【メモ・データベース #30 ヘイトスピーチについて】 記 2015.8.28(金)
人間を、人種や民族、国籍、地域に、また、障害や病気の内容、学歴、職業、出身地などに基づいて区分し、その特定の人々に対して嫌がらせ、いじめなどの行為や差別をする「人種差別(Racism)」は、国別を問わず存在する人間社会の持つ負の側面です。
そのうち特に、わが国では、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)による、在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチが社会問題になっています。
このヘイトスピーチと呼ばれる差別的発言の街宣活動で授業を妨害されたとして、学校法人京都朝鮮学園(京都市)が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟は、学校の半径200メートル以内での街宣活動の禁止と、約1200万円の損害賠償を命じた一、二審判決が最高裁で維持され、確定しました。
これを受け、民主党、社民党、一部無所属議員の共同提案によるヘイトスピーチ等禁止法案(人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案)が2015年5月22日に参議院に提出され、審議が進められてきました。
しかし、与野党間の意見調整がつかず、今国会での採決が見送りになりそうだということです。
そこで、備忘録として、ヘイトスピーチに関する各種資料をまとめてみました。
Contents:
① ヘイトスピーチ禁止法案について
(1)最新情報
(2)ヘイトスピーチ禁止法案
② 人種差別撤廃条約について
(1)概要
(2)作成及び採択の経緯
(3)人種差別撤廃条約条文
③ ヘイトスピーチに関する国連人種差別撤廃委員会の一般的勧告について
④ 国連人種差別撤廃委員会の日本審査の総括所見
⑤ 総括所見に対する日本弁護士会会長声明
⑥ ヘイトスピーチに関する判決の報道
(1)京都地裁
(2)大阪高裁
(3)最高裁
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① ヘイトスピーチ禁止法案について
(1)最新情報
ヘイト禁止法案、採決見送りへ 表現の自由で与野党に溝
2015.8.28(金)朝日新聞デジタル
特定の人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチを禁じる「人種差別撤廃施策推進法案」について、自民、公明の与党は今国会での採決を見送る方針を固めた。与野党はヘイトスピーチを問題視する姿勢では一致したが、「表現の自由」とどう両立させるかで折り合えなかった。国際的にみて日本は関連法の整備が遅れており、課題は先送りされた。
与党は27日、国会内で民主党など野党が出した推進法について協議したが結論は出なかった。出席した自民党議員の一人は「何がヘイトスピーチか、誰が認定するかが難しい」と語り、今国会中は与野党合意できず、採決に至らないとの見通しを示した。
「ヘイトスピーチは許されない」との考えは自民、公明、民主、維新の4党で19日に一致していた。しかし、憲法が保障する「表現の自由」との兼ね合いを巡り、溝は埋まらなかった。
(2)ヘイトスピーチ等禁止法案
「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案(人種差別撤廃推進法案)」
第189回 参第7号
人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案
目次
第1章 総則(第1条-第9条)
第2章 基本的施策(第10条-第19条)
第3章 人種等差別防止政策審議会(第20条-第23条)
附則
第1章 総則 (目的)
第1条 この法律は、人種等を理由とする差別の撤廃(あらゆる分野において人種等を理由とする差別をなくし、人種等を異にする者が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現することをいう。以下この条において同じ。)が重要な課題であることに鑑み、日本国憲法及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の理念に基づき、人種等を理由とする差別の禁止等の基本原則を定めるとともに、人種等を理由とする差別の防止に関し国及び地方公共団体の責務、基本的施策その他の基本となる事項を定めることにより、人種等を理由とする差別の撤廃のための施策を総合的かつ一体的に推進することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「人種等を理由とする差別」とは、次条の規定に違反する行為をいう。
2 この法律において「人種等」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身をいう。
(人種等を理由とする差別の禁止等の基本原則)
第3条 何人も、次に掲げる行為その他人種等を理由とする不当な差別的行為により、他人の権利利益を侵害してはならない。
一 特定の者に対し、その者の人種等を理由とする不当な差別的取扱いをすること。
二 特定の者について、その者の人種等を理由とする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動をすること。
2 何人も、人種等の共通の属性を有する不特定の者について、それらの者に著しく不安若しくは迷惑を覚えさせる目的又はそれらの者に対する当該属性を理由とする不当な差別的取扱いをすることを助長し若しくは誘発する目的で、公然と、当該属性を理由とする不当な差別的言動をしてはならない。
第4条 人種等を理由とする差別は、職域、学校、地域その他の社会のあらゆる分野において、確実に防止されなければならない。
第5条 人種等を理由とする差別は、その防止のための取組が国際社会における取組と密接な関係を有していることに鑑み、国際的協調の下に防止されなければならない。
(国及び地方公共団体の責務)
第6条 国及び地方公共団体は、前3条に定める基本原則にのっとり、人種等を理由とする差別の防止に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
2 国及び地方公共団体は、人種等を理由とする差別の防止に関する施策を効果的に実施するため、国、地方公共団体、人種等を理由とする差別の防止に関する活動を行う民間の団体その他の関係者相互間の連携協力体制の整備に努めるものとする。
(基本方針)
第7条 政府は、人種等を理由とする差別の防止に関する施策の総合的かつ一体的な推進を図るため、人種等を理由とする差別の防止に関する基本的な方針(以下この条及び第20条第2項第1号において「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 内閣総理大臣は、関係行政機関の長に協議するとともに、人種等差別防止政策審議会の意見を聴いて、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。
4 前2項の規定は、基本方針の変更について準用する。
(財政上の措置等)
第8条 政府は、人種等を理由とする差別の防止に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
(年次報告)
第9条 政府は、毎年、国会に、人種等を理由とする差別の状況及び人種等を理由とする差別の防止に関して講じた施策についての報告を提出しなければならない。
第2章 基本的施策
(相談体制等の整備)
第10条 国及び地方公共団体は、人種等を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、人種等を理由とする差別の有無等に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、必要な体制を整備するものとする。
(多様な文化等に関する情報の提供等)
第11条 国及び地方公共団体は、人種等を異にする者の間の相互理解を促進し、その友好関係の発展に寄与するため、多様な文化、生活習慣等に関する適切な情報の提供、相互の交流の促進その他の必要な措置を講ずるものとする。
(人種等を理由とする差別の防止に関する啓発活動等)
第12条 国及び地方公共団体は、人種等を理由とする差別の防止について広く一般の関心と理解を深めるとともに、人種等を理由とする差別の防止を妨げている諸要因の解消を図るため、啓発活動その他の必要な措置を講ずるものとする。
(人権教育の充実等)
第13条 国及び地方公共団体は、人権尊重の精神を涵養することにより人種等を理由とする差別を防止するため、教育活動の充実その他の必要な措置を講ずるものとする。
(国内外における取組に関する情報の収集、整理及び提供等)
第14条 国は、人種等を理由とする差別の防止に関する地方公共団体及び民間の団体等の取組を促進するため、国内外における人種等を理由とする差別の防止に関する啓発活動、教育活動その他の取組に関し、情報の収集、整理及び提供その他の必要な措置を講ずるものとする。
(インターネットを通じて行われる人種等を理由とする差別の防止のための自主的な取組の支援)
第15条 国及び地方公共団体は、インターネットを通じて行われる人種等を理由とする差別を防止するため、人種等を理由として侮辱する表現、人種等を理由とする不当な差別的取扱いを助長し又は誘発する表現その他の人種等を理由とする不当な差別的表現の制限等に関する事業者の自主的な取組を支援するために必要な措置を講ずるものとする。
(地域における活動の支援)
第16条 国及び地方公共団体は、地域社会における人種等を理由とする差別を防止するため、地域住民、その組織する団体その他の地域の関係者が行うその防止に関する自主的な活動を支援するために必要な措置を講ずるものとする。
(民間の団体等の支援)
第17条 前2条に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、人種等を理由とする差別の防止に関する自主的な活動を行う民間の団体等が果たしている役割の重要性に留意し、これらの民間の団体等の活動を支援するために必要な措置を講ずるものとする。
(調査の実施)
第18条 国は、人種等を理由とする差別の防止に関する施策の策定及び実施に資するよう、地方公共団体の協力を得て、我が国における人種等を理由とする差別の実態を明らかにするための調査を行わなければならない。
(関係者の意見の反映)
19条 国及び地方公共団体は、人種等を理由とする差別の防止に関する施策の策定及び実施に当たっては、人種等を理由とする差別において権利利益を侵害され又はその有する人種等の属性が不当な差別的言動の理由とされた者その他の関係者の意見を当該施策に反映させるために必要な措置を講ずるものとする。
第三章 人種等差別防止政策審議会
(設置)
第20条 内閣府に、人種等差別防止政策審議会(以下「審議会」という。)を置く。
2 審議会は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 基本方針に関し、第七条第二項(同条第四項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。
二 内閣総理大臣の諮問に応じて人種等を理由とする差別の防止に関する重要事項を調査審議すること。
三 前二号に規定する事項に関し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は関係行政機関の長に対し、意見を述べること。
四 第一号及び第二号に規定する事項に関し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長に勧告すること。
3 内閣総理大臣又は関係行政機関の長は、前項第4号の規定による勧告に基づき講じた施策について審議会に報告しなければならない。
(組織及び運営)
第21条 審議会は、委員15人以内で組織する。
2 審議会の委員は、人種等を理由とする差別の防止に関し学識経験を有する者のうちから、内閣総理大臣が任命する。
3 審議会の委員は、非常勤とする。
第22条 審議会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
2 審議会は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
第23条 前二条に定めるもののほか、審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。
附 則
(施行期日)
1 この法律は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
(内閣府設置法の一部改正)
2 内閣府設置法(平成11年法律第89号)の一部を次のように改正する。
第4条第2項中「促進」の下に「、人種等を理由とする差別の防止」を加え、同条第3項第44号の次に次の一号を加える。
44の2 人種等を理由とする差別の防止に関する基本的な方針(人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律(平成27年法律第▼▼▼号)第七条第一項に規定するものをいう。)の作成及び推進に関すること。
第37条第3項の表障害者政策委員会の項の次に次のように加える。
(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部改正)
人種等差別防止政策審議会 人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律
3 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)の一部を次のように改正する。
附則第9条のうち内閣府設置法第四条第3項第44号の次に一号を加える改正規定中「第4条第3項第44号」を「第4条第3項第44号の2を同項第44号の3とし、同項第44号」に改める。
② 人種差別撤廃条約について
(内容)
(1)概要
(2)作成及び採択の経緯
(3)人種差別撤廃条約条文
(1)概 要
人種差別撤廃条約(ICERD)は、人権及び基本的自由の平等を確保するため、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策等を、すべての適当な方法により遅滞なくとることなどを主な内容とし、1965年の第20回国連総会において採択され、1969年に発効した。当事国数は173か国。
日本は1995年12月15日に加入し、1996年1月14日、日本について「条約」の効力が生じた。
(2)作成及び採択の経緯
人権の尊重は、国連が最も大きな関心を払ってきたことの1つである。例えば、国連憲章第1条は、国連の目的の1つとして、「人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること」と規定している。また、1948年に採択された世界人権宣言は、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と宣言している。
しかし、現実には、1959年~60年にかけて、ゲルマン民族の優越性を主張して、反ユダヤ主義思想を扇動したりするネオ・ナチズムの活動が、ヨーロッパを中心に続発したほか、当時南アフリカ共和国では、アパルトヘイト政策による人種差別が行われていた。このような人種、民族に対する差別は、国連憲章や世界人権宣言に謳われている人間の尊厳や権利についての平等を否定するものであり、また、一国のみならず、諸国間の平和及び安全をも害するものである。
こうした憂慮すべき事態が起きていたことを背景に、1960年の第15回国連総会において、社会生活における人種的、宗教的及び民族的憎悪のあらゆる表現と慣行は、国連憲章及び世界人権宣言に違反することを確認し、すべての政府がそのような慣行等を防止するために必要な措置をとるよう要請した「人種的、民族的憎悪の諸表現」と題するナチズム非難決議が全会一致で採択されたほか、植民地主義及びこれに関連する分離及び差別のすべての慣行を終結しなければならない旨の内容を盛り込んだ「植民地及びその人民に対する独立の付与に関する宣言」が採択された。
しかし、人種、民族に対する差別は依然として存在し、このような差別を撤廃するためには、法的拘束力のない決議のみでは十分でなく、こうした決議に加え、各国に対し、差別を撤廃するためのより具体的な措置の履行を義務づける文書の採択が必要とされた。
こうして、1962年の第17回国連総会において、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する宣言案及び条約案の作成」に関する決議が採択され、1963年の第18回国連総会には、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国連宣言」が採択された。その後、既に、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の作成作業が行われていたにもかかわらず、「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」の草案の起草のための審議が優先的に行われ、その結果、宣言の採択からわずか2年後の1965年、第20回国連総会において、この条約が全会一致で採択され、1969年1月4日に効力を生じた。
(3)人種差別撤廃条約条文(英文・和文)
United Nations Declaration on the Elimination of All Forms of Racial Discrimination
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際連合宣言
The General Assembly,
Considering that the Charter of the United Nations is based on the principles of thedignity and equality of all human beings and seeks, among other basicobjectives, to achieve international co-operation in promoting and encouragingrespect for human rights and fundamental freedoms for all without distinctionas to race, sex, language or religion,
国際連合総会は、
国際連合憲章がすべての人間の尊厳及び平等の原則に基礎を置いており、他の基本的目的と共に、人種、性、言語又は宗教による差別のないすべての者のための人権及び基本的自由の尊重を助長し及び奨励することについて、国際協力が達成されるよう求めていることを考慮し、
Considering that the Universal Declaration of Human Rights proclaims that all humanbeings are born free and equal in dignity and rights and that everyone isentitled to all the rights and freedoms set out in the Declaration, withoutdistinction of any kind, in particular as to race, colour or national origin,
世界人権宣言が、すべての人間は生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳及び権利について平等であること並びにすべての人がいかなる形での差別をも、特に人種、皮膚の色又は国民的出身による差別を受けることなく、同宣言に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明していることを考慮し、
Considering that the Universal Declaration of Human Rights proclaims further that allare equal before the law and are entitled without any discrimination to equalprotection of the law and that all are entitled to equal protection against anydiscrimination and against any incitement to such discrimination,
更に、世界人権宣言が、すべての人は法律の前に平等であり、いかなる差別も受けることなく法律による平等の保護を受ける権利を有し、また、すべての人はいかなる差別に対しても、また、いかなる差別の扇動に対しても平等の保護を受ける権利を有することを宣明していることを考慮し、
Considering that the United Nations has condemned colonialism and all practices ofsegregation and discrimination associated therewith, and that the Declarationon the granting of independence to colonial countries and peoples proclaims inparticular the necessity of bringing colonialism to a speedy and unconditionalend,
国際連合が、植民地主義及びこれに伴う隔離及び差別のあらゆる慣行を非難してきたこと並びに植民地及びその人民に対する独立の付与に関する宣言が特に植民地主義を速やかにかつ無条件に終了させる必要性を宣明したことを考慮し、
Considering that any doctrine of racial differentiation or superiority isscientifically false, morally condemnable, socially unjust and dangerous, andthat there is no justification for racial dicrimination either in theory or inpractice,
人種的相違又は優越性のいかなる理論も科学的に誤りであり、道徳的に非難されるべきであり及び社会的に不正かつ危険であること並びに理論上又は実際上、人種差別を正当化することはできないことを考慮し、
Taking intoaccount the other resolutions adopted by the General Assemblyand the international instruments adopted by the specialized agencies, inparticular the International Labour Organisation and the United NationsEducational, Scientific and Cultural Organization, in the field ofdiscrimination,
差別について国際連合総会が採択した他の種々の決議及び国際連合の専門機関、特に国際労働機関及び国際連合教育科学文化機関が採択した国際文書に考慮を払い、
Taking intoaccount the fact that, although international action and effortsin a number of countries have made it possible to achieve progress in thatfield, discrimination based on race, colour or ethnic origin in certain areasof the world none the less continues to give cause for serious concern,
多くの国々においては、国際的な活動と努力によってこの分野での進歩がみられるが、それにもかかわらず、世界のいくつかの地域において、人種、皮膚の色又は種族的出身に基づく差別が依然として深刻な問題を起こしているという事実に考慮を払い、
Alarmed by the manifestations of racial discrimination still in evidence in someareas of the world, some of which are imposed by certain Governments by meansof legislative, administrative or other measures, in the form, inter alia,of apartheid, segregation and separation, as well as by the promotionand dissemination of doctrines of racial superiority and expansionism incertain areas,
世界のいくつかの地域において人種差別が依然として存在していること(特定の政府により、立法、行政又はその他の措置を通じ、特にアパルトヘイト、隔離又は分離の形態で行われるものを含む。)並びに特定の地域において人種的優越及び拡張主義の理論の助長及び宣伝が行われていることを危険な事態として受けとめ、
Convinced that all forms of racial discrimination and, still more so, governmentalpolicies based on the prejudice of racial superiority or on racial hatred,besides constituting a violation of fundamental human rights, tend tojeopardize friendly relations among peoples, co-operation between nations andinternational peace and security,
あらゆる形態の人種差別、とりわけ人種的優越又は人種的憎悪という偏見に基づく政府の政策は、基本的人権の侵害であること並びに諸国民の間の友好的な関係、国家間の協力及び国際平和及び安全をも危くするものであることを確信し、
Convinced that all forms of racial discrimination and, still more so, governmentalpolicies based on the prejudice of racial superiority or on racial hatred,besides constituting a violation of fundamental human rights, tend tojeopardize friendly relations among peoples, co-operation between nations andinternational peace and security,
同様に、人種差別は差別される者ばかりでなく、差別する者にも害を与えるものであることを確信し、
Convinced further that the building of a world society free from all forms ofracial segregation and discrimination, factors which create hatred and divisionamong men, is one of the fundamental objectives of the United Nations,
更に、いかなる形態の人種隔離及び人種差別並びに人々の間に憎悪及び分裂をつくる要因もない世界的社会を建設することが国際連合の基本的目的の一つであることを確信し、
1. Solemnly affirms thenecessity of speedily eliminating racial discrimination throughout the world,in all its forms and manifestations, and of securing understanding of andrespect for the dignity of the human person;
1.世界を通じてあらゆる形態及び表現による人種差別を速やかに撤廃し、かつ人間の尊厳に対する理解及び尊重を確保する必要を厳粛に確認し、
2. Solemnly affirms theneccessity of adopting national and international measures to that end,including teaching, education and information, in order to secure the universaland effective recognition and observance of the principles set forth below;
2.次に定める諸原則が普遍的かつ効果的に承認及び遵守されることを確実にするために、教授、教育及び情報を含む国内的及び国際的措置をとる必要性を厳粛に確認し、
3. Proclaims thisDecralation:
3.次のとおり宣言する。
Article 1
Discrimination between humanbeings on the grounds of race, colour or ethnic origin is an offence to humandignity and shall be condemned as a denial of the principles of the Charter ofthe United Nations, as a violation of the human rights and fundamental freedomsproclaimed in the Universal Declaration of Human Rights, as an obstacle tofriendly and peaceful relations among nations and as a fact capable ofdisturbing peace and security among peoples.
第1条
人種、皮膚の色又は種族的出身を理由にする人間の差別は、人間の尊厳に対する侵害であり、国際連合憲章の原則の否定、世界人権宣言に謳われている人権及び基本的自由の侵害、及び国家間の友好的かつ平和的な関係に対する障害及び諸国民の間の平和及び安全をも害するものとして非難されなければならない。
Article 2
1. No State, institution, group or individual shall make anydiscrimination whatsoever in matters of human rights and fundamental freedomsin the treatment of persons, groups of persons or institutions on the groundsof race, colour or ethnic origin.
2. No State shall encourage,advocate or lend its support, through police action or otherwise, to anydiscrimination based on race, colour or ethnic origin by any group, institutionor individual.
3. Special concrete measuresshall be taken in appropriate circumstances in order to secure adequatedevelopment or protection of individuals belonging to certain racial groupswith the object of ensuring the full enjoyment by such individuals of humanrights and fundamental freedoms. These measures shall in no circumstances haveas a consequence the maintenance of unequal or separate rights for different racialgroups.
第2条
1.いかなる国家、機関、集団又は個人も、人種、皮膚の色又は種族的出身を理由として人権及び基本的自由に関し、個人、集団又は団体を差別してはならない。
2.個人、集団又は団体による人種、皮膚の色又は種族的出身を理由にしたいかなる差別に対しても、国はその警察活動その他の措置によりこれを奨励、擁護又は支持してはならない。
3.状況により正当とされる場合には、特定の人種の集団に属する個人に対し人権及び基本的自由の十分な享有を保障するため、当該個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとらなければならない。この措置は、いかなる場合においても、その結果として、異なる人種の集団に対して不平等な又は別個の権利を維持することとなってはならない。
Article 3
1. Particular efforts shall bemade to prevent discrimination based on race, colour or ethnic origin,especially in the fields of civil rights, access to citizenship, education,religion, employment, occupation and housing.
2. Everyone shall have equalaccess to any place or facility intended for use by the general public, withoutdistinction as to race, colour or ethnic origin.
第3条
1.市民的権利、市民権の取得、教育、宗教、雇用、職業及び住居の分野において、人種、皮膚の色又は種族的出身に基づく差別を防ぐために特別の努力を払う。
2.すべての者は、人種、皮膚の色又は種族的出身による区別なしに、一般公衆の使用を目的とする場所又は施設を平等に利用することができる。
Article 4
All States shall take effective measures to revise governmental and otherpublic policies and to rescind laws and regulations which have the effect ofcreating and perpetuating racial discrimination wherever it still exists. Theyshould pass legislation for prohibiting such discrimination and should take allappropriate measures to combat those prejudices which lead to racial discrimination.
第4条
すべての国家は、政府及び他の公的政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も廃止するために効果的な措置をとらなければならない。すべての国家は差別を禁ずる法律を制定し及び人種差別に導く偏見と戦うあらゆる適当な措置をとらなければならない。
Article 5
An end shall be put without delay to governmental and other publicpolicies of racial segregation and especially policies of apartheid, aswell as all forms of racial discrimination and separation resulting from suchpolicies.
第5条
人種隔離の政府及び他の公的政策、特にアパルトヘイト政策並びにそのような政策から生ずるあらゆる形態の人種差別及び分離を遅滞なく終了させなければならない。
Article 6
No discrimination by reason of race, colour or ethnic origin shall beadmitted in the enjoyment by any person of political and citizenship rights inhis country, in particular the right to participate in elections throughuniversal and equal suffrage and to take part in the government. Everyone hasthe right of equal access to public service in his country.
第6条
いかなる者も自国における政治的権利と市民権の享有、特に普通かつ平等の選挙権により選挙に参加し、政治に参与する権利の享有に当たって、人種、皮膚の色又は種族的出身により差別されてはならない。すべての者は自国において公務に平等に携わる権利を有する。
Article 7
1. Everyone has the right toequality before the law and to equal justice under the law. Everyone, withoutdistinction as to race, colour or ethnic origin, has the right to security ofperson and protection by the State against violence or bodily harm, whetherinflicted by government officials or by any individual, group or institution.
2. Everyone shall have the right to an effective remedy and protectionagainst any discrimination he may suffer on the ground of race, colour orethnic origin with respect to his fundamental rights and freedoms throughindependent national tribunals competent to deal with such matters.
第7条
1.すべての者は法律の前に平等であり、法律の下に平等な裁判を受ける権利を有する。すべての者は、人種、皮膚の色又は種族的出身による区別なしに暴力又は傷害(公務員によって加えられるものであるかいかなる個人、集団又は団体によって加えられるものであるかを問わない。)に対する身体の安全及び国家による保護についての権利を有する。
2.すべての者は、人種、皮膚の色又は種族的出身を理由とする基本的権利と自由に関する差別行為に対し当該事柄を扱う権限のある独立した自国の裁判所を通じて効果的な救済及び保護を受ける権利を有する。
Article 8
All effective steps shall be taken immediately in the fields of teaching,education and information, with a view to eliminating racial discrimination andprejudice and promoting understanding, tolerance and friendship among nationsand racial groups, as well as to propagating the purposes and principles of theCharter of the United Nations, of the Universal Declaration of Human Rights,and of the Declaration on the granting of independence to colonial countriesand peoples.
第8条
人種差別及び偏見を撤廃し、諸国民の間及び人種の集団の間の理解、寛容及び友好を促進し並びに国際連合憲章、世界人権宣言、及び植民地及びその人民に対する独立の付与に関する宣言の目的及び原則を普及させるため、教授、教育及び情報の分野において迅速にあらゆる効果的な措置をとらなければならない。
Article 9
1. All propaganda and organizations based on ideas or theories of thesuperiority of one race or group of persons of one colour or ethnic origin witha view to justifying or promoting racial discrimination in any form shall beseverely condemned.
2. All incitement to or actsof violence, whether by individuals or organizations, against any race or groupof persons of another colour or ethnic origin shall be considered an offenceagainst society and punishable under law.
3. In order to put into effect the purposes and principles of the presentDeclaration, all States shall take immediate and positive measures, includinglegislative and other measures, to prosecute and/or outlaw organizations whichpromote or incite to racial discrimination, or incite to or use violence forpurposes of discrimination, based on race, colour or ethnic origin.
第9条
1.形態のいかんを問わず、人種差別を正当化し若しくは助長することを目的とした、一の人種又は皮膚の色若しくは種族的出の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体は、厳しく非難されなければならない。
2.いかなる人種又は皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対する暴力行為又はその行為の扇動は、それが個人又は団体によるものであるかを問わず、社会に対する犯罪とみなし、法律の下で処罰されなければならない。
3.この宣言の目的及び原則に効力を与えるために、すべての国家は、人種差別を助長し又は扇動し、若しくは人種、皮膚の色又は種族的出身に基づく差別を行うことを目的として暴力を用い又は暴力行為を扇動する団体を訴追し、非合法化するために、立法その他の措置を含め、迅速かつ積極的な措置をとらなければならない。
Article 10
The United Nations, the specialized agencies, State and non-governmentalorganizations shall do all in their power to promote energetic action which, bycombining legal and other practical measures, will make possible the abolitionof all forms of racial discrimination. They shall, in particular, study thecauses of such discrimination with a view to recommending appropriate andeffective measures to combat and eliminate it.
第10条
国際連合、専門機関、国家及び民間団体はそれぞれの権限の範囲内で、法的措置及び他の実際的な措置を結合することにより、いかなる形態の人種差別をも廃止し得る精力的な行動を促進するためにあらゆることをしなければならない。特に人種差別と戦い、それを撤廃するための適切かつ効果的な措置を勧告するために、その差別の原因を調べなければならない。
Article 11
Every State shall promote respect for and observance of human rights andfundamental freedoms in accordance with the Charter of the United Nations, andshall fully and faithfully observe the provisions of the present Declaration,the Universal Declaration of Human Rights and the Declaration on the grantingof independence to colonial countries and peoples.
第11条
すべての国家は、国際連合憲章に従い、人権及び基本的自由の尊重及び遵守を助長し、この宣言、世界人権宣言、及び植民地及びその人民に対する独立の付与に関する宣言の規定を完全に、かつ、誠実に遵守しなければならない。
(出典:外務省)
③ ヘイトスピーチに関する国連人種差別撤廃委員会の一般的勧告(原文:英語)
2013年9月26日
人種差別撤廃委員会 一般的勧告 35
人種主義的ヘイトスピーチと闘う
I. 序文
1. 人種差別撤廃員会(以下、委員会)はその第80会期において、第81会期に人種主義的ヘイトスピーチに関するテーマ別討論を行うことを決定した。2012年 8月28日に行われた討論の重点は、人種主義的ヘイトスピーチの原因とその影響は何か、および、ヘイトスピーチと闘うために人種差別撤廃条約(以下、本条約)の資源をどのように活用できるかの二点に置かれた。討論の参加者は、委員会委員の他に各国の在ジュネーブ国連機関政府代表部、国内人権機関、非政府組織、学識者およびその他関係者であった。
2. 討論後に委員会が表明した方針は、ヘイトスピーチについて条約が何を命じているのかを、一般的勧告の作成をとおして明らかにすることであった。その目的は、報告書作成義務をはじめとする締約国の義務の履行を援助するためである。本勧告は人種差別に対する闘いに取り組むすべての関係者に関わるものであり、コミュニティ、人びとや国家間における相互理解の促進と持続的平和と安全保障に貢献することを目指している。
採択されたアプローチ
3. 委員会が本勧告作成にあたって考慮したのは、人種主義的ヘイトスピーチとの闘いにおける長きにわたる委員会の実務であり、そのために、本条約が規定する全手続きを活用した。また、委員会が強調するのは、人種主義的ヘイトスピーチがその後の大規模人権侵害およびジェノサイドにつながってゆくということであり、紛争状況においても大きな役割を果たすということである。ヘイトスピーチをとりあげた委員会の主な一般的勧告として、第4条の実施に関する一般的勧告7(1985)、第3条に関して、同条と表現の自由の権利との両立性を強調した一般的勧告15(1993)、人種差別のジェンダーに関連する側面に関する勧告25(2000)、ロマに対する差別に関する勧告27(2000)、世系に関する勧告29(2002)、市民でない者に対する差別に関する勧告30(2004)、刑事司法制度の運営及び機能における人種差別の防止に関する勧告31(2005)及びアフリカ系の人びとに対する人種差別に関する勧告34(2011)などがある。人種主義的ヘイトスピーチという問題に直接間接に関係する勧告が多いことには理由がある。条約のあらゆる規範と手続きを動員しないことには、人種主義的ヘイトスピーチとの効果的な闘いができないからである。
4. 本条約を生きた文書として実施するために、委員会は、より広い意味での人権に取り組んできたが、このことは、条約自体が認めていることである。たとえば、表現の自由の範囲を評価するにあたって思い起こされることは、この権利が、本条約以外のところで規定されているということだけではなく、本条約に取り入れられているということである。すなわち、本条約の諸原則は、現代国際人権法において何がこの権利の性質を決定しているのかをよく理解することに役立つものである。実際、委員会はヘイトスピーチと闘う作業に表現の自由の権利も取り入れ、この権利の不遵守があればそれを指摘し、この問題に関する他の人権機関による作業も参照している。
II. 人種主義的ヘイトスピーチ
5. 本条約の起草者らは、スピーチが人種的憎悪と差別の風潮を生み出すおそれについて認識していたので、スピーチが実際に生み出した危険について詳しく検討してきた。人種主義は本条約前文において、「人種主義に基づく理論及び慣行」という文脈でしか言及されていないが、それでも、第4条の人種の優越性の思想の流布に対する非難と密接に関係している。「ヘイトスピーチ」という用語は本条約において明示的に使用されてはいないものの、そのことによって、委員会がヘイトスピーチの現象を明らかにして、ヘイトスピーチと呼び、スピーチの行為と本条約の基準の関係を考察することを妨げられるものではない。本勧告は、条約規定全体に焦点を当てることにより、ヘイトスピーチとなる表現形式とは何なのかを明らかにするものである。
6. 委員会の実務の中で取りあげた人種主義的ヘイトスピーチとしてまず挙げられるのは、第4条が規定するすべての表現形式であり、第1条が認める集団を対象にしたものである。第1条は、人種、皮膚の色、世系または民族的もしくは種族的出身に基づく差別を禁止しているので、たとえば、先住民族、世系に基づく集団、ならびに、移住者または市民でない者の集団が対象となる。移住者または市民でない者の集団には、移住家事労働者、難民および庇護申請者が含まれる。人種主義的ヘイトスピーチとして次に挙げられるのは、上記集団の女性および他の脆弱な集団の女性に対して向けられたスピーチである。さらに、委員会は、インターセクショナリティ(交差性)の原則を考慮し、「宗教指導者に対する批判や宗教の教義に対する意見」は禁止も処罰もされるべきではないことを認めつつも、多数派とは異なる宗教を信仰または実践する特定の種族的集団に属する人びとに向けられたヘイトスピーチにも注目してきた。イスラム嫌悪、反ユダヤ主義、種族宗教的集団に対する類似した他の憎悪表現などがその例であるが、さらには、ジェノサイドやテロリズムの扇動といった極端な憎悪表現もある。また、保護される集団の構成員に対するステレオタイプ化やスティグマの押しつけも、委員会が採択した懸念の表明や勧告の対象となっている。
7. 人種主義的ヘイトスピーチが取る形態は多様であり、明白に人種に言及するものだけに限られない。第1条に基づく差別の場合のように、特定の人種または種族的集団に対する攻撃のスピーチは、その対象や目的を隠ぺいするために間接的な表現を用いることもある。締約国は本条約の義務に従って、いかなる形態の人種主義的ヘイトスピーチにも十分な考慮を払い、それらと闘うために効果的な措置を取るべきである。この勧告の諸原則が適用される人種主義的ヘイトスピーチは、それが、個人から発されたものか、集団から発せられたものかという出所とも、口頭か文書か、インターネットやソーシャル・ネットワーキング・サイトのような電子メディアによるものかという形態とも関わりない。スポーツイベントのような公衆の集まりで、人種主義的なシンボルやイメージや態度を示すといった 非言語的表現形態も含まれるのである。
III.本条約の根拠
8. ヘイトスピーチ行為を認定し、それに対して闘うことは、あらゆる形態の人種差別の撤廃に専念する本条約の目的の達成にとって不可欠である。ヘイトスピーチとの闘いにおいて本条約第 4 条が主要な手段として機能してきたが、本条約のその他の条項も目的の達成のために独自の貢献をしてきた。第4条の「十分な考慮」の文言は第5条と結びつくことによって、意見と表現の自由をはじめとする諸権利を人種差別を受けることなく享有するという、法のもとの平等の権利を保障している。第7条は多民族間の相互理解と寛容を促進する上で「教授、教育、文化及び情報」の果たす役割を強調している。第2条には締約国の人種差別を撤廃するという約束が含まれるが、その義務は第2条1(d)において最も広く表現されている。第6条は人種差別の被害者に効果的な保護と救済措置を確保すること、および受けた損害に対して「公正かつ適正な賠償又は救済」を求める権利を確保することに焦点を当てている。この勧告は主に本条約の第4条、第5条および第7条に焦点を当てている。
9. 最低限やらなくてはならないのは、人種差別を禁止する、民法、行政法、刑法にまたがる、包括立法の制定であり、これは、ヘイトスピーチに対して効果的に闘うために不可欠である。このことはさらなる措置をとることを妨げない。
第4条
10. 第 4 条の冒頭は、扇動と差別を根絶するために「迅速かつ積極的な措置」をとる義務を明記し、ヘイトスピーチの根絶のために最大限の資源を投入することを求める他の条約規定の義務を補完し強化している。「本条約における特別措置の意味と範囲に関する一般的勧告 32(2009)」において、委員会は、「措置」には「立法、行政、管理、予算、および規制に関するあらゆる文書、...ならびに計画、政策、プログラムや...制度」が含まれることを明らかにした。委員会は第4条の義務的性質を想起 するとともに、本条約の採択時において第 4 条が「人種差別に対する取り組みの中心と考えられていた」ことを指摘したが、その評価は委員会の実務の中で維持されている。第 4 条はスピーチおよび スピーチの発生の組織的文脈に関する要素を含み、ヘイトスピーチの予防および抑止の機能を持ち、また抑止が働かなかった場合の制裁を提供している。また、この条項には、別の明白な機能がある。人種主義的ヘイトスピーチは、人権原則の核心である人間の尊厳と平等を否定し、個人や特定の集団の社会的評価を貶めるべく、他者に向けられる形態のスピーチとして、国際社会が非難しているのだということを強調する機能である。
11. 冒頭とパラグラフ(a)において、「優越性の思想若しくは理論」または「人種的優越又は憎悪」の それぞれに関して、「基づく(based on)」という表現が、本条約が非難するスピーチを特徴づけるために使われている。この用語は委員会によって、第 1 条の「〜を理由とする(on the grounds of)」 と同様の意味であると理解され、原則として第4条にとっても同じ意味を有している。人種的優越 思想の流布に関する規定は、本条約の予防的機能の明確な表現であり、扇動に関する規定への重要な補完である。
12. 委員会は、人種主義的表現形態を犯罪とするにあたっては重大なものに留めるべきであり、合理的な疑いの余地がないところまで立証されなければならないことを勧告する。一方、比較的重大でない事例に対しては、とりわけ標的とされた個人や集団への影響の性質および程度を考慮して、刑法以外の措置で対処すべきであると勧告する。刑事処罰の適用は罪刑法定主義、均衡性および必要性の原則に則ってなされるべきである。
13. 第4条は自動執行性を有していないため、締約国は規定の要件に従って、本条の人種主義的ヘイトスピーチと闘う立法を採択することを求められる。本条約規定、ならびに、一般的勧告15(1993)の原則およびこの勧告の原則に照らして、委員会は、締約国が以下について法律により処罰することのできる犯罪であると宣言し、効果的に処罰するよう勧告する。
(a) あらゆる手段による、あらゆる人種主義的または種族的優越性または憎悪に基づく思想の流布。
(b) 人種、皮膚の色、世系、民族的または種族的出身に基づく特定の集団に対する憎悪、侮辱、差別の扇動。
(c) (b)の根拠に基づく個人または集団に対する暴力の扇動及び威嚇。
(d) 上記(b)の根拠に基づく個人または集団に対する軽蔑、愚弄若しくは中傷、または憎悪、侮辱若しくは差別の正当化の表現が、明らかに憎悪または差別の扇動となる場合。
(e) 人種差別を扇動及び助長する団体や活動に参加すること。
14. 委員会は、国際法によって定義されるジェノサイドや人道に対する罪を公に否定したり、それらを正当化しようとする試みが、人種主義的暴力や憎悪の扇動を構成することが明らかな場合には、法律によって処罰しうる犯罪として宣言されるべきだと勧告する。一方、委員会は、「歴史的事実に対する意見の表明」は禁止または処罰されるべきではないことも強調する。
15. 第4条は特定の形態の行為を法律により処罰されうる犯罪であると宣言することを要求しているが、その条項は犯罪行為とされる行為の形態に関する条件の詳細な指針は提供していない。法律により処罰されうる流布や扇動の条件として、委員会は以下の文脈的要素が考慮されるべきであると考える。
スピーチの内容と形態:スピーチが挑発的かつ直接的か、どのような形態でスピーチが作られ広められ、どのような様式で発せられたか。
経済的、社会的および政治的風潮:先住民族を含む種族的またはその他の集団に対する差別の傾向を含むスピーチが行われ流布された時に、一般的であった経済的、社会的および政治的風潮。ある文脈において無害または中立である言説であっても、他の文脈では危険な意味をもつおそれがある。委員会は、ジェノサイドに関する指標において、人種主義的ヘイトスピーチの意味および潜在的効果を評価する際に地域性が関連することを強調した。
発言者の立場または地位:社会における発言者の立場または地位およびスピーチが向けられた聴衆。
委員会は、本条約が保護する集団に対して否定的な風潮をつくりだす政治家および他の世論形成者の役割に常に注意を喚起しており、そのような人や団体に異文化間理解と調和の促進に向けた積極的アプローチをとるよう促してきた。委員会は、政治問題における言論の自由の特段の重要性を認めるが、その行使に特段の義務と責任が伴うことも認識している。
スピーチの範囲:たとえば、聴衆の性質や伝達の手段。すなわち、スピーチが主要メディアを通して伝えられているのかインターネットを通して伝えられているのか、そして、特に発言の反復が種族的および人種的集団に対する敵意を生じさせる意図的な戦略の存在を示唆する場合、コミュニケーションの頻度および範囲。
スピーチの目的:個人や集団の人権を保護または擁護するスピーチは刑事罰またはその他の処罰の対象とされるべきでない。
16. 扇動とは、特徴として、他の人に、唱導や威嚇を通して、犯罪の遂行を含む特定の形態の行為を行うよう影響を及ぼすことを目的としている。扇動は、言葉によるほか、人種主義的シンボルの掲示や資料の配布などの行為を通して、明示的もしくは暗示的に行われうる。未完成の犯罪としての扇動の概念は、扇動によって実際に行動が惹起されることまでは要求しないが、第4条に言及される扇動の形態を規制するにあたっては、締約国は、扇動罪の重要な要素として上記パラグラフ14にあげられた考慮事項に加えて、発言者の意図、そして発言者により望まれまたは意図された行為がそのスピー チにより生じる差し迫った危険または蓋然性を考慮に入れるべきである。これらの考慮はパラグラフ 13にあげられた他の犯罪についてもあてはまる。
17. 委員会は、第4条における行為の形態が犯罪であると宣言するだけでは十分でなく、また条項の規定が効果的に実施されなければならないことを繰り返す。効果的な実施とは、特徴として、本条約にあげられる犯罪の捜査と、適切な場合には加害者を訴追することによって達成できる。委員会は、加害者とされた者の訴追における(起訴)便宜主義の原則と、その原則が個々の事例に対して本条約とその他の国際法上の文書における保障に照らして適用されなければならないことを認識している。この点および本条約のもとの他の観点において、委員会は、国内当局の行った事実および国内法の解釈について見直すことは、その決定が明白に理不尽もしくは不合理でない限り、その機能ではないことを想起する。
18. 個々の事例の事実と法的条件が国際人権基準にそって評価されることを確保するためには、独立した、中立的で十分な情報をもった司法機関が極めて重要である。この点において、司法制度は人権の伸長と保護のための国内機関の地位に関する原則(パリ原則)に沿った国内人権機関によって補完されるべきである。
19. 第4条は、扇動と差別を根絶するための措置が、世界人権宣言の原則と本条約の第5条に明記された人権に十分な考慮を払い、とられなければならないことを要求する。「十分な考慮」の文言は、犯罪化と適用に際して、および、第4条の他の要件を充足する際に、意思決定の過程において、世界人権宣言の原則と第5条の人権に適切な比重が置かれなければならないことを意味している。「十分な考慮」の文言は委員会によって、意見と表現の自由に限らず、人権全体について適用されると解釈されてきたが、意見と表現の自由はスピーチの制限の正当性を検討するにあたって最も該当する原則であることを念頭に入れるべきである。
20. 委員会は、表現の自由に対する広範または曖昧な制限が、本条約によって保護される集団に不利益をもたらすよう使われてきたことに懸念を表する。締約国は、この勧告に述べられたように本条約の基準に沿って、十分な正確性をもってスピーチの制限を規定すべきである。委員会は、人種主義的スピーチをモニターし、それと闘う措置が、不公正に対する抗議や社会の不満や反対の表現を抑圧する口実のために使われてはならないことを強調する。
21. 委員会は、第 4 条(b)によって、人種差別を助長し扇動する人種主義的団体は違法と宣言され禁止されねばならないことを強調する。委員会は「組織的宣伝活動」とは、即席の団体やネットワークを意味し、「その他のすべての宣伝活動」とは、人種差別の非組織的または即興の助長または扇動をさすと考える。
22. 公の当局又は機関に関する第 4 条(c)の下において、そのような当局又は機関から発せられる人種主義的表現、特に上級の公人によるものとされる発言を、委員会は特に懸念すべきものと判断する。公人および公人でない者に適用される第4条(a)および(b)のサブ・パラグラフにあげられる犯罪の適用を妨げるものではないが、冒頭に言及される「迅速かつ積極的な措置」は、適切な場合は、職務から解くことなどの懲戒的な措置、ならびに被害者への効果的な救済をさらに含みうる。
23. 委員会は、通常の職務として、本条約に留保を付している締約国がそれを撤回するよう勧告している。人種主義的スピーチに関する本条約の規定に不利益な影響を及ぼしている留保が維持されている場合、締約国は、なぜその留保が必要と考えるのか、留保の性質と範囲、国内法および政策への正確な影響および一定の時間枠で留保を撤回または制限する計画に関する情報を提供することを要請される。
第5条
24. 本条約第 5 条は、締約国が人種差別を禁止して撤廃し、人種、皮膚の色あるいは民族的または種族的出身の区別なく、すべての人の法の前での平等の権利、とりわけ、思想、良心および信教の自由、意見および表現の自由、そして平和的集会および結社の自由を含む、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利の享有における平等の権利を保障する義務を謳うものである。
25. 委員会は、学術的議論、政治的関与あるいは類似した活動において、憎悪、侮辱、暴力あるいは差別の扇動を伴わずに行われる思想および意見の表明は、たとえそのような思想が議論を呼ぶものであれ、表現の自由の権利の合法的行使としてみなされるべきであると考える。
26. 第5条以外にも、意見と表現の自由は、幅広い国際文書において、基本的権利として認められている。そのひとつに世界人権宣言があるが、これは、すべて人は意見および表現の自由に対する権利を有し、その権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報および思想を求め、受け、および伝える自由を含むことを認めている。しかし、表現の自由への権利は無制限ではなく、特別な義務と責任を伴う。つまり、従うべき制限があるのである。とはいえ、その制限は法律によって規定されねばならず、他者の権利若しくは名誉の保護、国の安全、公序、公衆衛生又は公衆道徳の保護のために必要とされるものでなくてはならない。表現の自由は、他者の権利と自由の破壊を意図するものであってはならず、そこでいう他者の権利には、平等および非差別の権利が含まれるのである。
27. ダーバン宣言と行動計画およびダーバンレビュー会議の成果文書は、人種憎悪と闘う上での意見と表現の自由の権利が果たす肯定的役割を確認している。
28. 意見と表現の自由は、他の権利および自由の行使の土台を支え保障するものであるというだけでなく、本条約の文脈において格別な重要性を持っている。人種主義的ヘイトスピーチから人びとを保護するということは、一方に表現の自由の権利を置き、他方に集団保護のための権利制限を置くといった単純な対立ではない。すなわち、本条約による保護を受ける権利を持つ個人および集団にも、表現の自由の権利と、その権利の行使において人種差別をうけない権利がある。ところが、人種主義的ヘイトスピーチは、犠牲者から自由なスピーチを奪いかねないのである。
29. 表現の自由は、人権を主張するためにも、市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利を享有している状態とはどのようなものなのかを人びとに知らせるためにも、欠かせないものなので、脆弱な集団が社会の諸集団との間の力の均衡を是正するために役に立つ。さらに、表現の自由によって異文化理解と寛容が促進され、人種的ステレオタイプの解体が推し進められ、意見の自由な交換が促され、別の考え方や反対の考え方が獲得されるのである。よって、締約国は、本条約の範囲内にあるすべての集団が、表現の自由の権利を行使できるような政策を取り入れるべきである。
第7条
30. 本条約第4条は、一方で、人種主義思想の流布に関する規定によって、人種主義思想の流布を“上 流 ”で食い止めるものであり、他方で、扇動に関する規定によって、それらの“下流”における効果に対処するものである。これに対して、第 7 条はヘイトスピーチの根本的原因に取りくみ、第 2 条(1)(d)が想定する人種差別の撤廃に“適当な方法”をさらに詳しく説明している。第7条の重要性 は、年月が経とうと衰えるものではない。つまり、第 7 条が提示する人種差別撤廃のための広範な教育的アプローチは、人種差別と闘うその他のアプローチを補足する欠くべからず方法である。人種主義はとりわけ洗脳や不適切な教育の産物と言うことができるので、寛容の教育および反論のスピーチは、特に人種主義的ヘイトスピーチに対する効果的対抗手段として機能しうる。
31. 第7条にしたがって、締約国は、とりわけ教授、教育、文化および情報の分野において、迅速かつ効果的措置を取ることを約束している。その目的は、人種差別につながる偏見と闘うこと、民族、 人種あるいは種族集団間の理解、寛容および友情を促進すること、普遍的人権原則を広めること、とりわけ、本条約に含まれる普遍的人権原則を広めることである。第7条は本条約の他の規定と同様に義務的な言葉で表現されており、“教授、教育、文化および情報”とされている活動領域も、条約義務が課される活動の領域を余すところなく表しているわけではない。
32. 締約国の学校制度は、人権に関する情報やものの見方を広めるにあたって重要な出発点である。学校のカリキュラム、教科書および教材は人権のテーマを含むべきであり、国家間および人種と種族グループ間の相互の尊重と寛容の促進を目的にするべきである。
33. 第7条の要件に沿った適切な教育戦略には、尊重と尊厳の平等および真正な相互関係に基づいて、十分な人的および経済的資源に支えられた、異文化間のバイリンガル教育を含む異文化間教育が含まれる。異文化間教育のプログラムは公正な利益をバランス良く反映すべきであり、意図であれ結果であれ、同化の手段として機能させてはならない。
34. 教育分野において、締約国内の先住民族やアフリカ系住民を含む「人種または民族」集団の歴史、文化および伝統に関する知識を奨励する措置が取られるべきである。教材は、相互理解と尊重の促進のために、すべての集団が、国の独自性を社会的、経済的および文化的な面で豊かにしてきたこと、ならびに、国の経済的社会的進歩に貢献してきたことを強調すべきである。
35. 民族間の理解を促進するためには、均衡のとれた客観的な歴史表現が重要であるので、過去に特定の集団に対する残虐行為があった場合、状況に応じて追悼記念日やその他の公式行事を開催することによって、そのような人類の悲劇を追悼したり、紛争解決の実現を祝うことが望ましい。真実和解委員会も、人種憎悪の存続を阻止し、民族間に寛容の風土を醸成する上で、重要な役割を果たしうる。
36. 人種主義的ヘイトスピーチによる被害に注意を喚起するための情報キャンペーンおよび教育政策は、広く一般の人びとを取り込むことが望ましい。すなわち、宗教団体およびコミュニティ団体を含む市民社会、議員およびその他の政治家、教育専門家、行政職員、警察および公共の秩序を預かるそ の他の機関、および裁判官を含む司法関係者である。委員会は、人権保護における法執行官の訓練に関する一般的勧告 13(1993) と刑事司法制度の運営および機能における人種差別の防止に関する一般的勧告31(2005)に締約国の注意を喚起する。いかなる場合も、意見と表現の自由を保護する国際規範、ヘイトスピーチからの保護を規定する国際規範を知ることが、大変重要だからである。
37. 上級の公人がヘイトスピーチを断固として拒否し、表明された憎悪に満ちた思想を非難すれば、それは、寛容と尊重の文化の促進に重要な役割を果たすことになる。教育的方法と同様に有効なのは、異文化間対話の促進を、文化としての開かれた議論と制度的対話手段をとおして行うことであり、さらには、社会のあらゆる場面で機会均等を促進することであり、これらは、積極的に奨励されるべきである。
38. 人種主義的ヘイトスピーチと闘うための文化や情報における戦略が、体系的なデータ収集と分析にもとづいて打ち立てられるよう、委員会は勧告する。それによって、ヘイトスピーチが出現する情況、スピーチの相手側または対象となる聴衆、伝達手段、ヘイトメッセージに対するメディアの反応を分析するためである。この分野で国際協力することによって、データ比較の可能性が高まるばかりでなく、国境を越えたヘイトスピーチと闘うための知識と手段も増えるからである。
39. 情報に通じた倫理的で客観的なメディアには、ソーシャルメディアやインターネットも含まれるが、それらには、思想や意見を流布する責任を奨励する上で、重要な役割がある。締約国は、国際基準に沿ってメディアを対象とした適切な法律を整備することに加え、公共および民間メディアに対して、本条約の原則とその他の基本的な人権基準の尊重を取り入れた職業倫理規範および報道規範を採用するよう奨励すべきである。
40. 本条約第1条の対象である種族集団、先住民族集団およびその他の集団が、メディアに登場する際には、尊重と公平の原則に基づくべきであり、ステレオタイプ化を避けるべきである。メディアは、不寛容を促すような方法で、人種、種族、宗教およびその他の集団の特徴への不必要な言及を避けるべきである。
41. メディア多元主義を奨励すること、とりわけ、本条約にあてはまるマイノリティ、先住民族およびその他の集団が、自分たちの言語で、メディアを利用し所有するよう促進することが、本条約の諸原則をもっともよく活かすことにつながるのである。メディア多元主義を通した地域のエンパワメントは、人種主義的ヘイトスピーチに対抗するスピーチの出現を容易にする。
42. 委員会は、ダーバン宣言と行動計画が強調しているように、インターネット・サービスプロバイダー(ISP)による自主規制と倫理規範の順守を奨励する。
43. 委員会は、締約国に、あらゆるスポーツ分野において人種主義を根絶するためにスポーツ協会と協力するよう奨励する。
44. 特に本条約に関連して、締約国は本条約の基準と手続きに関する知識を普及させ、公務員、裁判官および法執行官など、とりわけその実施に関係のある人びとに対して関連したトレーニングを提供すべきである。締約国の報告書審査の終結時における委員会の総括所見と、第 14 条の個人通報手続きのもとでの委員会の意見は、公用語およびその他一般的に使用されている言語で、広く利用できるようにするべきである。
IV.総括
45. 人種主義的ヘイトスピーチを禁止することと、表現の自由が進展することとの間にある関係は、相互補完的なものとみなされるべきであり、一方の優先がもう一方の減少になるようなゼロサムゲームとみなされるべきではない。平等および差別からの自由の権利と、表現の自由の権利は相互に支えあう人権として、法律、政策および実務に十分に反映されるべきである。
46. 世界のさまざまな地域にヘイトスピーチが蔓延してゆくことは、人権への重大な現代的挑戦であることに変わりない。ひとつの国が本条約全体を誠実に実施するということは、ヘイトスピーチ現象に対抗するより広範な世界的取り組みの一部をなすものなのであり、不寛容と憎悪から解放された社会ビジョンを生きた現実として実現しよう、普遍的人権を尊重する文化を促進しようという、最もすばらしい希望を表現していることなのである。
47. 締約国が、人種主義的ヘイトスピーチと闘う法律および政策を推し進めるために、目標と監視手続きを設置することがたいへん重要であると、委員会は考える。締約国は、人種主義的ヘイトスピーチへの対抗措置を、対人種主義国内行動計画、統合戦略および国内人権計画とプログラムに含むよう要請される。
(翻訳:人種差別撤廃委員会一般的勧告 35 翻訳委員会)
④国連人種差別撤廃委員会の日本審査の総括所見(2014.8.29)(原文:英語)
(注:以下の文中「締結国」は、日本を意味する)
日本の第 7-9 回合同報告書に関する総括所見
1. 委員会は日本の第7-9回合同報告書(CERD/C/JPN/7-9)を、2014年8月20日および21日に開催された第2309回および第2310回会合(CERD/C/SR.2309・2310)において検討した。2014年8月28日に開かれた第2320回および第2321回会合にて、委員会は以下の総括所見を採択した。
A. はじめに
2. 委員会は、条約特定報告ガイドラインに沿って作成された締約国の第7回から第9回定期報告書の、単一の文書としての時期にかなった提出を歓迎する。委員会は、報告書の検討の間、大代表団により行われた口頭による説明と回答並びに書面により提供された追加情報に留意する。
B. 肯定的側面
3. 委員会は、前回の定期報告書以降に締約国がとった人種差別との闘いに貢献すべき一部の行政的および政治的措置、とりわけ2009年12月の人身取引対策行動計画の採択を関心をもって留意する。
4. 委員会はまた、前回締約国の定期報告書を検討した後、日本が以下に続く国際文書を批准したことについて関心をもって留意する。
(a) 2009年7月23日の強制失踪からのすべての者の保護のための国際条約、そして
(b) 2014年1月20日の障害者の権利に関する条約。
C. 懸念と勧告
5. 委員会は、2010年の総括所見において、締約国に“本総括所見に挙げるすべての問題点に対処する”よう要請したことを想起する。2011年の締約国のフォローアップ文書にあるように、パラグラフ12、20および21で表明した3つの懸念事項への回答以外、今回の報告書には2010年の総括所見への言及は何もなされていない。
委員会は、締約国が次回の定期報告書において本文書に含まれるすべての勧告に対応するよう強く勧告する。
人口の民族構成
6. 委員会は、締約国の報告書並びにコア・ドキュメントに締約国が提供している人口の国籍(出身地)別データに留意をするものの、特に市民でない者を含む被害をうけやすい諸集団に関して、それらデータは包括的ではなく、そのために委員会が締約国におけるそれら集団の状況を正しく評価することができないことを遺憾に思う(第1条)
改訂された条約特定報告ガイドライン(CERD/C/2007/1)に準拠して、そして、 条約第1条に関する一般的勧告24(1999年)と市民でない者に対する差別に関 する一般的勧告30を考慮に入れて、委員会は締約国に次のことを勧告する:
(a) 通常話されている言語、母語およびその他多様性を示す指標について調査をし、被害をうけやすい団体に関する社会的調査から情報を収集すること、そして
(b) 社会のすべての階層の特定的なニーズを考慮に入れた政策を定め、日本において条約に謳われている諸権利がどのように守られているのかを委員会がよりよく評価できるために、移住者および難民を含み、国籍および民族的出身別に分けられた社会的経済的指標に関する包括的で、信頼できる最新の統計データを集めること。
人種差別の定義
7. 委員会は、平等と非差別の原則を規定した日本国憲法第14条1にある人種差別の定義が、国民的または民族的出身、皮膚の色、あるいは世系を理由として含んでおらず、それゆえに条約第1条の要件を十分満たしていないことを懸念する。同様に、国内法に人種差別の適切な定義が存在しない(第1条と第2条)。
委員会は、締約国が国内法において、条約第1条1に完全に合致して、国民的または民族的出身、皮膚の色、および世系の理由を統合した人種差別の包括的定義を採択するよう勧告する。
人種差別を禁止する包括的な特別法の不在
8. 委員会は、いくつかの法律が人種差別に対する条文を含んでいることに留意しつつも、締約国において人種差別行為や人種差別事件が起き続けていること、および、被害者が人種差別に対し適切な法的救済を求めることを可能とする包括的な人種差別禁止特別法を未だ締約国が制定していないことについて、懸念する(第2条)。
委員会は、締約国に対して、人種差別の被害者が適切な法的救済を求めることを可能とし、条約1条 および2条に準拠した、直接的および間接的な人種差別を禁止する包括的な特別法を採択するよう促す。
国内人権機関
9. 委員会は、締約国がいまだ、パリ原則に完全に準拠した国内人権機関を設置していないことについて懸念する。これに関連して、委員会は、人権委員会法案の審議が2012年の衆議院解散により廃案となったこと、および、国内人権機関設置に向けた前進が極めて緩慢であることに留意する(第2条)。
委員会は、条約の実施を促進するための国内機関の設置に関する一般的勧告17(1994年)を念頭におきつつ、締約国に対し、パリ原則(総会決議48/134)に完全に準拠し、十分な人的および財政的資源が与えられ、かつ、人種差別の申し立てを取り扱うことを任務とする独立した国内人権機関の設置を目指して、速やかに人権委員会法案の検討を再開し、その採択を早めることを勧告する。
4条に準拠した立法措置
10. 締約国の4条(a)(b)項の留保の撤回あるいはその範囲の縮減を求めた委員会の勧告に関して締約国が述べた見解および理由に留意するものの、委員会は締約国がその留保を維持するという決定を遺憾に思う。人種差別思想の流布や表明が刑法上の名誉毀損罪および他の犯罪を構成しうることに留意しつつも、委員会は、締約国の法制が4条のすべての規定を十分遵守していないことを懸念する(第4条)。
委員会は、締約国がその見解を見直し、4条(a)(b)項の留保の撤回を検討することを奨励する。委員会は、その一般的勧告15(1993年)および人種主義的ヘイト・スピーチと闘うことに関する一般的勧告35(2013年)を想起し、締約国に、4条の規定を実施する目的で、その法律、とくに刑法を改正するための適切な手段を講じるよう勧告する。
ヘイト・スピーチとヘイト・クライム
11. 委員会は、締約国における、外国人やマイノリティ、とりわけコリアンに対する人種主義的デモや集会を組織する右翼運動もしくは右翼集団による切迫した暴力への煽動を含むヘイト・スピーチのまん延の報告について懸念を表明する。委員会はまた、公人や政治家によるヘイト・スピーチや憎悪の煽動となる発言の報告を懸念する。委員会はさらに、集会の場やインターネットを含むメディアにおけるヘイト・スピーチの広がりと人種主義的暴力や憎悪の煽動に懸念を表明する。また、委員会は、そのような行為が締約国によって必ずしも適切に捜査や起訴されていないことを懸念する。(第4条)
人種主義的ヘイト・スピーチとの闘いに関する一般的勧告 35(2013年)を思い起こし、委員会は人種主義的スピーチを監視し闘うための措置が抗議の表明を抑制する口実として使われてはならないことを想起する。しかしながら、委員会は締約国に、人種主義的ヘイト・スピーチおよびヘイト・ク ライムからの防御の必要のある被害をうけやすい立場にある集団の権利を守ることの重要性を思い起こすよう促す。したがって、委員会は、以下の適切な措置を取るよう勧告する:
(a) 集会における憎悪および人種主義の表明並びに人種主義的暴力と憎悪の扇動に断固として取り組むこと、
(b) インターネットを含むメディアにおけるヘイト・スピーチと闘うための適切な手段を取ること、
(c) そうした行動に責任のある民間の個人並びに団体を捜査し、適切な場合は起訴すること、
(d) ヘイト・スピーチおよび憎悪扇動を流布する公人および政治家に対する適切な制裁を追求すること、そして、
(e) 人種差別につながる偏見と闘い、異なる国籍、人種あるいは民族の諸集団の間での理解、寛容そして友好を促進するために、人種主義的ヘイト・スピーチの根本的原因に取り組み、教授、教育、文化そして情報の方策を強化すること。
移住労働者
12. 委員会は、雇用および入居における移住者に対する不平等な扱いに関する報告について懸念する。委員会はまた外国人技能実習生の権利が適切な賃金が支払われていないこと、過度な長時間労働に服従させられていること、および他の形態の搾取や虐待によって侵害されているという報告を懸念する (第5条)。
委員会は、締約国が市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30(2004)を留意しつつ、雇用および入居における移住者に対する人種差別と断固として闘い、移住者の就業状態を改善するために、法律を強化することを勧告する。委員会はまた、締約国が技能実習生の働く権利を保護するために、技能実習制度を改革するための適切な方策を講じることを勧告する。
市民でない者の公職へのアクセス
13. 委員会は、締約国代表団により提供された説明に留意しつつ、国家権力の行使を必要としない一部の公職へのアクセスについて、市民でない者が制限と困難に直面していることを懸念する。委員会は、家事紛争を解決する裁判所において、締約国が、能力のある市民でない者を調停委員として活動することから除外する見解と実務的取扱いを継続していることに、特に懸念する(第5条)。
委員会は、市民でない者に対する差別に関する一般的勧告 30(2004年)を想起し、締約国に対して、家事紛争を解決する裁判所において能力のある市民でない者が調停委員として活動できるよう、締約国の見解を見直すことを勧告する。委員会はまた、締約国が、締約国に長年にわたり暮らしてきた市民でない者に適切な注意を払いつつ、国家権力の行使を要しない公務へのアクセスを含む公的生活に 市民でない者の参加がより一層促進されるよう、法律上または行政上の制限を取り除くことを勧告する。委員会は、さらに、締約国が次回定期報告において、市民でない者の公的生活への参画に関して、包括的で細分化されたデータを提供することを勧告する。
国民年金制度への市民でない者によるアクセス
14. 国民年金法が国籍に関係なく日本に居住するすべての人びとを対象とすることに留意しつつ、委員会は、1982年の国民年金法からの国籍条項の削除および1986年の法改正により導入された年齢および居住要件が相まって、1952年に日本国籍を喪失したコリアンを含む多くの市民でない者が、国民年金制度のもとで排除され、年金受給資格を得られないままとなっていることについて懸念する。委員会はまた、1982年の国民年金法の障害基礎年金における国籍条項の削除にもかかわらず、国籍条項 のために1982年1月1日以前に年金受給資格を喪失した市民でない者および同日時点で20歳以上であったその他障害のある市民でない者についても、障害基礎年金受給から排除されたままであることについても懸念する(第5条)。
市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30 (2004年)を想起しつつ、委員会は、年齢要件によって国民年金制度から除外されたままの状態にある市民でない者、特にコリアンが、国民年金制度における受給資格を得られるための措置を講じることを締約国に勧告する。委員会はまた、現時点で受給資格のない市民でない者が障害基礎年金の適用を受けられるよう法を改正することも勧告する。
市民でない者による公共の場所や施設へのアクセス
15. 委員会は、条約第2条および第5条に違反して、レストラン、ホテル、公衆浴場や店舗など公共の場所および一般向けの施設から、人種あるいは国籍を理由とした市民でない者の排除が続いていること懸念する(第2条と第5条)。
委員会は、締約国が、とりわけ法律の効果的な適用を確保することで、適切な措置を講じて市民でない者を公共の施設の利用における差別から守るよう勧告する。委員会はまた、締約国がそのような差別行為を調査して処罰し、関連する法律の要件に関する公衆の啓発キャンペーンを強化することを勧告する。
人身取引
16. 人身取引を防止し闘うために講じられた措置に関して締約国の代表団によって提供された情報に留意しつつ、委員会はとりわけ性的搾取を目的に締約国におけるマイノリティ女性の人身取引が根強く続いていることを懸念する。委員会はまた、締約国内における人身取引の現象の規模を評価できる データが不足していることを懸念する。委員会はさらに、人身取引に対する具体的な法律の規定に関する情報と、調査、訴追および責任者に科した処罰などに関する事例の情報が不在であることを懸念する(第5条)。
委員会は締約国に対して以下を勧告する:
(a) 人身取引を禁止する特定の法律を制定すること、
(b) 移住女性などに対する人身取引と闘う取り組みを強化し、日本の人身取引対策行動計画の脈絡において、人身取引の根本原因に対処する予防措置を講じること、
(c) 被害者に対して、支援、保護、一時的な在留資格、リハビリテーションおよびシェルターのみならず、心理的および医療的サービス、また他の支援を提供すること、
(d) 迅速かつ徹底的に調査し、訴追し、そして責任者を処罰すること、
(e) 人身取引の被害者の認定、支援、保護における専門トレーニングを、警察官、国境警備員、入管職員をはじめとするすべての法執行者に行うこと、そして
(f) 締約国における、とりわけマイノリティ集団に属する人びとの人身取引に関する状況を委員会に報告すること。
外国人およびマイノリティの女性たちに対する暴力
17. 委員会は、外国人やマイノリティ、そして先住民族の女性に対して根強く続く暴力の情報について懸念する。委員会は、とりわけ、2012年の改定「出入国管理及び難民認定法」のもとで、日本人あるいは永住資格を有する外国人と婚姻した外国人女性が「その配偶者としての活動を継続して6ヵ月 以上行わずに日本に在留する」場合、当局は、同法22条4項1項に規定されているように、その在留 資格を取り消すことができるということに懸念する。これらの条項は、夫によるドメスティック・バ イオレンスの被害者である外国人女性が、虐待的な関係性から逃れ、支援を求めることを妨げうる(第2条と第5条)。
人種差別のジェンダーに関連する側面に関する委員会一般的勧告25(2000)および市民でない者に対する差別に関する一般的勧告 30(2004)を踏まえて、委員会は、締約国が外国人女性に対するあらゆる形態の暴力を訴追し処罰することによって、移住者、マイノリティ、先住民族の女性たちに対する暴力の問題に効果的に対処し、被害者が救済と保護の手段にただちに確実にアクセスできるよう、適切な措置を講じることを勧告する。締約国は、日本人あるいは永住資格を有した日本人でない者と婚姻している外国人女性が離婚や絶縁と同時に国外追放されないように、また法律の適用は、事実上、女性たちを虐待的な関係性のなかにとり残さないように法律を見直すべきである。
「慰安婦」
18. 委員会は、締約国の代表団から提供された、第二次世界大戦中に日本軍により性的に搾取された 外国の「慰安婦」の問題解決のために行われた努力に関する情報に留意する。委員会はまた、1995年に締約国が設立したアジア女性基金を通して提供された補償と、2001年の日本の首相の謝罪を含む政府の謝罪の表明に関する情報に留意する。生存する「慰安婦」に対する人権侵害は、彼女たちの正義および賠償の権利が完全に実現されない限り続くことを踏まえ、委員会は、大半の「慰安婦」が認知、謝罪、ないしはいかなる種類の補償も受けたことがないという報告に懸念する(第2条と第5条)。
委員会は締約国が以下のために即時の行動をとるよう促す:
(a) 日本軍による「慰安婦」の権利の侵害に関する調査の結論を出し、人権侵害に責任のある者たちを裁くこと、
(b) すべての生存する「慰安婦」あるいは彼女たちの家族に対する誠実な謝罪の表明と適切な賠償の提供を含み、「慰安婦」問題の包括的で、公平で、永続的な解決を追求すること、そして、
(c) それら出来事の中傷あるいは否定のあらゆる試みを非難すること。
朝鮮学校
19.委員会は、朝鮮を起源とする子どもたちの下記を含む教育権を妨げる法規定および政府による行為について懸念する。
(a)「高校授業料就学支援金」制度からの朝鮮学校の除外
(b)朝鮮学校へ支給される地方政府による補助金の凍結もしくは継続的な縮減(第2条と第5条)
市民でない者に対する差別に関する一般的勧告 30(2004年)を想起し、委員会は、締約国が教育機会の提供において差別がないこと、締約国の領域内に居住する子どもが学校への入学において障壁に直面しないことを確保する前回総括所見パラグラフ 22に含まれた勧告を繰り返す。委員会は、朝鮮学校への補助金支給を再開するか、もしくは維持するよう、締約国が地方政府に勧めることと同時に、締約国がその見解を修正し、適切な方法により、朝鮮学校が「高校授業料就学支援金」制度の恩恵を受けられるよう奨励する。委員会は、締約国がユネスコの教育差別禁止条約(1960年)への加入を検討するよう勧告する。
アイヌ民族の状況
20. アイヌ民族の権利を保護し促進するための、締約国による努力を留意する一方、委員会は、以下を含む締約国により展開された措置における欠点に懸念を表明する。
(a)アイヌ政策推進会議および他の 協議機関におけるアイヌの代表者の人数が少ないあるいは不十分なこと、
(b)北海道外に居住するアイ ヌ民族を含むアイヌ民族とそれ以外の者との間にある、生活の多くの分野、とりわけ教育、雇用、そし て生活水準における執拗な格差、
(c)土地と資源に対するアイヌ民族の権利を保護するために講じられる不十分な措置と、彼/彼女ら自身の文化と言語への権利の実現に向けた緩慢な進展(第5条)。
委員会は、先住民族の権利に関する一般的勧告 23(1997年)の観点から、先住民族の権利に関する国際連合宣言を考慮し、締約国に以下を勧告する:
(a)アイヌ政策推進会議および他の協議機関におけるアイヌ代表者の人数を増やすことを検討すること、
(b)雇用、教育そして生活水準に関して、アイヌ民族とそれ以外の者の間で依然として存在する格差を減らすために講じられている措置の実施を迅速化し、向上させること、
(c)土地と資源に関するアイヌ民族の権利を保護するための適切な措置を採択し、文化と言語に対する権利の実現に向けた措置の実施を促進すること、
(d)政府のプログラムや政策を調整するために、アイヌ民族の状況に関する包括的な実態調査を定期的に実施すること、そして、
(e)前回の委員会の総括所見のパラグラフ20においてすでに勧告されたように、独立国における原住民及び種族民に関するILO169 号条約(1989 年)を批准することを検討すること。
琉球・沖縄の状況
21. 委員会は、ユネスコが琉球・沖縄人の固有の民族性、歴史、文化並びに伝統を認識しているにもかかわらず、締約国が琉球・沖縄人を先住民族として認識していないという姿勢に懸念を表明する。沖縄に関して、沖縄振興特別措置法と沖縄振興計画に基づき、締約国により講じられ、実施されている措置を留意する一方で、委員会は、彼/彼女らの権利の保護に関して、琉球の代表者と協議するために、十分な措置が講じられていないことに懸念を表明する。委員会はまた、消滅の危機にある琉球諸語を保護し、促進することが十分に行われていない旨の情報および教科書が琉球民族の歴史と文化を十分に反映していない旨の情報に懸念を表明する(第5条)。
委員会は、締約国がその見解を見直し、琉球人を先住民族として認めることを検討し、彼/彼女らの権利を保護するための具体的な措置を講じることを勧告する。委員会はまた、締約国が、彼らの権 の促進と保護に関連する問題について、琉球の代表者との協議を向上させることを勧告する。委員会はさらに、締約国が、琉球の言語を消滅の危機から保護するために講じられる措置の実施を迅速化し、琉球民族が自身の言語で教育を受けること促進し、学校のカリキュラムで使用される教科書のなかに これらの者の歴史と文化を含めることを勧告する。
部落民の状況
22. 委員会は、部落民を世系に基づく条約の適用から除外している締約国の見解を遺憾に思う。委員会は、締約国が以前の総括所見で委員会が挙げたように、部落民の統一した定義を未だ採択していないことに懸念する。委員会は、部落民に対する差別に対処する措置を含め、締約国が実施した具体的措置の影響を、2002 年の同和対策特別措置の終了時に評価した情報および指標が欠如していることを懸念する。委員会はまた、部落民とそれ以外の住民の間にある根強い社会的経済的格差を懸念する。 委員会はさらに、部落民に対する差別目的で使われるような不正に入手した戸籍の悪用の報告を懸念する(第5条)。
世系に関する委員会の一般的勧告 29(2002年)を念頭に置き、委員会は世系に基づく差別は条約で完全にカバーされていることを想起する。委員会は、締約国が部落の人びととの協議により、その見解を変え、明確な部落民の定義を採択するよう勧告する。委員会はまた、2002年の同和対策特別措置の終了時にあたってとられた具体的措置、とりわけ部落民の生活状況に関する情報と指標を提供するよう勧告する。委員会はさらに、部落民を差別行為に曝すような戸籍情報への不正なアクセスから 部落民を守るために法律を効果的に使い、戸籍の不正な乱用に関するすべての事件を調査し、責任者を罰するよう勧告する。
難民および庇護希望者
23. 委員会は、特に非アジア系およびアフリカ系の難民および庇護希望者が、職場、学校、公的機関や地域社会との接触において、人種差別に直面しているとの報告について、懸念する。委員会はまた、庇護希望者が、長期にわたり収容施設内の不適切な条件下で収容されていることについて懸念する。 日本の国籍法が、無国籍の防止と削減に関する条文を有していることに留意しつつ、委員会は、締約国が、無国籍者を認定するための手続きを構築していないことを懸念する。また委員会は、在留許可のない無国籍者の一部が無期限の退去強制収容におかれてきたこと、また一部は人権侵害の危険にあることについても懸念する(第5条)。
難民及び避難民に関する一般的勧告22(1996年)の観点より、そしてアフリカ系住民に対する差別に関する一般的勧告34(2011 年)に留意しつつ、委員会は、以下の目的のために対策を講じるよう 締約国に勧告する。
(a) 地方自治体および地域社会の間で、難民および庇護希望者に関する非差別と理解を促進させること、
(b) 庇護希望者に対する収容は、最後の手段として、かつ、できる限り最短の期間においてのみ利用されるよう保証すること。締約国は、その法律に規定されているように、収容の代替手段を優先すること、そして、
(c) 無国籍者の特定と保護を適切に確保するため、無国籍者を認定するための手続きを構築すること。
締約国はまた、無国籍者の地位に関する1954年条約、および、無国籍の削減に関する1961年条約への加入について、検討するべきである。
マイノリティの言語と教科書
24. 委員会は、締約国によって提供された情報に留意しつつ、締約国がマイノリティや先住民族に属する子どもたちに対する、マイノリティの言語での教育およびその言語の教育の促進のために十分な対策を講じていないことを遺憾に思う。委員会は、本条約により保護されている日本の集団の歴史、 文化そして貢献を適切に反映させるために、既存の教科書を改定するためにとられた手段に関する情報が不足していることについて懸念する(第5条)。
委員会は、締約国が、マイノリティおよびアイヌや琉球の人びとを含む先住民族に属する子どもたちに対する、マイノリティの言語による教育、そしてその言語の教育を促進するよう勧告する。委員会は、締約国が、本条約により保護されている日本の集団の歴史、文化そして貢献を反映していない教科書を改定するよう勧告する。
ムスリム・コミュニティのメンバーに対する民族的・宗教的プロファイリング
25. 委員会は、 締約国の法執行者による、外国出身のムスリムを対象とした民族的プロファイリングにあたりうる監視活動が報告されていることを懸念する。委員会は、ある民族的又は民族的宗教的集団に属することのみを理由とした個人のセキュリティ情報の体系的収集は、重大な差別であると考える(第2条と第5条)。
委員会は、締約国に対し、法執行機関がムスリムの民族的又は民族的・宗教的なプロファイリングを利用しないよう確保することを促す。
寛容と相互理解の促進
26. 2002年の人権教育・啓発に関する基本計画のように、相互理解のコンセプトに基づく人権教育や啓発の活動など、人種的偏見やステレオタイプと闘うための締約国による努力に留意する一方で、 委員会は、マスメディアを通したものも含み、市民でない者や先住民族に対する排外的で差別的態度の高まりについての報告を懸念する(第2条と第7条)
委員会は締約国に以下のことを勧告する:
(a) 公衆への教育と啓発活動の取り組みを倍増させること、
(b) 学校カリキュラムへの人権教育の統合を続けること、
(c) マスメディアにおいて人種調和と寛容を促進し、メディアおよびジャーナリストに人権に関するトレーニングを行うこと、そして、
(d) 領域内に住む異なる民族集団の間の相互理解と寛容 の促進に関する活動を強化すること。
D.その他の勧告
その他の文書の批准
27. すべての人権が不可分であるという性質を踏まえ、委員会は締約国に、とりわけ人種差別に直接言及している、たとえば全ての移住労働者及びその家族の権利保護に関する国際条約や 2011年のILO家事労働者条約(第189号)など、まだ締約国になっていない国際人権文書の批准を検討するよう奨励する。
ダーバン宣言と行動計画のフォローアップ
28. 委員会は、締約国が次回の定期報告書に、2001 年のダーバン宣言と行動計画、および 2009年4月にジュネーブで開催されたダーバンレビュー会議の成果文書を、国内レベルで実施するために採択した行動計画やその他の措置に関する具体的な情報を含むよう要請する。
市民社会との対話
29. 委員会は、締約国が人権保護の分野で活動している市民社会組織、とりわけ人種差別と闘う市民社会組織と、次回の定期報告書を作成する際に協議を行い、対話を広げるよう勧告する。
条約第8条の改正
30. 委員会は、1992年1月15日、条約締約国第14回会合において採択され、1992年12月16日の決議47/111 として総会が承認した条約第8条6の改正を批准するよう勧告する。
第14条のもとでの宣言
31. 委員会は、締約国に、条約14条に規定されている委員会に個人通報を受理して検討する権限を認める選択的宣言を行うよう奨励する。
総括所見のフォローアップ
32. 条約第9条1および改正手続規則のルール65に従って、委員会は締約国が上記パラグラフ17、18および22に示された勧告のフォローアップに関する情報を、本総括所見採択の1年以内に提供するよう要請する。
特に重要な勧告
33. 委員会はまた、上記パラグラフ 11、19、21および23にある特に重要な勧告に締約国の注意が向くことを望む、そして、次回の定期報告書に、これらの実施のためにとった具体的措置に関する詳細な情報を提供するよう要請する。
配布
34. 委員会は、締約国の定期報告書が提出されればすぐに公衆が簡単に入手できるようにし、これら報告に関する委員会の総括所見が公用語および適切ならばその他の共通使用言語で同じように公表されるよう勧告する。
次回報告の作成
35. 委員会は、締約国がその第10・11回定期報告を、第71会期で委員会が採択した条約特定報告のガイドライン(CERD/C/2007/1)を考慮に入れながら、また本総括所見に提起されたすべての問題点 に対応しながら、単一の文書にて、2017 年1月14日までに提出するよう勧告する。委員会はまた、 締約国が条約に基づく報告に関しては最長40ページ、そして共通コア・ドキュメントに関しては60 ~80ページを守るよう促す(HRC/GEN/ 2/Rev.6、第I章パラグラフ19の統一報告ガイドラインを参照)。
(仮訳:人種差別撤廃NGOネットワーク(ERD ネット) )
⑤ 総括所見に対する日本弁護士会会長声明
人種差別撤廃委員会の総括所見に対する日本弁護士会会長声明
(2014年(平成26年)9月5日)
国連の人種差別撤廃委員会は、2014年8月29日に人種差別撤廃条約の実施状況に関する第7回・第8回・第9回日本政府報告書に対し、同年8月20日及び21日に行われた審査を踏まえ総括所見を発表した。同委員会は人種差別撤廃条約に基づき設置された国際機関であり、我が国は同条約の批准国として、委員会から勧告された点につき、改善に向けて努力する義務を負う立場にある。
総括所見で委員会は30項目に及び懸念を表明し、または勧告を行った。
とりわけヘイトスピーチについて、委員会は、集会の場やインターネットを含むメディアにおける広がりと人種主義的暴力や憎悪の扇動に懸念を表明し、適切な措置を求めるとともに、日本政府が、「人種的優越又は憎悪に基づくあらゆる思想の流布」、「人種差別の扇動」等につき、処罰立法措置をとることを義務づける人種差別撤廃条約4条(a)(b)の留保を撤回し、差別禁止法を制定することを求めている(10、11項)。本問題については、前回(2010年4月)の総括所見よりも、より一層踏み込んだ厳しい勧告となっており、この間の日本における深刻なヘイトスピーチの蔓延が国際基準に照らして看過できない状態にあることを示している。
同時に、委員会は、ヘイトスピーチやヘイトクライム規制が、それらに対する「抗議の表明を抑制する口実として使われてはならない。」(11項)と指摘しており、現在議論されているヘイトスピーチ規制立法が、権力により濫用され正当な表現までをも規制する手段として利用されることのないよう、注視する必要がある。
また、委員会はいまだパリ原則(1993年国連総会決議)に則った国内人権機関が設置されていないことに懸念を表明して速やかな法案の検討の再開と採択を勧告し(9項)、個人通報制度についても、個々の人権侵害の救済に国際人権法を生かす重要な制度であり、受諾宣言すべきであると奨励している(31項)。
前回に引き続き、委員会は、家庭裁判所の調停委員は権力を行使するものではないとして、外国籍調停委員の採用を再検討するよう勧告した(13項)。
さらに、委員会は、技能実習制度の改革(12項)、慰安婦問題(18項)、高等学校の無償化についての朝鮮学校の排除(19項)、部落問題(22項)、アイヌ問題(20項)、沖縄問題(21項)、外国人やマイノリティの女性に対するDV問題(17項)、ムスリム監視(25項)、移住労働者(12項)、難民庇護希望者等の個別問題(23項)等への取組が不十分である旨指摘した。
日本政府は委員会の表明したこれらの懸念、勧告を真摯に受け止め、検討するとともに、さらなる改善措置に向け真摯に取り組むべきである。
当連合会は、委員会が指摘した事項についてその実現のために政府との対話を継続し、これらの課題の解決のために全力を尽くす所存である。
2014年(平成26年)9月5日
日本弁護士連合会
会長 村 越 進
(出典:日本弁護士連合会)
⑥ヘイトスピーチに関する判決の報道
(1)京都地裁
ヘイトスピーチに賠償命令 京都地裁、初の判決
(2013.10.3日本経済新聞)
朝鮮学校の周辺で街宣活動し、ヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる差別的な発言を繰り返して授業を妨害したとして、学校法人京都朝鮮学園が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟の判決で、京都地裁(橋詰均裁判長)は7日、学校の半径200メートルでの街宣禁止と約1200万円の賠償を命じた。
橋詰裁判長は、街宣や、一連の行動を動画で撮影しインターネットで公開した行為について「(日本も批准する)人種差別撤廃条約で禁止した人種差別に当たり、違法だ」と指摘。「示威活動によって児童らを怖がらせ、通常の授業を困難にし、平穏な教育事業をする環境を損ない、名誉を毀損した」として、不法行為に当たると判断した。
原告弁護団によると、特定の人種や民族への差別や憎しみをあおり立てる「ヘイトスピーチ」をめぐる損害賠償や差し止め訴訟の判決は初めて。原告側は一連の発言を「ヘイトスピーチ」と主張していたが、判決は触れなかった。
判決などによると、在特会の元メンバーら8人は2009年12月~10年3月、3回にわたり京都朝鮮第一初級学校(京都市南区)近くで「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「スパイの子ども」などと拡声器で連呼した。
原告側は、マイノリティー(少数派)が自らの属する民族の言葉で教育を受ける「民族教育権」を侵害されたと主張。第一初級学校を統廃合した京都朝鮮初級学校(同市伏見区)の周辺での街宣禁止や3千万円の損害賠償を求めていた。
在特会は在日韓国・朝鮮人の排斥を掲げる団体で、ホームページによると本部は東京にあり、会員数は約1万3800人。訴訟では学校が市管理の公園に無許可で朝礼台などを設置したことへの反対活動とし「表現の自由」を主張した。
街頭宣伝をめぐっては、在特会の元メンバーら8人のうち4人が威力業務妨害罪などで有罪が確定。元校長も公園を無許可で占用したとして罰金10万円が確定している。
(2)大阪高裁
ヘイトスピーチ訴訟、高裁も賠償命令 在特会の控訴棄却
(2014.7.8 日本経済新聞)
ヘイトスピーチ(憎悪表現)と呼ばれる差別的発言の街宣活動を繰り返し授業を妨害したとして、学校法人京都朝鮮学園が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(森宏司裁判長)は8日、学校の半径200メートル以内での街宣禁止と約1200万円の賠償を命じた一審判決を支持し、在特会側の控訴を棄却した。
人種や国籍などで差別するヘイトスピーチを巡る高裁判決は初めてで、法規制の是非が改めて議論になりそうだ。
昨年10月の一審・京都地裁判決は、街宣や一連の行動を動画で撮影しインターネットで公開した行為について、日本も加盟している人種差別撤廃条約で禁じる人種差別に当たると判断。「児童らを怖がらせて通常の授業を困難にし、平穏な教育環境を損なった。学校法人の名誉も毀損した」と認定した。
判決などによると、在特会の元メンバーら8人は2009~10年、当時京都市南区にあった京都朝鮮第一初級学校近くで「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「スパイの子供」などと拡声機で連呼した。
原告側は、マイノリティー(少数派)が自らの属する民族の言葉で教育を受ける「民族教育実施権」を侵害され、名誉も毀損されたなどと主張。第一初級学校を統廃合した京都朝鮮初級学校(同市伏見区)周辺での街宣禁止や、3千万円の損害賠償を求めて提訴した。
一審判決によると、在特会は「在日問題を広く一般に提起し、いわゆる在日特権をなくすこと」を目的とする団体。控訴審では「国籍による区別を主張しており、人種差別にも名誉毀損にも当たらない」などとして、「表現の自由」を強調。賠償額も「制裁的、懲罰的で高過ぎる」と訴えた。
街宣活動を巡り、刑事事件では、在特会側の4人が威力業務妨害罪などで有罪が確定している。
(3) 最高裁
ヘイトスピーチ、在特会の損賠責任認める 最高裁
(2014.12.11 日本経済新聞)
ヘイトスピーチと呼ばれる差別的発言の街宣活動で授業を妨害されたとして、学校法人京都朝鮮学園(京都市)が「在日特権を許さない市民の会」(在特会)などを訴えた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(山崎敏充裁判長)は10日までに、在特会側の上告を退ける決定をした。学校の半径200メートル以内での街宣活動の禁止と、約1200万円の損害賠償を命じた一、二審判決が確定した。
裁判官5人の全員一致の判断。人種や国籍で差別するヘイトスピーチの違法性を認めた判断が最高裁で確定したのは初めて。法規制の是非などが議論になりそうだ。
一、二審判決によると、在特会の元メンバーら8人は2009~10年、当時京都市南区にあった京都朝鮮第一初級学校近くで、拡声器を使って「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮半島へ帰れ」などと怒声を浴びせる街宣活動を繰り返した。街宣活動を撮影した映像はインターネット上で公開された。
13年10月の一審・京都地裁判決は、街宣活動について「日本も加盟している人種差別撤廃条約で禁じる人種差別に当たる」と判断。過激さを演出するため、あえて違法性の高い行為に及んだとして「同条約4条で犯罪として取り締まるべきとされる極めて悪質な人種差別行為」と批判した。
今年7月の二審・大阪高裁判決も、一審の判断を維持したうえで「差別意識を世間に訴える意図で、公益目的は認められない」と指摘。「発言は公共の利害に関する事実の論評だ。違法性はなく人種差別にも名誉毀損にも当たらない」などと主張する在特会側の控訴を棄却した。
判決などによると、在特会は「在日問題を広く一般に提起し、いわゆる在日特権をなくすこと」を目的とする団体。違法とされた街宣活動には同様の思想信条を掲げる「主権回復を目指す会」なども参加した。
今回の訴訟で問題となった09年の街宣活動を巡っては、在特会側の4人が逮捕され、威力業務妨害罪などでの有罪が確定している。
在特会の八木康洋会長は最高裁の決定を受けて「最高裁が政治的な表現の自由に向き合わなかったことは残念」とコメントした。