なお、ここで確率論的安全評価とは、確率論を用いて原子力発電所の安全性を総合的かつ定量的に評価する手法のことで「PSA」ともいう。

 (9)基準地震動Ssに対する耐震安全性の評価

   債務者は、新規制基準及び新技術基準並びに地震ガイド及び工認ガイド、さらには技術基準規則解釈及び工認ガイドによりエンドース済みの電気協会耐震設計技術指針・重要度分類・許容応力編(EAG4601・補-l984)(乙122、 182)、電気協会耐震設計技術指針(JEAG4601・1987)(乙47、104、183)、同(JEAG4601-1991追補版)(乙184)、機械学会設備等規格(JSME S NC1-2005)(乙189)及び同(JSMESNCI・2007)(乙190)並びにエンドースはされていないが最新の知見等が反映された日本電気協会策定の「原子力発電所耐震設計技術規程」(JEAC4601-2008)(乙170、186、以下「電気協会耐震設計技術規程(2008)」という。)に従い、前記(8)で策定した基準地震動Ssを用いた耐震設計を行い、以下のとおり、本件原子炉施設の基準地震動Ssに対する耐震安全性を評価した。

   ア 建物・構築物の耐震安全性評価(乙48の3~7、X21の3~7)

     債務者は、本件原子炉施設の安全上重要な建物・構築物について、基準地震動Ssによる地震力に対する安全性を確認するため、基準地震動Ssによる各層の鉄筋コンクリート造耐震壁の最大応答せん断ひずみ(耐震壁が地震による力を受けたときの変形量を耐震壁の高さで除した値の最大値)を評価した。

     これによると、基準地震動Ssに対する安全上必要な対象施設毎に算出した最大応答せん断ひずみは最大でも0.42×10-3(川内1号機の原子炉建屋の数値)であり、電気協会耐震設計技術指針(JEAG4601-1987)に基づく評価基準値2.0×10-3を大きく下回っており、いずれの対象施設も構造物全体として変形能力について十分な余裕を有していることが確認できたとされている。

   イ 機器・配管系の耐震安全性評価(乙48の8~13、121の8~13)

     債務者は、本件原子炉施設に係る安全上重要な機器・配管系について、運転時の荷重条件と基準地震動Ssによる応答を組み合わせて構造強度評価(機器・配管系の各部に発生する応力がその部材の材料、使用条件等を考慮して健全性が確保されることが確認されている評価基準値(許容値)以下であることを確認する評価)を実施するとともに、基準地震動Ssに対するポンプ、弁及び制御棒等の動的機能維持評価(ポンプ等の動的機器に必要な動的機能が地震時に維持できることを確認する評価)を実施した。

     これによると、基準地震動Ssに対する機器・配管系の構造強度評価で求めた発生応力値は、いずれも電気協会耐震設計技術指針又は機械学会設備等規格に基づき算出した評価基準値を満足していることが確認できたとされている。      

     また、債務者は、基準地震動Ssに対するポンプ等の動的機能維持の評価値についても、上記規格に基づき算出された評価基準値を満足していることが確認できたとしている。

 (10)火山活動について

  ア 本件原子炉施設周辺の火山の分布(甲62、 乙1のaの5、57の1、59、 60)

  (ア)カルデラ火山

      本件原子炉施設が立地する九州地方には、過去に破局的噴火(100km3以上の噴出物を伴う噴火であり、火山爆発指数(VEI)7以上のものをいう。)を発生させたカルデラ火山が五つ(姶良、加久藤・小林、阿多、阿蘇、鬼界)存在する。

      このうち、始良カルデラは、鹿児島湾の奥部に位置し、現在は水没した状態にあるが、約3万年前に日本で最大規模の破局的噴火が発生した、その際の火砕流(入戸火砕流)は、南九州一帯に広く及び、本件原子炉施設から2.8kmの薩摩川内市内でも入戸火砕流堆積物が確認されていることからすると、火砕流が本件原子炉施設の敷地まで達していた可能性がある。

  (イ)その他の火山

     前記(ア)のカルデラ火山のほか、本件原子炉施設敷地から160km以内の範囲には、合計で34の火山(距離の近いものから、川内、北薩火山群、薩摩丸山、蘭牟田、米丸・住吉池、長島、招川内、雨祈岡、肥薩火山群、尾巡山、えびの火山群、輝北、財部、長尾山、横尾岳、南島原、大岳、雲仙岳、牧島、有喜、黒島、金峰山、船野山、赤井、多良岳、大峰、虚空蔵山、弘法岳、佐世保火山群、吉ノ本、口永良部島、有田、福江火山群、荻岳)が存在する。

  イ 債務者による火山対策

  (ア)検討対象火山の抽出(甲62、 乙1の3の5、57の1、59)

     債務者は、本件原子炉施設敷地に影響を及ぼす可能性がある火山について、その活動性及び影響範囲を把握するため、文献調査、地形・地質調査(火山噴出物を対象とする地表踏査等)及び地球物理学的調査(地震活動、地殻変動等に関する検討を行い、マグマ溜まりの規模及び位置等を把握するもの)を実施した。

     その結果、債務者は、前記アの火山のうち、完新世(第四紀(地質時代の―つであり、258万年前から現在までの期間)の区分のうち最も新しいものであり、1万1700年前から現在までの期間)に活動を行った蛤良カルデラ、加久藤・小林カルデラ、阿多カルデラ、阿蘇カルデラ、鬼界カルデラ、米丸・住吉池、雲仙岳、口永良部島及び福江火山群と、完新世に活動を行っていないが活動履歴において最後の活動終了からの期間が過去の最大休止期間より長いなどと認められないえびの火山峰、南島原、金峰山、船野山及び多良岳の合計14火山について、将来の活動が否定できない火山として抽出した。

  (イ)カルデラ火山の破局的噴火についての影響評価

    a 評価方法(甲62、乙1の3の5、57の1、59)

     債務者は、本件原子炉施設周辺の火山のうち過去に破局的噴火を発生させたカルデラ火山については、噴火履歴の特徴及びマグマ溜まりの状況等に基づき、本件原子炉施設に核燃料物質が存在する期間(以下「本件運用期間」という。)中の破局的噴火の可能性について検討を行うこととし、具体的には、次のような方法によりカルデラ火山の破局的噴火についての評価を行った。

     すなわち、債務者は、まず、噴火履歴について、破局的噴火の活動間隔と直近の破局的噴火からの経過時間との比較により、破局的噴火のマグマ溜まりを形成するために必要な時間が経過しているかどうかを検討するとともに、Nagaoka, S「THE LATE QUATERNARY TEPHRA LAYERSFROM THE CALDERA VOLCANOES IN AND AROUND KAGOSHIMA BAY, SOUTHERN KYUSHU, JAPAN」(1988)(乙65、以下「Nagaoka(1988)」という。)の知見による噴火ステージの区分を参考に各カルデラ火山における現在の噴火ステージを検討した。

     次に、マグマ溜まりの状況について、破局的噴火を発生させる大量のマダマが深さ約10km以浅に分布するとの東宮昭彦「実験岩石学的手法で求めるマグマ溜まりの深さ」(1997)(乙70、以下「東宮(1997)」という。)等の複数の知見を前提に、約10km以浅の大規模なマグマ溜まりの有無を検討した。

    b 評価結果(甲62、 乙1の3の5、57の1、59)

     債務者は、前記aの検討結果、すなわち、①南九州の鹿児島地溝(加久藤・小林カルデラ、姶良カルデラ及び阿多カレデラが含まれる地帯)における破局的噴火の発生間隔が9万年と長く、最新の破局的噴火から3万年しか経過していないこと、②九州のカルデラ火山では、破局的噴火の前兆とみられるような大規模な噴火が発生していないこと、③マグマ溜まりの状況として、地球物理学的情報に基づく地下構造等から、カルデラ火山の地下浅部には大規模なマグマ溜まりはないと判断されることなどを踏まえて、本件運用期間中の破局的噴火の可能性は極めで低いと評価した。

    c モニタリング等の対策(甲62、 乙1の3の5、57の1、59)

      債務者は、万一の場合に備えて、カルデラ火山における地殻変動や地震活動等の火山活動のモニタリングを実施している。

      なお、債務者は、対象火山の状態に顕著な変化が生じた場合、第三者(火山専門家等)の助言を得た上で、破局的噴火への発展性を評価し、破局的噴火への発展可能性がある場合には、原子炉停止や燃料体等の搬出等を実施することとしている、

  (ウ)その余の火山事象の影響評価(甲62、 乙1の3の5、57の1、57の2、59)

     債務者は、前記五つのカルデラ火山を含む本件原子炉施設周辺において将来の活動可能性が否定できない火山について、既往最大規模(カルデラ火山については現在の噴火ステージにおけるもの)の噴火を考慮して、本件原子炉施設への火山事象の影響を評価した。

     その結果、降下火砕物(火山灰等)を除く火山事象(火砕物密度流、溶岩波流、岩屑なだれ、地滑り、斜面崩壊、火山土石流、火山泥流、火山ガス、新しい火口の開口、地殻変動等)については、いずれも本件原子炉施設の敷地まで到達しないなど影響がないことを確認し、降下火砕物(火山灰等)については、過去最も影響が大きかった約1.3万年前の桜島薩摩噴火(敷地付近において層厚12.5cm以下)を踏まえ、本件原子炉施設に層厚15cmの降下火砕物(火山灰等)が生じた場合についての評価を行い、防護設計を行った。

  ウ 火山学会からの提言

    平成26年11月2日に開催された日本火山学会において、火山事象に対する原子力発電所の安全性についての議論がされ、同学会の原子力問題対応委員会は、巨大噴火の予測や火山の監視が重要な社会的課題となっているとの認識を示しつつ「巨大噴火の予測と監視に関する提言」(甲100、乙167、以下「火山学会提言」という。)を発表した。その内容は次のとおりである。

  (ア)巨大噴火(≧VEI6)の監視体制や噴火予測のあり方について

    a 日本火山学会として取り組むべき重要な課題の一つと考えられる。

    b 巨大噴火については、国(全体)としての対策を講じる必要があるため、関係省庁を含めた協議の場が設けられるべきである。

    c 協議の結果については、原子力施設の安全対策の向上等において活用されることが望ましい。

  (イ)巨大噴火の予測に必要となる調査・研究について

    a 応用と基礎の両面から推進することが重要である。

    b 成果は、噴火警報に関わる判断基準の見直しや、精度の向上に活用されることが重要である。

  (ウ)火山の監視態勢や噴火警報等の全般に関して

    a 近年の噴火事例において表出した課題や、火山の調査・観測研究の将来(技術・人材育成)を鑑み、国として組織的に検討し、維持・発展させることが重要である。

    b 噴火警報を有効に機能させるためには、噴火予測の可能性、限界、曖昧さの理解が不可欠である。火山ガイド等の規格・基準類においては、このような噴火予測の特性を十分に考慮し、慎重に検討すべきである。

 (11)避難計画の策定

  ア 法令の定め

    地方公共団体は、住民の生命、身体及び財産を災害から保護するため、当該地方公共団体の地域に係る防災に関する計画(以下「地域防災計画」という。)を作成しなければならないところ(災害対策基本法4条1項、5条1項)、地方公共団体は、地域防災計画として、原子力災害予防対策、緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策等の実施のために必要な措置を講じることとされている(原子力災害対策特別措置法5条)。

    避難計画は、自治会別に避難経路や避難先を決めておくものであり、地域防災計画における緊急事態応急対策の一つとして策定されるものである。また、原子力災害発生時に住民の避難等を実施するためには、避難計画に加えて、避難指示や避難手段等の詳細を策定しておく必要があり、これら緊急時対応の具体的内容については、防災基本計画(災害対策基本法)に基づき、原子力災害対策重点区域(予防的防護措置を準備する区域(PAZ)=当該原子力発電所からおおむね半径5km圏内、緊急時防護措置を準備する区域(UPZ)=当該原子力発電所からおおむね半径5~30km圏内)を管轄に含む地方公共団体が策定することとされている。原子力規制委員会は、平成26年9月5日、国民の生命及び身体の安全を確保することが最も重要であるという観点から、緊急事態における原子力施設周辺の住民等に対する放射線の影響を最小限に抑える防護措置を確実なものとすることを目的とし、当該目的を達成するために、原子力事業者、国、地方公共団体等が原子力災害対策に係る計画を策定する際や当該対策を実施する際等において、科学的、客観的判断を支援するための専門的・技術的事項等について定めた原子力災害対策指針を全面改正した。同指針において、避難計画を含む緊急時対応は、原子力施設の状況に応じて設定する緊急事態の区分の段階ごとに、原子力発電所からの距離に応じて策定すべきことなどが定められている(乙36、 91)。

  イ 本件原子炉施設周辺の地方公共団体による避難計画等の策定

    本件原子炉施設に係る原子力災害対策重点区域を管轄に含む地方公共団体(薩摩川内市、いちき串木野市、阿久根市、鹿児島市、出水市、日置市、姶良市、さつま町及び長島町)は、避難計画を含む緊急時対応(以下「本件避難計画等」という。)を策定し(乙92~96)、その内容に関する住民説明会や広報誌の配布などが実施されている。

  ウ 原子力防災会議における了承

    政府は、平成25年9月の原子力防災会議(原子力基本法に基づき、原子力災害対策指針に基づく施策の実施の推進その他の原子力事故が発生した場合に備えた政府の総合的な取組を確保するための施策の実施を推進のために内閣に設置された、内閣総理大臣を議長とする会議体)において、内閣府原子力災害対策担当室が関係省庁とともに関係道府県・市町村の地域防災計画・避難計画の充実化を支援するとともに、その充実化の内容・進捗を原子力防災会議等において確認するという方針を決定した。

    上記決定を受けて、本件避難計画等についてワーキングチームを設置するなどして検討が進められたところ、平成26年9月12日に開催された原子力防災会議において、本件避難計画等が原子力災害対策指針や防災基本計画の考え方に則り、合理的かつ具体的なものとして策定されていることが確認・了承された(乙97)。

 (12)原子力規制委員会による本件原子炉施設に係る再稼働審査

  ア 再稼働申請

    停止中の原子炉が運転を再開する場合には、当該原子炉が新規制基準に適合することが必要となり、具体的には、発電用原子炉の設置者は、原子炉設置変更許可(原子炉等規制法43条の3の8第1項)の申請を行い、同許可処分を受けるとともに、これと併せて工事計画変更認可(同法43条の3の9第1項、2項)及び保安規定変更認可(同法43条の3の24第1項)の各申請を行い、これらの認可処分を受ける必要があるところ、債務者は、平成25年7月8日、原子力規制委員会に対し、東北地方太平洋沖地震後の定期検査に伴い停止していた本件原子炉施設について、発電用原子炉の設置変更許可、工事計画認可及び保安規定変更認可の各申請(本件原子炉施設の再稼働申請)を行った(審尋の全趣旨)。

  イ 審査状況

    原子力規制委員会は、上記アの各申請について新規制基準への適合性の審査を行い、平成26年9月10日、原子炉等規制法43条の3の8第1項に基づき、本件原子炉施設に係る発電用原子炉の設置変更について許可し(乙49)、平成27年9月18日、原子炉等規制法43条の3の9第1項に基づき、川内1号機に係る工事計画を認可し、現在は、川内2号機に係る工事計画認可申請及び本件原子炉施設に係る保安規定変更認可申請についての審査を継続中である(審尋の全趣旨)。

 (13)地方公共団体の同意手続

  ア 薩摩川内市

    薩摩川内市議会から付託を受けた川内原子力発電所対策調査特別委員会は、平成26年10月28日、本件原子炉施設の再稼働に反対する旨の陳情10件を一括して不採択とし、「川内原子力発電所1・2号機の一日も早い再稼働を求める陳情」を採択する旨の決議をした。薩摩川内市長は、同年11月7日、本件原子炉施設に関し、債務者との安全協定に基づく事前協議について了承し、再稼働に同意する旨の意思を表明した。

  イ 鹿児島県

    鹿児島県議会は、平成26年11月5日から同月7日まで開催した臨時会において、本件原子炉施設の再稼働について、原子力安全対策等特別委員会における調査及び審査を踏まえて審議し、「川内原子力発電所1・2号機の一日も早い再稼働を求める陳情」を採択するとともに、原子力発電所の安全性及び再稼働の判断について、国民及び地方公共団体に対し、国が前面に立って明確かつ丁寧な説明を行い、その理解を得るよう取り組むことなどを求める「原子力発電所再稼働等に関する意見書」を可決した。

    鹿児島県知事は、同月9日、本件原子炉施設の再稼働について、諸般の状況を総合的に勘案すればやむを得ないものと判断した上で、債務者との安全協定に基づく事前協議について了承し、再稼働に同意する旨の意思を表明した。

 3 争点

(1)本件申立てについての司法審査の在り方(争点1)

 (2)地震に起因する本件原子炉施設の事故の可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点2)

 (3)火山事象により本件原子炉施設が影響を受ける可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点3)

 (4)本件避難計画等の実効性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点4)

 (5)保全の必要性(争点5)

 (6)仮に本件申立てが認容されるとした場合の担保金の額(争点6)

第3 争点に関する当事者の主張

 1 本件申立てについての司法審査の在り方(争点l)について

   (債権者らの主張)

   人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、その侵害の理由、根拠、侵害者の過失の有無や差止めによって受ける不利益の大きさを問うことなく、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求することができる。人格権は各個人に由来するものであるが、その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき、その差止めの要請が強く働くのは当然である。

   福島第一原発における事故の被害状況等を踏まえれば、原子力発電所に求められるべき安全性、信頼性は極めて高度なものでなければならず、万一にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置がとられなければならない。

   その上で、大きな自然災害や戦争以外で、上記人格権の根幹部分が極めて広汎に奪われるという事態を招く可能性があるのは原子力発電所の事故のほかには想定し難いことに艦みれば、本件原子炉施設を再稼働させることにより上記事態(放射性物質の大規模な放出を伴うような重大事故の発生)を招く具体的危険性が万一でもあれぱ、その運転の差止めが認められると解すべきである。

   裁判所は上記具体的危険性の存否を直接審理の対象とすべきであり、その立証責任は債権者らが負担することとなる。

   なお、上記判断枠組みは、人格権の我が国の法制における地位や条理等によって導かれるものであるから、原子炉等規制法をはじめとする行政法規の在り方、内容によって左右されるべきものではない。

 (債務者の主張)

  本件申立てのような仮の地位を定める仮処分が認められるためには、保全の必要性として、当該仮処分が債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要であると認められることが必要であり(民事保全法23条2項)、この点についての主張疎明責任は債権者らが負う。本件に即していえば、債権者らは本件原子炉施設において重大事故が起こる具体的危険性について主張疎明する必要がある。

  この点、債権者らは、本件原子炉施設において地震に起因する重大事故が起こると主張するが、その根拠としては、他の原子力発電所で基準地震動を超える地震動が観測された事実及び基準地震動の想定手法の誤りを主張するのみであり、本件原子炉施設で起こり得る地震の具体的な規模及びその根拠、当該地震から重大事故に至るまでの具体的な機序及びその根拠については何ら主張していない。このように、債権者らはその主張疎明責任を負うべき重大事故が起こる具体的危険性について全く主張していないから、本件申立てが失当であることは明白である。

 2 地震に起因する本件原子炉施設の事故の可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点2)について

  (債権者らの主張)

 (1)「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」について

  ア 平均像の利用とその問題点

    新規制基準も、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定に用いる手法については従前の手法(改訂耐震指針)を踏襲するものであるところ、応答スペクトルに基づく手法は、基本的に過去の地震動の平均像を求めるためのものであり、断層モデルを用いた手法においても、経験式を用いる部分等については平均像を用いたものとなっている。

    平均像を用いて基準地震動を策定するならぱ、実際には平均像から外れた地震動が発生することが当然あり得るのであるから、実際の地震動が平均像からどれだけかい離し、最大がどのような値になるかが考慮される必要があるが、新規制基準においてはこのような考慮が求められておらず不合理である。この点、基準地震動の策定手法が過去に発生した地震動の平均像を求めるものであり、平均像から外れた地震があり得ることについては、地震工学の分野の第一人者であり、原子力発電所の耐震設計の在り方を主導してきた入倉孝次郎自身が認めている。そして、現に、日本の原子力発電所において、基準地震動を上回る地震動が観測された事例が10年間に5ケースも生じているのである。債務者はこのような基準値震動を上回る地震動が生じた要因を震源特性、伝播経路特性、敷地地盤の特性にあるとして、本件原子炉施設の基準地震動Ssの策定に当たってこれらの地域的な特性を十分に反映させているなどと主張するが、これら以外の要因に基づき基準地震動を上回る地震動が生じる可能性は十分にあるというべきであるから、本件原子炉施設においても福島第一原発における事故のような重大事故が起こる具体的危険性があるというべきである。

   なお、原子力規制委員会によって本件原子炉施設の新規制基準への適合性が認められたとしても、本件原子炉施設の安全性が担保されるものではないことについては、原子力規制委員会の田中俊一委員長も認めている。

  イ 「不確かさ」の考慮不十分

  (ア)「不確かさ」を考慮すべき理由

     地震という自然現象は、いろいろな要素が複雑に絡んでおり、実験によってその事象を確認することもできないから、理論的に完全な予測をすることは不可能である。そこで将来発生し得る地震を想定するに当たっては、過去の事象から推測していくほかないが、大規模な地震は低頻度の現象であるので、過去のデータは極めて乏しい。特に、詳細な地震観測記録は強震計が発明されて以降の数十年程度のものしかなく、日本においては、兵車県南部地震以降に各地に設置されるようになった強震計による平成9年以降のデータしかないというのが現状である。しかも、測定データ自体に誤差が含まれる上、得られたデータを基に分析・解釈する必要があるが、専門家によってその分析・解釈の結果が一致しない場合がある。このような地震学の現状に照らせば、過去の数少ないデータによって将来発生し得る地震を想定しようとしても、その推測には莫大な誤差(不確かさ)が伴うことにならざるを得ないのである。

     また、将来発生し得る地震に係る地震動の想定は、上記のような過去のデータからその傾向を把握して推定する方法を採らざるを得ないが、この傾向を把握するという作業は平均像を導くことに他ならず、前記アのとおり、実際には平均像から大きくかい離したデータが存在する。このことから明らかなとおり、上記手法を採用する限り、将来発生し得る地震に係る地震動の推定結果に莫大な誤差(不確かさ)が生じることは避けられない。

  (イ)「不確かさ」の考慮の在り方

     前記(ア)のとおり、将来発生し得る地震に係る地震動の想定には莫大な誤差(不確かさ)が生じ得ることに加え、原子力発電所が一旦重大事故を起こせば取り返しのつかない深刻な被害を広範に生じさせるものであることを考え併せると、仮に前記(ア)のような過去のデータからその傾向を把握して将来発生し得る地震動を推定する手法を採用するのであれば、「不確かさ」を安全側に十分に大きく考慮することが必要である。

     このような考え方に基づけば、基準地震動Ssの策定は、本来は既往最大地震を想定することでも足りず、想定可能な最大の地震を想定して行わなければならない。

     債務者は、本件震源モデルを構築するに当たって、新潟県中越沖地震の知見を踏まえ、短周期レベルAに関して既往の経験式の1.5倍相当の値を考慮するなどして「不確かさ」を考慮したとしているが、そのような考慮では足りないことは明らかである。すなわち、新潟県中越沖地震における柏崎・刈羽原発1~4号機及び5~7号機の各地震動に大きなばらつきが生じているが、その原因が明らかとされていないことなどに照らせば、同地震による最大地震動は現時点では不明とみるべきであり、この点の「不確かさ」の検討が必須となるところ、既往最大の地震として平均像の4倍に達するデータがあることをも考慮すれば、短周期レベルAについて既往の経験式の1.6倍相当の値を考慮したところで明らかに不十分というべきである。

    また、債務者は、本件原子炉施設敷地の伝播経路特性及び敷地地盤の特性について、地下構造の調査結果や地震観測記録の分析結果に基づき地盤による地震動の増幅がないことを確認できたとしているが、現在の地震学は地盤による地震動増幅の有無を正確に確認できる水準にないというべきである。

  ウ 活断層の調査について

    債務者は可能な限りの調査・観測を実施し、活断層等を正確に把握したとしているが、その結果に基づく本件原子炉施設敷地周辺の断層の分布をみると、あたかも海岸線から水深150m付近までの領域が断層の障壁となっているかのように、海底で認められた断層が水深150mほどのところで途切れ、陸上まで続いているものがほとんどないとされている。

    しかし、このような分布状況は科学的には説明困難であり、あくまで調査方法の限界等によって本来存在するはずの活断層の確認ができていないだけとみるべきである。この点、例えば海上音波探査は、海上で大きな音を発生させてその音波の反射波を捉えて地下の地層の状況を把握しようとする手法であるところ、本件原子炉施設敷地周辺で多いとされる横ずれ断層(上下方向の変位がないもの)を発見することは困難とされている。また、浸食による影響が考えられるほか、海岸線近くの水深の浅いところでの調査が困難(海上音波探査の精度が悪くなる。)という事情もある。そうすると、債務者による本件原子炉施設敷地周辺の活断層の把握は未だ不十分とみるべきであり、地震動想定の前提となる断層の長さの評価も必ずしも正確ではないと考えるべきである。

    したがって、債務者が取り上げている甑断層帯甑区間や市来断層帯甑海峡中央区間の断層が、実際にはさらに敷地に向かって伸び、地震動の想定においてアスペリテイの位置がより本件原子炉施設敷地に近いところに存在している可能性をも考慮しなければならない。また、特に、市来断層甑海峡中央区間の断層については、同断層が本件原子炉施設敷地に向かってまっすぐに伸び、さらに海岸線に沿って本件原子炉施設敷地に極めて近い場所を通って北北東に伸びている可能性を考えなくてはならないから、同断層は、その活動時に、本件原子炉施設敷地に破壊伝播効果(NFRD効果)による増幅された地震動をもたらす可能性のある、極めて危険な断層と位置付けられるべきである。

  エ 海洋プレート内地震の不考慮

    明治42年宮崎県西部の地震(M7.6、以下「宮崎県西部地震」という。)が海洋プレート内地震(なお、海洋プレート内地震は、「沈み込む海洋プレート内の地震」と「沈み込んだ海洋プレート内の地震」(以下「スラプ内地震」という。)の2種類に分けられるところ、宮崎県西部地震は後者の地震に当たる。)であったことや平成23年4月7日宮城県沖地震において震源から70km以上も離れていたのに女川原発の敷地で基準地震動を超える地震動を観測した事例があることに照らせば、本件原子炉施設の基準地震動の策定に際しても、海洋プレート内地震を考慮しておく必要があるといえるが、債務者はこのような類型の地震について一切考慮していない。

  オ 応答スペクトルに基づく手法による地震動評価

  (ア)応答スペクトルに基づく手法においては、特定の活断層が起こす地震の規模(マグニチュード)を想定する必要があり、当該想定には「松田式」と呼ぱれる手法(松田時彦「活断層から発生する地震の規模と周期について」(1975)で提案された、断層の長さから地震規模を求める関係式。以下「松田(1975)の関係式」という。)が用いられている。しかし、当該関係式を導くに当たって使用された基礎データのばらつきが非常に大きく、松田(1975)の関係式による地震規模の想定には莫大な誤差(不確かさ)が生じることが避けられない。

    また、応答スペクトルの策定に当た、て債務者の採用するNoda et al.(2002)の手法は、これを導き出すデータがわずか44地震の107記録(321成分)にすぎず、結局のところ、この手法も数少ないデータを基に平均像を求めようとするものであるから、当該平均値以上の地震が生じた場合の本件原子炉施設の耐震安全性は全く確保されないこととなる。

  (ア)債務者は、本件原子炉施設敷地周辺で発生する地震の揺れは平均的な地震動に比べて小さい傾向があること(具体的には、前記前提事実(8)ウ(ウ)のとおり、本件原子炉施設敷地における観測記録に基づいて解析した解放基盤表面の地震動(はぎとり波)の応答スペクトルとNoda et al.(2002)の方法により導かれる応答スペクトルの比率がおおむね全周期帯で1.0を下回る傾向となること)を確認したとしているが、実際には0.3秒から0.6秒までの周期帯で2.0ほどに達するものがあり、それより短い周期帯でも1.0程度ではなく、1.0を超えるものがある。また、債務者は、その原因として、九州地方南部で発生する地震が主に横ずれ断層型又は正断層型である点を指摘しているが、本件原子炉施設敷地周辺で発生する地震、とりわけ検討用地震となっている甑断層帯や市来断層帯付近で発生している地震は、純粋な横ずれ断層による地震ではなく、逆断層成分も含まれる地震である。 

    なお、一般的に横ずれ断層や正断層が動いたときの地震は逆断層が動いたときの地震より小さめとなることが知られているが、それは―つの傾向でしかなく、横ずれ断層であっても逆断層が動いたときと変わらないほどに大きな応力降下量を示す楊合もみられる。

  カ 断層モデルを用いた手法による地震動評価

  (ア)断層モデルを用いた手法による地震動評価は、一般的には、強震動予測レシピなどの非一様断層破壊シナリオの設定マニュアルに基づいて行われるところ、債務者は、このようなマニュアルを用いずに、平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録を基に構築した本件震源モデルに基づく地震動評価を行っている。

     なお、強震動予測レシピは、①震源断層面積の設定(震源断層面積=断層の長さ×幅。断層の長さを調査し、地震発生層の厚さと断層傾斜角を考慮した最大幅との関係で断層の幅を推定する。)、②入倉孝次郎・三宅弘江『シナリオ地震の強震動予測』(2001)(以下「入倉・三宅(2001)」という。)で提案された関係式による地震モーメント(Mo、震源断層面積(S)と、断層面におけるずれ量(平均すべり量、D)と、剛性率(変形のしやすさ、すなわち、ずれ面の接着の強さ)から得られる物理量をいう。)の設定、③平均応力降下量の設定(クラック理論に基づく関係式(別表②の式(1)参照。以下「クラック理論式」という。)を用いて求める。)、④アスペリティの総面積の設定(震源断層面積とアスペリティの総面積との関係に係る経験則(入倉・三宅(2001)による。)によって設定することになる。)、⑤アスペリティの応力降下量の設定(入倉・三宅(2001)による。)、⑤アスペリテイの個数と配置の決定、⑦アスペリティの平均すべり量比の設定、⑧アスペリティの実効応力と背景領域の実効応力の設定、⑨すべり速度時間関数の設定という9段階から構成されるが、その検討手順自体は債務者の採用した方法でも同じである。

  (イ)しかし、本件震源モデルにおける震源パラメータの設定については、以下のような問題があるので、債務者の行った地震動評価は、「不確かさ」を安全側に十分に大きく考慮したものとはなっていない。

   a 前記①の震源断層面積の設定について、本件震源モデルにおいても、震源断層面の形状を四角形と想定し、震源断層面の長さと幅を乗じてその面積を算出しているが、そもそも震源断層面が四角形になると想定すること自体が極めて不自然かつ簡略に過ぎるというべきである。

    また、上記震源断層面積の算出方法は、前提として震源断層面の長さを地表断層の長さから推定できると考えるものであるが、実際には、兵庫県南部地震に見られるとおり、地表断層の長さと地下の震源断層面の長さは必ずしも一致していない。

    以上に加えて、地震発生層の厚さについては、微小地震の発生領域などから推定することになるが、その基礎となる微小地震のデータが僅かしかないことなどからすれぱ、震源断層面積の想定作業においては非常に大きな「不確かさ」があるというべきである。なお、債務者は、断層の長さについて、債務者の調査結果よりも大きな値となる地震調査委員会の知見に基づく長さを採用したこと自体を安全上の「余裕」であると主張するが、単に当然に想定すべき断層長さを設定したにすぎず、「余裕」を確保したことにはならない。このことは断層の幅(11kmの想定ではなく13kmと設定)についても同様である。

    ここで、前記①の震源断層面積の設定における大きな誤差は、震源断層面積の値を用いた関係式によって導かれる前記②地震モーメントの設定においても大きな誤差が生じることにつながり、地震モーメントの誤差はそのまま短周期レベルAの地震動(ひいては基準地震動Ss)の誤差につながるものである。入倉・三宅(2001)の関係式の基となった内陸地殻内地震の観測記録を見ると、最も平均像から離れたもので同じ震源断層面積における地震モーメントが平均値の約4倍の値となっているものがあるから、「不確かさ」の考慮としては、既往最大地震を想定するだけでも平均値の4倍程度の値を採ることが必要となるが(さらに、最大で標準偏差+3σ以上の誤差が生じ得ることを想定すれば、「不確かさ」の考慮としては、平均値の10倍以上の値を採るべきである。)。債務者が行った検討において、そのような考慮はされていない。 

   b 本件震源モデルは、前記③の平均応力降下量の設定について、平成9年5月鹿児島県北西部地震の実測値をそのまま採用しているが、平成9年に鹿児島県北西部で発生した二つの地震においてでさえ、応力降下量の数値が相当異なるとされているから、そこから離れた債務者が想定する震源断層(甑断層帯及び市来断層帯)における平均応力降下量が平成9年5月鹿児島県北西部地震と同じになるはずがない。また、本件震源モデルは、アスペリティの実効応力についても、平成9年5月鹿児島県北西部地震の実測値をそのまま採用し、これを前提にクラック理論式(別表②の式(2))により前記④のアスペリティの総面積を設定するなどしているが、離れた場所にある断層が同じような固着の状況にあるとは考えられないのであって、債務者の想定はこの点においても不合理である。

 (ウ)震源断層面から敷地までの経路で地震動がどの程度減衰するかを推定するに当たっては、その減衰割合を求める関係式であるグリーン関数が用いられることになる。その具体的な手法としては、経験的グリーン関数法、統計的グリーン関数法及びハイブリッド合成法があるが、経験的グリーン関数法では、現状では要素地震として多少離れた場所での地震を選ばざるを得ず、そうすると実際の減衰状況との間で誤差が生ずることが性質上免れないこととなる。また、統計的グリーン関数法も、もともと多数の地震の地震動の地盤内での伝播過程の平均像でしかないことから、現実には平均像からかい離した減衰状況があり得るのであって、大きな誤差(不確かさ)をはらむこととなる。加えて、例えば、浜岡原子力発電所の例では、経験的グリーン関数と統計的グリーン関数との間で最大2倍程度の大きな誤差が生じており、グリーン関数を用いるに当たっては少なくともこの程度の誤差があることを考慮に入れるべきである。ところが、本件原子炉施設に係る地震動評価に当たって、このような誤差(不確かさ)は何ら考慮されていない。

 (2)「震源を特定せず策定する基準地震動」について

  ア 地震ガイドでは、「震源を特定せず策定する基準地震動」を策定するに当たって検討対象となる16地震を例示しているが、強震針が全ての地震動を捕捉できるほど配置されているわけではなく、観測記録もごく僅かしかないことなどを考慮すると、この方法によって想定できる地震動は決して確かなものとはいえない。

    したがって、震源を特定せず策定する基準地震動の策定に当たっても「不確かさ」を十分に考慮すべきであり、実際に地震ガイドにおいても、「震源を特定せず策定する基準地震動」を策定する際の基本方針として、「不確かさ」を考慮することが求められている。この点、債務者は、「震源を特定せず策定する地震動」の評価に際して、収集した観測記録をそのまま用いているようであるが、このような地震動評価が地震ガイドの基本方針に反することは明らかである。

  イ 債務者は、地震ガイドに例示されたMw6.5未満の地震について、震源近傍の観測点のうち地盤が著しく軟らかいと考えられるものを除外し、さらに加藤ほか(2004)による応答スペクトルとの比較・検討を実施して、本件原子炉施設敷地に大きな影響を与える可能性のある地震として、留萌支庁南部地震等五つの地震に係る観測記録を抽出したが、精度の高い地盤情報が得られているのが留萌支庁南部地震の本件観測点のみであったため、当該観測記録を選定したということである。

    しかしながら、債務者が精度の高い地盤情報を独自に収集することも可能であり、債務者が除外した観測記録の中にも留萌支庁南部地震を超える地震動を観測したものがある可能性もあることに鑑みれば、上記のような検討過程における観測記録の絞り込みは不当な怠慢というほかない。より安全側に立つならば、情報収集や調査に努め、観測記録に分析未了部分や不確かな部分があるのであれぱ、そのような「不確かさ」に十分配慮しつつも多くの資料を活用する姿勢が望まれるが、債務者はそのような姿勢を有していない。

  ウ 前記アのとおり、「震源を特定せず策定する基準地震動』を策定する際にも「不確かさ」を考慮すべきとする新規制基準の趣旨に照らせば、Mw5.7の留萌支庁南部地震における地震動をそのまま最大の「震源を特定せず策定する地震動」とすることは相当でなく、地震の規模として同地震の16倍にもなるMw6.5の直下型地震の地震動(少なくとも留萌支庁南部地震の約2.5倍(最大加速度:1500cm/S2)、更にアスペリティの面積を2分の1としたときの地震動(最大加速度:4200cm/S2))を想定すべきである。

    また、債務者は、留萌支庁南部地震における地震動について、本件観測点で得られた観測記録を基礎に分析・検討を行っているが、本件観測点における地震動が留萌支庁南部地震の最大地震動とはいえず、その地震動を1.5~2倍程度上回る地震動が他の地点で発生した可能性があることが明らかとなっている。他の地点での観測記録がないからといって、本件観測点における観測記録しか考慮せず、他の地点でさらに大きな地震動が発生したかどぅかを検討しないのは、観測記録に限定することにより地震動評価を小さくし、留萌支庁南部地震の知見を矮小化しようとしているものと見るほかない。

    これらによれば、債務者は、本件観測点において観測した留萌支庁南部地震の地震動をそのまま最大の「震源を特定せず策定する地震動」として扱い、本件原子炉施設の基準地震動Ss-2(最大加速度:620cm/S2)を策定しているが、これが過小であることは明らかである。

 (3)基準地震動Ssの策定について

    債務者は、震源を特定して策定した基準地震動Ss-1(最大加速度;540cm/S2)及び震源を特定しない基準地震動Ssー2(最大加速度:620cm/S2)の応答スペクトルを別紙図⑤のとおり組み合わせることにより基準地震動Ssを策定したが、ここで支配的な応答は、基準地震動Ss-2よりも、むしろ基準地震動Ss-1の方である。というのは、本件原子炉施設の重要な機器・配管の固有周期が集中している0.02~0.3秒の短周期帯の応答において、基準地震動Ss-2が基準地震動Ss-1を超えているのは、0.2~0.3秒の周期帯と、0.4秒以降の周期袴帯だけだからである。

    従前、このような場合、特定の地震(ここでは留萌支庁南部地震)は、たまたまそのような地震動を示しただけのことであって、同じ断層でも応力降下量や破壊開始点、断層面の角度などが少し違えば全く別の地震動を示す可能性があることを考慮し、特定の地震の応答をそのまま用いるのではなく、それを包絡する直線を設定する方が安全側だと考えられてきた。そのため、基準地震動Ssの策定の際には、特定の地震の応答をそのまま用いるのでは無く、それを包絡するように設定されてきたはずである。ところが、債務者が策定した基準地震動Ssは、地震動の最大加速度だけを見れば基準地震勣Ss-2が基準地震動Ss-1を上回るものの、基準地震動Ss-2の各固有周期を包絡するように基準地震動を引き上げているわけではなく、基本的に留萌支庁南部地震で観測された波形をそのまま用いているため、上記のとおり、短周期帯のほとんどの部分において基準地震動Ss-1の応答スペクトルが基準地震動Ss-2のそれを上回ることとなっており、いわば基準地震動の偽装ともいうべき事態が招来されている。

    以上のとおり、債務者による本件原子炉施設に係る基準地震動Ssの策定手法は不合理であって、策定された基準地震動Ssは著しく過少というべきである。

 (4)重大事故発生の具体的危険性

  ア 重大事故防止に必要な機能

    原子力発電技術で発生するエネルギーは極めて膨大であり、原子炉の運転を停止した後も燃料体等の冷却を継続しなければならず、これに失敗してしまうと重大事故に至り、放射性物質の外部放出等の深刻な被害をもたらしてしまう。このような原子力発電所に内在する本質的な危険を生じさせないためには、重大事故の原因となる事象が生じた場合に原子炉の運転を停止し、燃料体等を冷却し、放射性物質を閉じ込めるという、「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」という三つの対応が確実になされることが必要であり、重大事故の原因となる事象が生じた場合にこれらの機能が維持されることが欠くことのできない前提となる。

  イ 「冷やす」機能の維持について

    新潟県中越沖地震で観測された地震動(最大加速度:1699cm/S2)を超える地震動をもたらす地震が日本全国のどこでも起こり得るとする専門家の指摘があることなどに照らせぱ、本件原子炉建設においてもこれと同レベルの地震動(最大加速度;1700cm/S2程度)をもたらす地震が生じる可能性があることになるが、これは債務者が策定した基準地震動Ssを大福に超えるだけでなく、ストレステストで確認されたクリフエフッジも超えるものである。そうすると、本件原子炉施設においても、福島第一原発における事故と同様の放射性物質の大規模な放出を伴うような重大事故が起こる具体的危険性があるというべきである。

    また、債務者は、外部電源喪失や主給水系配管破断の危険性について、構造強度評価及び動的機能維持評価を実施したとしているが、これらについては耐震設計上の重要度分類でBクラス及びCクラスとされた施設の破損によっても生じ得ることから、基準地震動Ssを下回る地震によって外部電源が失われ、かつ、給水が断たれるおそれがあるというべきである。

    さらに、債務者は、ストレステストにおいて、上記の外部電源喪失及び主給水系配管破断の間題を除くと、川内1号機では最大加速度約907cm/S2の地震動により、川内2号機では最大加速度945cm/S2の地震動により重大事故につながる事象が始まるとしているところ、当時の基準地震動Ss(最大加速度:540cm/S2)から上記の各地震動(最大加速度:907cm/s2あるいは945cm/s2)までの間に、重大事故につながる損傷や事象が生じないということは極めて考えにくい。そもそも、本件原子炉施設に係るイベントツリーの実効性についても、①地震はその性質上従業員が少なくなる夜間も昼間と同じ確率で起こるのに対し、夜間に生じた突発的な危機的状況に直ちに対応できる人員がいない場合、特に指揮命令系統の中心となる所長がいない場合には、イベントツリーどおりに対応ができない可能性があること、②イベントツリーにおける対応策を採るためには、いかなる事象が起きているのかを把握できていることが前提になるが、実際にはこの把握自体が極めて困難であること、⑧仮にいかなる事象が起きてい

るかを把握できたとしても、対処すべき事柄が極めて多いのに対し、全交流電源喪失からメルトダウン開始までは僅かな時間しかないと考えられること、④採るべきとされる手段のうち幾つかは、その性質上、普段からの訓練や試運転になじまないこと、⑤防御手段に係るシステム自体が地震によって破損される可能性もあるごと、⑥放射性物質が一部でも漏れれば、その場所には近寄ることさえできなくなること、⑦本件原子炉施設に通ずる道路は非常に限られており、施設外部からの支援も期待できないことなど、多くの問題があることは明らかである。

 よって、本件原子炉施設には「冷やす」機能の維持について、重大な欠陥があるといわざるを得ない。

  ウ「閉じ込める」機能の欠陥について

   本件原子炉施設は使用済燃料貯蔵設備が堅固設備で覆われていない。また、重大事故の原因となる事象が生じた場合に、使用済燃料貯蔵設備に危険が発生する前に確実に給水ができるとは認め難い。

   そうすると、本件原子炉施設は「閉じ込める」機能の維持についても重大な欠陥があるというほかない。

 (5)債務者の主張に対する反論

  ア 耐震設計等により確保される耐震安全上の余裕について

 (ア)債務者は耐震設計等により確保される耐震安全上の余裕があることを基準地震動超過地震に対する本件原子炉施設の耐震安全性の根拠の一つとして主張する。この点、原子力発電所の耐震安全性に関する「安全余裕」とは、各施設の評価基準値と応力値(算定された発生応力の値)の差をいうものであるが、債務者の主張する余裕はこのような安全余裕以外の評価基準値の設定における余裕や発生応力の算定における余裕をも考慮するものである。

 しかし、債務者か考慮するこれら余裕は、設備の設計に当たって、構造物の材質のばらつき、溶接や保守管理の良否等の不確定要素を反映して安全性を確保するために求められるものであるところ、そのような余裕があることをもって基準地震動を超える地震に対する耐震安全性の根拠の一つとして主張すること自体が誤りである。

  なお、債務者は、本件原子炉施設における安全上重要な機器・配管系の一部の設備について「一次十二次応力評価」において発生値が評価基準値を超える結果となっていることに関し、これらの設備の簡易弾塑性解析による疲労評価を実施したところ、.評価基準値に対して十分な余裕が存在したとして、耐震安全上問題がないことが確認されたなどと主張しているが、簡易弾塑性解析による疲労評価は困難な作業であり、その結果は必ずしも信用できるものではない。他の原子力発電所における事故状況や、本件原子炉施設が営業運転開始後相当の年月が経過していることなどを踏まえれば、上記設備について耐震安全上問題がないとは到底いうことはできない。

 (イ)また、独立行政法人原子力安全基盤機構(平成14年度までは財団法人原子力発電技術機構。以下「原子力安全基盤機構」という。)が行った耐震実証試験(以下「耐震実証試験」という。)は、次のような問題があるから、この実験によって耐震安全性が確認されたとはいい難い。

   ①耐震実証試験で用いられた基準地震動は、本件原子炉施設に係る基準地震動Ssではなく、基準地震動S1として、M7.0、震源距離20kmの地震の地震動であり、位相特性につきエルセントロ地震を用いたものを、基準地震動S2として、M8.5、震源距離68kmの地震の地震動であって、位相特性につき昭和43年十勝沖地震におけるハ戸の観測記録を用いているところ、同観測記録はそれ以前に得られていた強震記録に比ぺて長い周期帯の成分が卓越することから注目されたものであったことに照らすと、特に後者の観測記録は、固有周期が短周期帯に属する原子力発電所の諸設備の耐震安全性を確認するための試験に用いるものとして不相当なものであったというべきである。

   ②そもそも本件原子炉施設の原子炉格納容器は、耐震実証試験で対象とされたコンクリート製格納容器ではなく鋼板製格納容器であり、外部遮へいを原子炉建屋によってするものであるから、耐震実証試験の結果を本件原子炉施設の耐震安全性の検討にそのまま用いることはできないはずである。

   ③耐震実証試験の対象となった設備は、原子炉格納容器、一次冷却設備、原子炉圧力容器、炉内構造物、非常用ディーゼル発電機システム、電算機シスデム、原子炉停止時冷却系等、主蒸気系等、制振サポート支持重機器、配管系終局強度(一般配管)等であるところ、その他の多数の設備は実験対象となっていない。実際にもストレステストで問題となった設備は上記に含まれていない。また、複雑なシステムとしての本件原子炉施設の耐震安全性は個別設備の確認だけでは不十分である。

   ④実際の原子炉圧力容器や蒸気発生器などが高温側と低温側に大きな温度差があり、使用鋼材などに温度差・熱膨張差による伸び縮みを繰り返すことによっての疲労現象等が生じると考えられるが、耐震実証試験ではこのような事象については全く考慮されていない。

 また、実際の蒸気発生器や冷却材ポンプの内部構造物は模擬されておらず、重量だけが模擬されたものであり、分岐配管などもない状態で実験がされている。これらによれば、耐震実証試験は、実際に生じる地震動が本件原子炉施政に及ぼす影響を想定するには不十分なものである。

 (ウ)加えて.債務者は、ストレステストの結果を基に、基準地震動Ssを超えてもクリフエッジに至るまでには余裕があることを本件原子炉施設の耐震安全性の根拠として主張しているが、応カ倣が評価基準値を超えた場合に原子炉の設置変更が許可されることはないのであるから、クリフエッジに至るまでに余裕があることをもって基準地震動Ssを超える地震に対する耐震安全性の根拠の一つとして主張すること自体が誤りである。

   なお、本件原子炉施設に係るストレステストは、当時の基準地震勣Ss(最大加速度:540cm/s2に基づき実施されたが、今回策定した基準地震動Ss(最大加速度620cm/s2を基準に実施すれば、クリフエッジの値はより小さいものとなると考えられる。

 イ 年超過確率について

   債務者は、基準地震動Ssを超える地震が発生する年超過確率について、10-4/年から10-5/年と主張するが、年超過確率というものは、決して精緻に出された確率ではない。

   すなわち、年超過確率とは、ある地点で1年の間にある大きさを超える事象(ここでは基準地震動を超過する地震の発生)が生じる可能性であるところ、信頼できる確率を導くためには大量のデータが必要であり、僅かな量のデータを基にしただけでは信頼できる確率は導き出せない。しかし、もともと地震は頻度の小さな現象であるので、現在までに得られているデータは僅かしかなく、したがって、導かれた確率も誤差が極めて大きく、いわば参考値程度にしかならないというべきである。また、債務者が年超過確率算出のために用いた手法は、知られている活断層についてのデータと既往の地震(歴史地震)のデータから確率を導くものであるから、想定外の地震、例えば、「震源を特定せず策定する地震動」で想定されている地震や、事前に知られていない活断層で発生する地震については、必然的に対象として考慮されていない。債務者は、専門家を集めてアンケート調査を行うなどして年超過確率の算定に当たっても「不確かさ」を考慮しようとしているが、このような手法を採るしかないこと自体、基礎となるデータが少ないときには、確率を求めることが困難なことを端的に示すものとなっている。

 (債務者の主張)

 (1)債務者が策定した本件原子炉施設に係る基準地震動の合理性

 ア 総論

   債務者は、本件原子炉施設敷地周辺で発生し、敷地に影響を及ぼす可能性のある地震について、詳細な調査・把握を行って、本件原子炉施設の耐震安全性が確保されるように設計を行い、また、営業運転開始後にも、規制基準の見直しなどに伴い継続的に最新の科学的知見に照らした耐震安全性の確認を行っているのであるから、本件原子炉施設における耐震安全性は十分に確保されている。

   加えて、債務者は、福島第一原発における事故発生を受け、設計において想定した事象を超える場合においても、原子炉を安全に停止し、炉心及び使用済燃料貯蔵設備内の燃料体又は使用済燃料の著しい損傷を防止し、放射性物質の異常な水準の放出を防止できるよう一層の対策を講じてきた。

   債務者が新規制基準に基づいて策定した基準地震動Ss及び安全確保対策の基本方針については、原子力規制委員会において、専門家による審査を経た上でその妥当性が確認され、発電用原子炉設置変更許可を受けている。

   以上によれば、本件原子炉施設において放射性物質の大規模な放出を伴うような重大事故が起こる具体的危険性はない。

   なお、債務者は、基準地震動の策定手法が、新たな科学的知見及び観測記録の蓄積などによって高度化してきた経緯を踏まえ、今後も地震観測の充実等を図り、地域的な特性の把握の精度向上に努めるなどの取組を継続して実施し、更なる安全性及び信頼性の向上に努めることが肝要であると認識している。

 イ 「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」について

   (ア)まず、債務者は、前記前提事実(8はア及びイのとおり、地震の震源となる活断層を評価  

するに当たり、本件原子炉施設敷地並びに敷地近傍及び敷地周辺の広範囲にわたる詳細な地質及び地下構造の調査や地震調査等を行い、本件原子炉施設敷地及び敷地近傍に活断層がないことを確認するとともに、半径5km以遠の活断層の長さについては「延ばす」「繋げる」など安全側に立った評価を行った上で、地震調査委員会(2013)の知見を反映することによって十分に安全側に配慮した評価を行っている。

   また、安全上重要な原子炉施設を設置する地盤の大部分が堅硬な岩盤から構成されていること、この塗板な岩盤が比較的浅所に広く存在することなどを確認している。

   次に、本件原子炉施設敷地で得られた90地震もの観測記録やその他敷地周辺の観測点で収集された観測記録、さらには多くの学識者等の最新知見を基に多角的な分析を行った結果、本件原子炉施設の敷地地盤において地震の到来方向による特異な地震動の増幅が見られないこと、本件原子炉施設周辺で発生する地震動が平均的な地震動に比べて小さい傾向にあることなどを確認している。

   その上で、前記前提事実(8)ウ(イ)のとおり、平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録を基に、強震動予測レシピよりも保守的な基本震源モデルを構築し、さらに、調査・観測などから十分に把握し切れない「不確かさ」が残る部分については、これを安全側に考慮した不確かさ考慮モデルを構築している。

   こうして構築した本件震源モデルを基に、前記前提事実(8)ウ(ウ)ないし(オ)のとおり、応答スペクトルに基づく手法による地震動評価及び断層モデルを用いた手法による地震動評価を行い、基準地震動Ss-1(最大加速度:540cm/s2)を策定している。断層モデルを用いた手法による地震動評価では、経験的グリーン関数法と長周期帯に理論的方法を適用したハイプリッド合成法を用いて、震源から本件原子炉施設敷地に至る伝播経路特性及び敷地地盤の特性を十分に反映させている。

   このように、本件原子炉施設の基準地震動Ss-1(最大加速度:540cm/s2)は、詳細な地質調査及び豊富な地震観測記録等を踏まえて、地域的な特性を反映し、十分に安全側の評価を行って策定されたものである。

  (イ)債務者は、地実動評価に用いる震源パラメータの設定に当たって、平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録に基づき構築した本件震源モデルを用いている。そして、本件震源モデルを用いた震源パラメータの設定方法は、震源断層面積の設定に関しては強震動予測レシピによるものと同じであるが、その余のパラメータの設定方法が異なっており、本件震源モデルにおいては、上記の方法により設定された震源断層面積と平成9年5月鹿児島県北西部地震における平均応力降下量及びアスペリティ実効応力の ̄実測値を用いて理論式による設定を行うため、経験式を一部で採用している強震動予測レシピにおいて見られる「ばらつき」を考慮する必要はない。

 ウ「震源を特定せず策定する地震動」について

  (ア)債務者は、前記前提事実(8)エのとおり、「震源を特定せず策定する地震動」を策定するに当たり、地震ガイドに例示された16地震に係る多くの観測点における観測記録を収集・分析し、その中で.敷地に与える影響が大きいと考えられ、かつ、精度の高い地盤情報が得られている本件観測点における留萌支庁南部地震の観測記録を選定してはぎとり解析等を行い、さらに余裕を持たせた上で基準地震動Ss-2(最大加速度;620cs/s2)を策定している。なお、基準地震動Ss-2は一部の周期帯で基準地震動Ss-1を上回ることから、基準地震動Ss-とは別に策定するものである。       ’

  (イ)債務者としては、前記イのとおり、本件原子炉施設敷地並びに敷地近傍及び敷地周辺において、精度の高い詳細な調査を実施し、その結果に基づいて敷地及び敷地近傍において本件原子炉施設の耐震安全性に影響を及ぼすような活断層がないことを確認しており、基本震源モデルにおいて地域的な特性を踏まえ十分安全側の設定をするとともに、さらに不確かさ考慮モデルを構築して「不確かさ」を考慮しているのであるから、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の検討過程において、十分に安全側に立った地震動評価が尽くされたものと判断している。もっとも、債務者は、新規制基準において「震源を特定せず策定する地震動」の検討が求められていることから、その趣旨を踏まえ、念には念を入れるとの安全上の観点から「震源を特定せず策定する地震動」の検討を行ったものである。したがって、債務者としては、この「震源を特定せず策定する地震動」は、本件原子炉施設敷地及び敷地近傍では発生し得ないものと考えており、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」における地震動評価手法の著しい高度化の過程をも踏まえれば、「震源を特定せず策定する地震動」による基準地震動Ss-2は、耐震安全上の観点から念のために付け加えるという位置付けにあるものと考えている。

  (ウ)債権者らは地震の規模をMw5.7からMw6.5に置き直して地震による揺れの計算を行うべきであると主張するが、このような置き換えをすることは震源を特定した地震動評価となり、「震源を特定せず策定する地震動」の範疇から外れることとなる。この点、「震源を特定せず策定する地震動」に対する新規制基準の要求は、震源と活断層を関連付けることが困難であった国内で過去に発生した地震について、特徴的な揺れとなった観測記録を抽出し、はぎとり解析によって技術的に妥当な解放基盤表面相当の揺れが推定できたものは極力評価に反映させるというものであり、観測記録(事実)の特徴を重視するという基本的な考え方が示されている。仮に、債権者らが主張するようにMw6.5に置き換えて地震による揺れの計算を行うことは、耐震安全上念のために考慮すべき観測記録(事実)の特徴を見逃しかねないこととなり、上記の新規制基準の基本的な考え方に反することになる。また、このような計算を行ったとしても、本件観測点の地域的な特性(震源特性、伝播経路特性、敷地地盤の特性)を反映した数値が得られるだけであり、そのような数値を本件原子炉施設の基準地震動の策定に用いることはできない。

  (エ)債権者らは、基準地震動Ssの策定に当たって、債務者が基準地震動Ss-2について基本的には留萌支庁南部地震で観測された波形をそのまま用いているが、安全側に立つならば上記波形を包絡するような直線を設定して基準地震動Ssを設定すべきであり、債務者の策定した基準地震動Ssは偽装ともいうべきものであるなどと主張しているが、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」は個別に評価すべきものとされているのであって、債務者が意図的に地震動評価手法を変更した事実はないから、債権者らの上記主張は事実誤認であり、失当である。また、債権者らが主張するように観測記録から離れて基準地震動Ss-2の波形を包絡させて基準地震勣Ssを策定することになれば、耐震安全上念のために考慮すべき観測記録(事実)の特徴を見逃しかねないこととなり、前記(ウ)の観測記録(事実)の特徴を重視するという新規制基準の基本的な考え方に反することになる。

  (オ)債務者は、「震源を特定せず策定する地震動」の策定に当たって、そのはぎとり解析の際、地盤情報の不確かさとして減衰定数を大きく設定し、はぎとり解析の計算方法についても複数の方法を用いるなど、そのばらつきを考慮して解析を行っているのであって、新規制基準で求められている「不確かさ」の考慮を行っている。

  (カ)債務者は、敷地に大きな影響を与える可能性のある地震とした五つの抽出観測記録のうち留萌支庁南部地震の本件観測点における観測記録以外の観測記録については、詳細な地盤情報が得られていないとして一時的に除外しているが、今後、これらの観測点の地盤情報に関する新たな知見が得られた場合には、耐震安全性の更なる向上のため、これらの抽出観測記録に基づく「震源を特定せず策定する地震動」の評価を実施していく方針である。

 エ 年超過確率

   地震ガイド及び同ガイドによりエンドース済みの年超過確率評価基準に基づいて基準地震動Ssの年超過確率を算定すると、本件原子炉施設における拡畑地震動Ssの年超過確率は、10-4/年から10-5/年程度である。よって、本件原子炉施設において基準地震動Ssを超過する地震が発生する頻度は1万年~10万年にI回程度と評価できるから、基準地震動を超過する地震が発生する可能性は極めて低いというべきである。

(2)本件原子炉施設の耐震安全上の余裕

 ア 耐震設計等により確保される耐震安全上の余裕

 (ア)耐震設計においては、技術基準として要求される評価基準値に対して上限とならないよう工学的な判断に基づき余裕が確保されているほか、地震によって働く力を計算する過程で、計算結果が保守的なものとなるように計算条件を設定するなど耐震安全性の余裕が確保されている。例えば、耐震設計における建物等にかかる応力を解析する際、モデルに入力する建屋の各位置に対する地震力について、地震応答解析で求められた動的地震力の最大値を静的地震力として用いており、これにより大きな応カ値が算定されることになるから(すなわち、実際の地震力は時々刻々と変化する動的地震力であるが、その動的地震力の最大値を静的地震力として用いることにより、実際には建物等に対し一瞬だけ作用することになる動的地震力の最大値が変化せず一定の力で作用し続けるものと仮定することになる。)、耐震設計上の安全余裕が確保されることになる。

    さらに、そもそも、技術基準として要求される評価基準値自体も、実際に建物等や機器・配管等が壊れる限界値に対し、十分余裕を持った値が設定されている。

    これらの余裕に加え、原子力発電所の施設は、放射線に対する遮へいの要求や、運転等に悼って発生する温度に対する耐熱の要求、振動防止の要求等から、建物の壁がより厚く設計されるなど、耐震以外の要求から更なる余裕が付加されている。

    なお、本件原子炉施設における安全上重要な機器・配管系の一部の設備につき、「一次十二次応力評価」において発生値が評価基準値を超える結果となっているが、いずれも簡易弾塑性解析による疲労評価を実施し、評価基準値に対して十分な余裕が存在し、耐震安全上問題がないことが確認されている。この点、一次応力とは、内圧や外荷重が作用している機器において、それらの力とバランスのために機器部材内に発生する応力のことであり、一次応力は材料の肉厚全体にわたって降伏点を超えた場合にもかかり続けることから、一次応力が一定の段階を超えると破断に至ることになるものであるが、上記の「一次十二次応力評価」において発生値が評価基準値を超える結果となった設備についても、一時応力評価においてはいずれも発生値が評価基準値を下回っている。そして、二次応力とは、支持金具で固定された部位など、応力に対して自由な方向に変形かできない(変形の範囲が制限されている)部位に発生する応力であるところ、二次応力が発生して部材に変形等が生じた場合には、変形等に伴い応力が低減するため、二次応力だけで機器・配管系が破損を起こすことはない。もっとも、一次応力に加えて二次応力が繰り返して発生する場合には、疲労破壊を引き起こす可能性があるため、二次応力により生じるひずみが無制限に許されるのではなく、疲労特性を考慮した評価(簡易弾塑性解析による疲労解析)が必要とされている(機械学会設備等規格)。

 (イ)以上のような耐震安全上の余裕に関し、原子力安全基盤機構は、昭和57年度から平成16年度までの間、多度津工学試験所において、大型高性能振動台を用いて、原子力発電所の安全上重要な設備について可能な限り実検に近い条件で振動実験(耐震実証試験)を実施しているが、強度実証試験(基準地震動S1及び基準地震動S2に対する強度及び機能の健全性を確認する試験)及び設計手法確認試験(耐震設計手法や地震応答解析手法の妥当性を確認するための試験)において、全ての試験対象限備について、基準地震動SI及び基準地震動SIに対する構造強度の確保、地震時(地震後)における原子炉格納容器の機密性や制御俸挿入性等の機能維持及び耐震設計手法等の妥当性が実証・確認され、限界加震試験(基準地震動S1及び基準地震動S2を超える地震力で加振し、耐震裕度を確認する試験)においても、全ての試験対象設備について、基準地震動S1を超える地震波に対して何ら異常は発生せず、十分な耐震安全上の余裕を有していることか実証された。

    また、原子力安全基盤機構は、上記限界加抜試験により得られた解析コードを用いて、加圧水型軽水炉(PWR)の実機配管の耐震安全上の余裕を解析したところ、やはり十分な安全上の余裕が確保されていることが実証された。

 (ウ)以上のように、本件原子炉施設は、地震力に対して十分な余裕をもった設計となっているから、仮に基準地震動を超過する地震動が発生したとしても、そのことから直ちにその耐震安全性に重大な影響が生じることにはならない。

 イ ストレステストの結果

   債務者は、前記前提事実(6)のとおり、原子力安全・保安院の指示を受けて本件原子炉施設に係るストレステストを実施し、特定したクリフエッジの耐震裕度について、川内1号機につき従来の基準地震動Ss(最大加速度:540cm/s2)の1.86倍(約1004cm/s2)、川内2号機につき従抜の基準地震動Ss(最大加速度:540cm/s2)の1.89倍(約1020cm/s2)と評価している。なお、本件原子炉施設のストレステストは、平成23年11月25日を評価時点としているが、債務者においては、その後、新規制基準へ適合するための追加の安全対策等を行っていることから、全体的な安全裕度はより向上している。

   このようなストレステストの結果からも、本件原子炉施政において基準地震動を超過する地震動が発生したとしても、そのことから直ちにその耐震安全性に重大な影響が生じることにはならないことが示されているというべきである。

   上の余原子力発電所の耐震設計では一般建物に要求される静的地震力の3倍の静的地震力を用いているところ、この静的地震カによる耐震設計で高い耐震安全性が確保されることについては、これまでに発生した地震における一般建物の地震被害調査結果から明らかになっている。

   すなわち、まず、兵庫県南部地震(M7.2)では、地表の観測点において、最大加速度約800cm/s2の地震観測記録が得られたが、神戸市灘区、東灘区及び中央区のうち震度7に相当する地域における鉄筋コンクリート造建物の全数被害調査の報告によれば、「軽微」までの被害にとどまっていたものがその調査対象の約84%にも達している。また、原子炉建屋と同じ壁式鉄筋コンクリート造建物に関しては被害率約4.5%にすぎず、被害を生じたものの大半が軽微な彼害にとどまっており、大破及び中破の被害の原因はそのほとんどが地盤の変形に伴う被害であった。次に、日本の観測史上最大の規模で発生した東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)でも、地表の観測点において、最大加速度約2000cm/s2を超える地震観測記録が得られたが、壁式鉄筋コンクリート造建物に関しては、一部地盤の変状等によるものを除き、ほとんど被害がなかったことが報告されている。

   さらに、日本の観測史上最大の加速度を記録した平成20年岩手・宮城内陸地震(M7.2)をみると、地表の観測点において、最大加速度4022cm/s2の地震観測記録が得られたが、土砂被害は大きかったものの建物被害は小さかったとされており、日本の観測史上最大の加速度を記録した地震計が設置されている観測小屋にも被害が見られなかった。なお、このような大きな加速度が観測されたのは、原子力発電所の安全上重要な構造物が設置される岩盤ではなく地表の観測点であり、地表地盤の影響によるとの分析がされている。

(3)多重防護の考え方に基づいた安全確保対策

   債務者は、本件原子炉施設において、万一異常な事象が発生することがあったとしても、放射性物質が大量に放出されることを防止するため「多重防護」の考え方に基づいた設計を行い、原子炉等の安全性を確保するために重要な役割を果たす安全上重要な設備について、地震等による共通要因故障(共通要因による安全機能の一斉喪失)を防止した上で、信頼性を確保するために多重性、多様性及び独立性を考慮した設備としたほか、従来から、自主的に実施体制、手順書類、教育等の運用面も含めたアクシデントマネジメント策の整備を行ってきた。

   ここで、「多重防護」とは、①異常の発生を未然に防止する、次に、②異常の拡大及び事故への進展を防止する、さらに、③放射性物質の異常な放出を防止するという3段階の対策を講ずるものであり、この3段階の対策は、単に三つの対策を講じているというものではなく、各段階の対策は、後続の対策に期待せず、当該段階で確実に異常の発生を防止し、若しくは確実に異常の拡大を防止し、又は放射性物質の異常な放出を確実に阻止するのに十分な対策を講じるというものである。そして、上記②の段階においては、原子炉を糠実に「止める」、また上記③の段階に至っても、原子炉を「冷す」、放射性物質を「閉じ込める」ことができるように各種の安全設備を設けており、仮にその一部が故障しても機能を果たすことができるように安全設備を多重に設けている。

   さらに、債務者は、福島第一原発における事故を契機として、地震、津波等に対する基準を厳格化した上、常設及び可搬式の設備(電源設備、注水設備等)を新たに配備するなど炉心の著しい損傷を防止する対策のほか、原子炉格納容器の破損を防止する対策を講じ、放射性物質の危険性を顕在化させないためのより一層の安全確保対策を充実させている。

 以上の各種対策により、本件原子炉施設の安全性は確保されているから、債権者らが主張する放射性物質の大規模な放出を伴うような重大事故が起こる具体的危険性はない。

 (4)債権者らの主張に対する反論

  ア 平均像を利用することの問題性について

  (ア)債権者らは、債務者による基準地震動の策定について、既往地震の平均像を利用して行われてきたことに根本的な欠陥があり、かかる手法は新規制基準でも是正されていないなどと主張するが、債務者は、本件原子炉施設の敷地周辺における徹底的な調査及ぴ地震観測記録の分析により、地域的な特性(震源特性、伝播経路特性及び敷地地盤の特性)を反映させ、地震動評価の精度を高める一方、なお十分には把握できないものについては「不確かさ」を考慮し、安金側に評価した上で本件原子炉施設の基準地震動Ssを策定しているのであって、既往地震の平均像をそのまま使用した事実はない。なお、地震が自然現象であり、その事象の複雑さゆえにある程度の「不確かさ」が存在する上、地震の起こり方には地域的な特性があることに照らせば、既往地震の地震動に係る観測記録から統計的に算出される平均像を基に地震動評価を行うこと自体は合理的というべきである。

    例えば、債務者は、応答スペクトルに基づく池震動評価において、Noda et al.(2002)による方法を用いているところ、本件原子炉施設敷地における地震観測記録に基づいて解析した解放基盤表面の地震動(はぎとり波)の応答スベクドレとNNodaet al.(2002)の方法により導かれる応答スペクトルの比率がおおむね全周期帯で1.0を下回る傾向となることを確認し、本件原子炉施設敷地における地震観測記録に基づく応答スペクトルの方がNoda et al.(2002)の手法により導かれる応答スペクトルに比べて小さい傾向を把握した、債務者はこのような傾向を把握した上で、安全側評価となるよう当該敷地における観測記録に基づく補正係数を用いた補正を行わず、Noda et al.(2002)による手法をそのまま採用しているものであるから、単に平均像を用いているわけではない。

    また、債務者は、断層モデルを用いた手法による地震動評価においても、平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録に基づき構築した本件震源モデルを用いて検討用地震の震源パラメータを設定している。この本件震源モデルは、本件原子炉施設の敷地周辺で発生した内陸地殻内地震の地域的な特性(震源特性)を精度よく反映しており、債務者は、これを基に経験的グリーン関数法及び長周期帯に理論的方法を適用したハイブリッド合成法を月いてその地域的な特性(伝播経路特性及び敷地地盤の特性)を踏まえた地震動評価を行っている。ここで、例えば、基本震源モデルを用いた場合、同じ震源断層面積から導かれる地震モーメントの値が強震動予測レシピに基づいて算定した値の約1.9~2.4倍になるなど、本件震源モデルを用いた震源パラメータの設定は強震動予測レシビに基づく設定よりも保守的なものとなっている。債務者は、このような傾向を把握した上でより安全側の評価となるよう、断層モデルを用いた手法による地震動評価にSして強震動予測レシピを用いずに本件震源モデルを用いているのであって、平均像を用いているとの評価は当たらない。よって、債権者らの上記主張は事実誤認であり、失当である。

    なお、債務者が採用している地震動評価手法は、兵庫県南部地震以後の観測記録の充実や地震学及び地震工学の発展、福島第一原発における事故等から得られた最新知見を踏まえ、多数の専門家による検討を経た上で原子力規制委員会によって策定されている評価手法である。

(イ)債権者らは、基準地震動Ss-1が「過去の地震動の平均像」であるとして基準地震動が過小である旨主張し、その策定に当たって平均像からかい離した地震の規模や頻度の考慮が不十分である点を問題とするようであるが、原子力発電所の耐震設計に当たっては、当該原子力発電所の敷地周辺で発生する地震の地域的な特性を踏まえた上で、過去最大ではなく、今後発生し得る最大の地震を想定する必要はあるものの、地域的な特性が同一でない地域において発生した事象まで考慮する必要はない。本件原子炉施設の基準地震動Ssは、本件原子炉施設敷地周辺で発生する地震の地域的な特性を踏まえ、本件原子炉施設敷地周辺で発生し得る最大の地震を想定して策定されたものであり、その他の安全確保対策等も加味すれば本件原子炉施設の耐震安全性は十分に余裕あるものとなっているのであるから、債権者らの主張する平均像とのかい離の程度等を検討する必要性は乏しい。

  イ 「不確かさ」の考慮について

  (ア)そもそも震源の「不確かさ」を考慮するということは、徹底的な調査及ぴ観測記録の分析等を実施し、それでもなお把握できない震源特性等について、当該敷地への影響が大きくなる可能性を勘案し設定するということである。債務者は、基準地震動Ssの策定に当たって、応答スペクトルに基づく地震動評価のみならす、震源特性、伝播経路特性及び敷地地盤の特性を考慮し、より精緻に実像を評価できる断層モデルを用いた手法による地震動評価によって本件原子炉施設の地震動評価を実施しており、その際、基本震源モデルの構築に当たっては、敷地周辺で発生した平成9年5月鹿児島県北西部地震の観測記録を基に精度よく震源バラメータを設定し、なお「不確かさ」が残る部分については、より安全側の評価となるよう不確かさ考慮モデルを構築しているのであるから、「不確かさ」の考慮としては十分である。

  (イ)なお、債務者は、本件震源モデルの拷集に当たり、その前提となる活断層の長さについて、前記前提事実(8)ア及びイのとおり、本件原子炉施設敷地並びに敷地近傍及び敷地周辺の広範囲にわたる詳細な地質調査や地震調査等を行い、敷地及び敷地近傍に活断層がないことを確認するとともに、半径5km以遠の活断層の長さの評価については「延ばす」「繋げる」などより安全側に立った評価を行った上で、さらに地震調査委員会(2013)の知見を反映している。これによれば、基本震源モデルにおいても、検討用地震の断層の長さを債務者が行った調査結果と比較して、それぞれ6.3km、22.6km、22.4kmの余裕が確保できており、これを基に算定される地震の規模(マグニチュード)にも0.3~0.7の余裕が生じ、これを本件原子2.0倍の余裕が生じていることとなる。

  (ウ)また、基本震源モデルにおいては、上記断層の長さに係る余裕に加え、断層の幅についても安全側に余裕を確保しており、更には前記ア(ア)のとおり、基本震源モデルを用いた震源パラメータの設定が強震動予測レシピに基づくパラメータ設定よりも保守的な設定となっているところ、これらを通じて、入倉・三宅(2001)の関係式に基づき算出される地震モーメントの値が、債務者が行った調査結果と強震動予測レシピに基づいて算出した値と比較して約6.0~15.3倍大きくなり、その分余裕が確保されていることとなる。

    加えて、債務者は、本件原子炉施設の敷地周辺で発生する地震が正断層型・横ずれ断層型であり、短周期帯での地震による揺れの大きさを示す短周期レベルAの数値が平均値以下であるという地域的な特性を把握しつつも、なお安全側となるように、不確かさ考慮モデルにおいて、短周期レベルAの値を基本震源モデルの値から1.25倍した評価を行っており、ここでも余裕が確保されている。なお、短周期レベルAは、断層の長さ及び幅並びに地震モーメントを基に算出されるものであるから.それぞれにつき上記余裕が確保されていることを考慮すると、短周期レベルAの数値は、債務者が行った調査結果と強震動予測レシピに基づいて算出した数値と比較して2.7~3.7倍の余裕が確保されていることとなる。

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        ♬ The House of the      Rising Sun

        朝日のあたる家

       Tommy Emmanuel 

       トミー・エマニュエル

 

    2012.11.20

 

 アメリカのTraditional Folk Songに、娼婦に身を落とした女性が半生を懺悔する歌とされる「The House of the Rising Sun(朝日のあ(当)たる家)」という素晴らしい曲があります。

 日本ではアニマルズやディランのものが有名ですが、多くのアーティストがカバーしています。

今日は、少し時間に余裕があったので、この曲をあらためて手持ちアーティスト群による演奏で楽しみました(浅川及びちあきは「朝日楼」)。

 ただし、イギリスのJohnny Handleという歌手の音源がないのが残念です。

・・・・・・・・・・・・・・

 トミー・エマニュエル(1955-)は、オーストラリアのギタリスト。フィンガーピッキングの達人

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